第38話 狩人ハッタと不思議なキノコ
ザーマシティは、今、みぞうゆう。もとい、未曾有の危機におちいっていた。空中には、白い雪のように胞子が舞い。それが地面に積もっていた。建物と、建物の間にも、蜘蛛の巣が張られるように、胞子がまとわりつき、所々に、胞子核を形成している。なんだっけ腐海?
皆は胞子を吸い込まないように、毒ガス用のマスクを着けている。胞子を吸い込むと、胞子に操られ胞子人間になってしまい、ただひたすら動き回り、胞子を吐き出すだけの人になってしまうようだ。
「先生! 胞子人間だ。お願いします!」
わたしは、オサダさんに呼ばれ駆けつける。オサダさんに、賢者グレン、魔術師ユナが忙しそうに働いている。炎で、胞子を焼き払っているのだ。だが、ただ焼き払うと、人間まで焼き払ってしまうので、探索しながらの地道な作業だ。
そして、胞子人間が見つかると、わたしの仕事だ。胞子のみを焼き払って、元の人間に戻す。
「地獄の業火よ、煉獄の炎よ不浄なる物を焼払え!」
「ありがとう先生。本当に先生がいてくれて助かったよ。しかし、魔法まで操れるって先生凄いね」
「いえいえ、ただ地獄の炎を召喚しているだけですから」
「ヘ〜」
なんでこうなったのかと言うと、先週のことだった。
「ハッタよ見事だ。もう俺が教えることはない!」
「ありがとうございます!」
「と言う訳で、卒業試験だ。デスバレーに、ナイフ一本だけ持って行き。1週間生き残れ!」
「イエスサー!」
「寒い、寒いな〜。さすがデスバレー。動物なんていないや。あ〜あ今日も食事は蠍だけか」
ハッタは、全裸で、砂の中に潜り暖をとっていた。放置された場所から、少しでも食料があると、思われる方に移動続けて3日目。しかし、見渡す限りの死の大地。生き物と言えば、たまに見かける甲虫と、蠍だけであった。そして、木もないので、火もおこせない。生でかじりつく。かなりハードだ。
「俺生きて出られるかな?」
狩人マスターゴトーによって鍛えられたハッタであったが、流石に過酷な環境で、不安になっていた。
しかし、翌日事態は好転する。
「やった、緑だ!」
ハッタの目の前には、100m程の断崖があった。しかし、その頂上には、確実に緑が見えた。
「よし!」
ハッタはさっそく、ナイフを口にくわえると、断崖を登り始めた。するすると、勢いよく登る。そして、10分後頂上にたどり着いていた。そこには、
「なんだ苔か」
ハッタは、少しがっかりした。野草がはえていると思っていたのだが。しかし、食べれる苔もあるし、乾燥させれば、火も起こせる。そして、苔を絞れば水も飲める。かなり楽になった。そして、さらに歩いていると、
「ん? これは」
それは、キノコだった。これって食べれるんだっけな? 師匠の狩人マスターゴトーの言葉を思い出す。
「これは、赤い帽子をかぶった配管工のおっさんが、大きくなった幻覚を見るキノコだ!」
これは、食べれないな。次は、
「つまんない話題が、面白く聴こえるキノコだ。笑い止まんないよ」
これもだめだ。そして、これは記憶にないな。なんだっけ? 再び師匠の言葉を思い出す。
「わからなければ、食べてみることだ! 体がしびれてきたら毒だ!」
「よし、食べてみるか!」
口に放り込んでみた。その時、師匠に言われていた、大事な事を忘れていた。
「食べる時は、煮るか、焼くか、茹でるかしろよ」
そして、味は。
「何これ? 旨っ!」
そのキノコはとても美味しいキノコだった。しかし、周囲を探したがこのキノコは一本しかないようだった。ハッタは、残念に思ったが、翌日目覚めると、信じられないことが、起きていた。体から、キノコがはえてきたのだった。
最初は一本だけ。それを抜いて食べると、また数時間後にはえる。そして、食べる。はえてくる間隔は徐々に縮まっていき。そして、キノコのおかげで無事7日が経過した。
「よし! 見事だ! ハッタおめでとう」
「ありがとうございます」
「だが、お前なんで全裸なんだ?」
「師匠が、ナイフ一本だけ持って、て言ったじゃないですか」
「いや、俺服脱げって言ってないだろ」
「そうでしたっけ?」
その時だった。ハッタの体から、キノコがはえる。それを無意識で抜いて口に入れ食べ始めるハッタ。
「おい、どうしたんだ? そのキノコは」
「いや、取って食べたら、体からはえるようになったんです。師匠知ってます?」
「いや、俺も知らないな。体は、大丈夫なのか?」
「はい」
「ならいいが。俺もそこまでキノコ詳しくないから、俺の師匠に聞いてみるか」
狩人マスターゴトーは、一応気になって、自分の師匠に、手紙を送る。そして、数日後、手紙の返事が来た。
「マスター! 先生いる?」
キャットハウスに慌てて飛び込んでくる狩人マスターゴトーの姿があった。
「どうしたんですか? 珍しいですねゴトー君が慌てるなんて。先生だったら、目の前に」
「あっ、先生。手を貸して頂きたいんですが」
「どうしたんですか?」
「ハッタが、ハッタの奴が!」
ゴトー君に連れられて、ハッタ君の家までくる。特に異常無いように見えるが。裏にまわると、ガラス窓にカーテンが無く、中が丸見えだが。真っ白で何も見えない。
「どうなってんの、ゴトー君?」
「どうやらハッタの奴。伝説のキノコを食べたみたいで」
「伝説のキノコ?」
「はい。俺も師匠に聞いて始めて知ったんですが、生で食べると、人間に寄生して、徐々に胞子を伸ばして、最後に人間を乗っ取って、胞子を巻きちらかせるって、キノコだそうです」
「迷惑なキノコだね」
「はい、師匠も迷惑なキノコだから排除して、絶滅させたと思ってたんだけどって言ってました」
「ふーん。で、どうすれば良いの?」
「先生の力で、胞子だけ除去できませんか?」
「出来るよ。地獄の炎で焼き払う」
「それって、胞子だけでなくハッタも燃えませんか」
「大丈夫、大丈夫。地獄の炎は、不浄なるものだけ焼き払うから」
「えっと、もしハッタの奴が不浄だったら、やつも燃えちゃうんじゃ」
「大丈夫だって。生きてる人間は燃えないよ」
「ヘ〜。便利なんですね。じゃ、先生お願いします。そうだ、これつけて下さい」
「何これ?」
「ガスマスクです。胞子吸っちゃうと胞子人間になっちゃうので」
「だったらわたしは、大丈夫です。不浄な物は体内に入れないんで」
「えっ、便利ですね」
「では、やりましょう。ゴトー君ドア開けてください」
ガスマスクを装着したゴトー君が、ドアを勢いよく開ける。白い胞子が、大量に吹き出し、空中に舞い上がる。そして、わたしは、炎を放つ。
「地獄の業火よ。煉獄の炎よ不浄なる物を焼払え!」
「あれっ? 俺どうして」
「良かった、ハッタ」
抱き合う師弟を見つつ、わたしは、一抹の不安を抱いていた。
そして、翌日。予想通りの、大惨事になった。それを魔術師達と協力して、焼き払い、どうにか。街に、胞子は無くなっていた。
「細かく捜索してください。残っていたら、再度同じことが」
狩人マスターゴトーの指示で、街の隅々まで、探したが見つからなかった。
「終わりましたかね?」
「大丈夫だと思うんですが」
しかし、その頃、密かに生き残った胞子は、キノコに戻り、新たなる獲物を待っていた。そのキノコを、採取する、男が1人。
「なんだよ、美味そうなキノコだな!」
勇者カミヤは、キノコを摘むと一口に食べた。そして、その強力な胃酸によって、文字通り伝説のキノコは、消滅した。
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