第32話 勇者カミヤと魚釣り
ある日のこと、カウンターには、わたし、勇者カミヤ、狩人マスターゴトー、そして、その弟子ハッタの4人が並んでいた。最近多いんだよな。この並び。
賢者グレンが結婚相談所に登録して、お見合いで忙しく。その為、グレンチームも来ていない。オサダさんは、真面目に冒険者をやっていて、勇者アオ達は、冒険中。というわけで、このメンバーだ。
「そう言えば、俺達この間釣り行って来たんすよ」
ゴトー君が、釣りの話を始めた。
「へー、釣れた?」
「先生、結構釣れたんすよ。持って来れれば良かったんですけど。旨すぎてその場で捌いて、全部食べちゃったんですよね」
「ゴトー君さ。この時期だと、あれだよね、マグロとか、鯛がいいっしょ!」
「カミヤさんも、釣りやるんですか?」
「ちょっとだけだけどね! だけど、ほら、俺って才能のかたまりでしょ。一人だけ釣っちゃてさ! 恨まれちゃうのよ」
「釣りの才能もあるんですね、カミヤさん。いいな、釣り行ってみたいな」
「まあね。何せ借りた竿でちょちょってやったら、マグロも、タイも釣れちゃったからね。そうだ! 先生釣り行こうよ」
「良いですね。俺もご一緒しても良いでしょうか?」
「ゴトー君なら、大歓迎だよ! で、その隣の影の薄いえーと、誰だっけ、その」
「ハッタですか?」
「そうそう、ハッカ君もさ、一緒に行こうぜ!」
「はい、よろしくお願いします。ただ、僕の名前は、ハッタです」
「なんだよ。細かい奴だな! 先生は、もちろん行くよな」
「はい、もちろん」
「じゃ、後はマスターと」
「わたしは、遠慮します」
「なんでだよ! マスターいねーと、その場で魚捌いて食べれねーだろ」
「なんと言われようと、行きません。船酔うんですよ」
「それじゃ、強要できないですね」
「ええ、皆さん楽しんできて下さい」
そして、数日後釣りの日、ザーマシティから海へは遠いので、船宿イチロー丸と言う場所に現地集合と言うことになっていたのだが。あの後、オサダさんも参加になって、わたし、ゴトー君、ハッタ君、そして、オサダさん、カミヤさん、そして、その肩には、ぐったりとしたマスターが、担がれていた。
「マスターどうしたんですか?」
「えっ、先生いるから酔っても大丈夫かな〜って思って連れてきた!」
「カミヤさん、それ連れて来たっていうよりは」
「そうなのよ、オサダさん! 拉致ってきた!」
「大丈夫ですか、それ?」
「大丈夫、大丈夫、それよりさ、乗ろうよ!」
そういうわけで、わたし達は、船に乗る。今回はゴトー君のツテで船を貸し切ったので、乗るのはわたし達だけだ。
船は、波をたてつつ、風をきって進む。うん、とても気持ち良い。その時だった、船の甲板に寝かされていた。マスターが、飛び起きる。そして、
「おぐっ、ウエエー」
「マスターさー、撒き餌まだ早いよ」
「カミヤさん、ウエ、わたし、グッ、言いましたエグ、よね」
「マスター、いいから、寝てなよ」
ズドン!
船の上で凄まじい音が響き、マスターが倒れる。見ると、カミヤさんの右腕が、マスターの腹にめり込んでいた。
「あれだな! マスターは船首像の位置に置いとくか! 良い撒き餌になって魚寄ってくんじゃね」
カミヤさんは、そう言うと、マスターを縄でぐるぐる巻にして、船首に固定した。
さて、漁場に到着したようだ。船長の声で皆が竿を下ろす。
「水深55から65」
わたしもちろん、餌のサバの切り身を針につけると早速釣りを開始する。餌は、短冊状で、綺麗に真っ直ぐ針についていた方が、釣れやすいそうだ。今日の獲物はソードフィッシュ。
わたしは、針をいったん、底に落とすと、魔導リールで、巻き上げ。水深を調整して、細かくシャクっては巻く。シャクるって言うのは、竿を上げ下げすることを言うようだ。
「おおっと、来ましたね」
さっそく、ゴトー君が釣り上げたようだ。見ると、銀色の本当に剣のように長い魚が釣れていた。とても綺麗な魚だ。が、口からは、とても鋭い歯が見えた。
「掴むときは、口から離れた位置を掴んで、針を外して」
船長の指示が飛ぶ。と、その時、わたしの竿に僅かな、力を感じた。釣れたのかな? 魔導リールで巻き上げると、下に引っ張られるような抵抗を感じる。
そして、
「釣れた!」
わたしの手には、銀色の長い魚がいた。
「とても太くて良いね。ドラゴンだね」
船長が、褒めてくれた。その後も、ゴトー君が、オサダさんが、ハッタ君が、わたしが次々と釣り上げる。そして、船長も上機嫌だ。
「今日は爆釣だね」
それぞれ、10本以上釣り上げて、飽きてきた。わたしは、立ち上がると、周囲を見回した。見ると、皆が盛り上がる中、カミヤさんが、真っ赤な顔をして、必死に釣っている。
わたしは、カミヤさんに近づくと
「カミヤさん、何匹釣れました?」
「ぜ、‥‥ろ」
「えっ?」
「ゼロだよ!」
「えっ、カミヤさん釣れてないんですか」
すると、皆が集まってきた。そして、ハッタ君が
「カミヤさん、釣り方教えてあげましょうか?」
「ああ、うるせうるせ! ああ、釣れば良いんでしょ、釣れば!」
そう言うと、カミヤさんは、服を脱ぎ始めた。そして、下着1枚になると、聖剣をくわえ、海に飛び込んだ。
そして、数分後。カミヤさんが上がってくる。手に何かを持って。そして、それを勢い良く船に投げ込む。
「捕れたぜ! 俺のが一番でかい! 文句ねえだろ!」
それは、20mはある。シーサーペントだった。重みで船が傾く。
「こら! そんなもの、船に乗せるな! 船が沈むだろ!」
「うるせー! 俺が獲った獲物だ!」
わたしは、自分の荷物を持つと、そっと浮かび上がった。オサダさんも、さっさと海上を走り。ゴトー君は、海岸までのロープをすでに張っていた。船長も船から海に飛び込んだ。
わたし達が、海岸にたどり着くと、シーサーペントを乗せた船は、海の中に消えていった。あっ、マスターもだ!
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