第33話 続勇者カミヤと魚釣り

 勇者カミヤが、パンツいっちょで、海から上がってくる。手には聖剣一本。その瞬間勇者カミヤに、船長が掴みかかる。



「わたしの、わたしの船になんてことしてくれるんですか!」


「ちょうど良かったじゃん、あのボロ船。買い替え時だろ!」


「思い入れがあるんだよ! この野郎」



 船長は、ポロポロと涙をこぼし始めた。すると、オサダさん


「いーけないんだ、いけないんだ! カーミヤさんが泣かした〜」


「うるせ、うるせ! あーわかったよ、わかりましたよ。弁償すれば良いんでしょ、弁償すれば!」


「ですが、俺は明日からどうすれば? 明日もお客さんいるんですが?」


「行くぞ! 中古漁船買いに行くぞ!」



 そう言うと、船長と共に、どこかに去っていった。その後にオサダさんが続く。



 さて、わたしはどうしよう?



 振り返ると、ゴトー君と、ハッタ君が何やらロープを引いていた。そして、



「よし! かかった」



 そして、2人してロープを引き始める。しばらく見ていると、砂浜にマスターが上がってきた。体には、無数のソードフィッシュが噛みついていた。


 ズリリ、ズリリ、ドシャ!



「大漁だね」


「先生、それよりも、回復をお願いします」



 わたしは、ゴトー君に言われて、慌てて神に祈る。


「天にまします我らが父よ。あっ!」


「どうしました?」


「マスター、魔族だった!」


 見ると、マスターの体は、端の方からサラサラと、風に吹かれて崩壊し始めていた。


「先生、何してんですか? 早く戻して下さいよ。マスター、死んだら俺は、どこで食事すれば良いんですか!」


「えっと、冥界神の名において命ず。以下省略!」




 すると、マスターの体は元に戻り、意識を取り戻した。そして、マスターは、



「カミヤ〜、カミヤはどこだ〜?」


「カミヤさんなら、船買いに行きましたよ」


「ドッチ?」


「アッチ!」



 すると、マスターは走って消えていった。










「マスター、これは絶対日本酒でしょ」


 キャットハウスにオサダさんの声が響く。


「ですよね」


「美味しいですね。ソードフィッシュ。特にこの刺し身美味しいですね。マスター」


「でしょ」


「でも、先生良くワイン飲みながら、魚食べれますね?」


「オサダさん、残念ながらこればっかりは、体質なので」


「残念だね。これは絶対日本酒だよ」




 正規には開けていないので、店には、ゴトー君、ハッタ君、オサダさん、そして、一応カミヤさんと、わたし、マスターで、ソードフィッシュを食べつつ、お酒を飲んでいた。





 わたしは、皮目を炙ったソードフィッシュの刺し身を食べる。口の中に入れると、炭の香りが少ししたあと、ソードフィッシュの白身の味と、少し炙られ、柔らかくなった、皮と、くどくない脂の味が口に広がる。





 他にも、塩焼きに、ムニエル。ソードフィッシュづくし。



「ほれ、ひゃわりゃきゃくてひょいね」


「えっ、カミヤさん、何か言いました?」



 ゴトー君が、聞き返す。カミヤさんの顔は、魔獣王ウーマ・ジョーとなった、マスターに殴られてボッコボコになっていた。治そうとしたら、オサダさん達に止められてそのままになっている。


「先生、すみません。カミヤさん治してあげてください」


「おっ、マスター優しいね!」


 オサダさんが言うと、マスターは、ニヤリと笑って。


「そうですよ。わたしは優しいんです」




 わたしは、神に祈って、カミヤさんの傷を治す。すると、マスターは、カミヤさんの前に皿を置く。皿の上には、大きな円形の焼き物。魚かな?


「カミヤさんには特別メニューです」


「あんがとね、マスター!」




 カミヤさんは、食べ始めた。そして、



「うまっ、何これ」


「シーサーペントです。まだまだいっぱいありますから、どんどん食べてくださいね」


「えっ、美味しいけど、いっぱいは、いらないな。みんなで食べてよ」


「いえ、カミヤさん専用メニューですので、遠慮なく」


「いらねーよ。こんなの」


「こんなのって、とって来たのは、カミヤさんでしょ?」


 ゴトー君につっこまれ、いじけるカミヤさん。


「だってさ、みんなだけ、釣ってさ」


「俺が魚釣り教えてあげましょうか?」


 ハッタ君がとどめをさす。



「ああ、うるせ、うるせ。いいもんね〜。ふん、どうせ俺はよ、嫌われもんですよ!」


「自覚あったんですね」


「先生、それ言っちゃだめ!」


 勇者カミヤは、完全に落ちこんだ。

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