第4話4
「
が、あまりに
この二、三日入れ替わり立ち代わり、拝み屋がひっきりなしと深町家を訪れては何やかやと探りを入れてくる。
嘘鳥は喉を痛めて声を出せない事になっているから、連中の相手をするのはもっぱら
「お疲れさまでございました」
お重のねぎらいは、最後の客が帰っていった事を知らせる
―待ってました!
環は急ぎ千早を脱ぎ去りそこらに放り出すと、
裏庭の先にある丈高い
「…
一瞬であれ、環を天女の如き容貌を持った美女の
深町家の風呂はささやかながらも本物の
「祖父が見つけて誰にも秘密で整備したものです。ウチの
入浴用の
「美味い。いくつでも食えるな、これは」蟾は湯に
八咫は一瞬だけ環の顔を
「いいぞ、お前は本当に食いっぷりがいい」蟾が満足げな声を上げる。どうやら蟾は八咫を気に入っているらしい。
八咫にしても、不思議と蟾に対して何の抵抗もないようなのだ。
―まぁ。それはさておき。
「深町さん。かくりょの
「…わたしには正直、分りません。嘘鳥は何かを見たか感じたようではありますが」
嘘鳥は目下のところ、かくりょの生き残りが眠る座敷に詰めてその後の経過を見守っている。しかし、
依頼主である役所は今回の奇禍については原因
拝み屋と聞いて環が一番に思いつく言葉は、「いかがわしい」である。
とは言え、これは別に環自身の
ぶぇんぶぇんぶぇん
子供の頃、遊び仲間と影踏みやら、かくれんぼに
「あれ、なんの音?」
「おめえ知らんのか?ありゃあ、
こまっしゃくれた子で大人の
市子が本当にいんちきで、出鱈目だったかどうかはわらない。
ともかく拝み屋とは、見えないものを
この件を旨く
「まあ、しばらくは互いの腹の探り合いというところだ」蟾はまるで、
この
…そもそも、蟾の
環は肩先どころか顎まで湯に沈めてほぅと息を吐いた。
「ふぅ…」
嘘鳥はわざと声に出して溜息をついた。
ここ数日、誰とも口をきいていない。せめて自分の声がまだ出るものなのかどうか試してみたい気になったのだ。
要の眠る座敷で、彼の枕元に座して今日で三日目となる。が、彼の魂が
眠りは死に似ている。―あるいは眠りとは、小さな死であるとも言えるかも知れない。
死んでしまえば時が意味を失う。
まず向かうべく未来が消失し、当人の記憶としての過去が失われ、現在が停止する。これは眠りについてもよく当てはまる。なぜなら、眠っている間はそれが
要は本当の死と近いくらいにこの世を離れて久しい。
かくりょの障りとやらがあるものなのか、ないものなのか、彼の魂に直接問いかけてみない事にはわからない。それには彼の閉じた
ふぅ…。
まさか要の
かそけき希望ではあるけれど、
どん、とその時、嘘鳥の身体に強い
「火事!?」
とっさに身体が動き、裸足のまま深町家の庭先に飛び出した。燃えるような
「慌てるな、よそ事だ」
「でも、どこかが火事には違いないのでしょう?」
「そう…」
町長の家が
そう聞かされて、それはご
ただでさえ
「多分、深町の家はわたしの代でお終いだろうよ。でも、わたしが居る以上はまだ、ここは
昔は栄えた家だったのかも知れないとの見立ては当たっていた。深町家が
「本陣の
チョビ髭だけが飛び抜けて目立つ小男は
「平岩さん、大変でしたね」環は
「まさか私も、こんな目に遭うとは思いも寄りませんでしたな。昔ッからアイツには
環は
そこへお重がかしましい声を立てながら、小ぶりな握り飯をぎっしりと乗せた大皿を運んで来た。「まあまあ、なにはともあれ腹ごしらえですよ。昔ッから腹が減っては
お重の
環にとってここは異郷であり見知らぬ顔ばかりのはずなのだが、ふとその中に見知った顔があるのを見つけた。
「あら」相手も環に気がついたようだ。
「
「まあ、
ふたりの
「知り合いというほどでは…。お顔を見知っていたという程度で。先日、この方が父を訪ねていらした際にお茶をお出ししただけで、お名前すら存じません。何でも父の古い知り合いのお弟子さんだとかで」
「ほら、環さん。宅に来て早々に蟾さんが
「え。でもその時確か、お重さんはきさらぎ先生とかなんとか…」アザラシ殿の
「ああ、それは父の
「きさらぎ先生はね、この土地の歴史を研究なさっている
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