第34話 戦士タクの嘆き

「は〜」


「タクため息ついてどうしたんだ?」


「最近、アオ達が冷たいんですよ。俺が何やったっていうんですよ」


「あれじゃね。存在が駄目なんじゃね!」


「カミヤに言われたくない〜」


「どう意味だ、この野郎!」




 ある日のキャットハウス。わたしは、陽気な勇者カミヤと、憂鬱そうな戦士タクに挟まれるようにカウンターに座っていた。そして、マスターも話に加わる。



「何か失敗したんじゃないんですか?」


「そりゃ、人間ですから、失敗の1つや2つありますよ。だけど、たいした失敗じゃないし」


「そうなんですか。ウ~ン」


「だから、お前の存在が邪魔なんだって!」


「存在が邪魔なのは、カミヤだろ!」


「なんだと、この野郎! やるか!」


「おお、やってやろうじゃないか、表出ろ!」



 うん、流石に両側に立たれて、騒がれるとうるさい。



「カミヤさん」


「ん? 先生どうったの?」


「うるさい。おすわり!」


「はい」


「や~い、怒られてやんの!」


「うるさい」


「はい、すみません」


「タク、馬鹿じゃね」


「カミヤだって、一緒だろ!」


「うるさい」


「はい」


「すみません」






 平和に会話が終わったところで、マスターがタク君に話す。



「今日、アオ達も来るって言ってましたし、不満あるのか聞いてみるので、ちょっと隠れていたら良いんじゃないんですか?」


「おっ、いいね〜。タクに対する駄目出し大会になったりして」


「俺は、カミヤほど嫌われてません〜」


「俺だって、嫌われてないよ、ね、先生?」


「ウ~ン?」


「ハハハ、カミヤだせ〜」


「うるせー、この野郎!」


「うるさい」


「はい」







 こうして、戦士タクは、隠れて、勇者アオ達が来るのを待った。そして、勇者アオ、魔術師ユナ、剣聖シロが店に入ってきた。



「お疲れ様です。今日タク来てます?」


「お疲れ様。いや、まだだけど」


「そうですか」


 3人は、カウンターに腰掛けて注文をする。



「俺は、ビール。親父は?」


「俺もビールもらうかな」


「わたしは、なんかアルコール入っていない美味しいやつ」


「なんだ? 子供でも出来たか」


「カミヤ、違うから! 帰ってから、やらないといけない仕事があんの、タクのせいで!」


「夏蜜柑漬けてあるから、ソーダ割で飲む?」


「マスター、最高。それ、下さい!」


「はいよ。で、タクのせいでって何?」



 マスターは、3人のお酒を用意し始めた。



「冒険者ギルドに提出する、始末書ですよもちろん、わたし達のミスも、1つ、2つはあるんですけど、ほとんどは、タクの失敗」


「あいつ馬鹿じゃね。どんな失敗すんの?」


「えーと、魔物と間違えて、人間襲ったり」


「力加減間違えて店の物壊したり」


「ちゃんと話聞いてないで、依頼者怒らせたり」


「酔って、店の物壊したり」


「優先権がある、他の冒険者の獲物とったり」


「迷子になったり」


「ハハハ、子供かっていうの!」


「カミヤさん、子供の方がましですよ。この間、わたしがタクに戦闘訓練教えようとしたら、なんて言ったと思います」


「馬鹿タク、親父さんに向って偉そうなこと言ったの?」


「そうなんですよ、カミヤさん。俺はやればできるんで、大丈夫ですって。駄目そうだから、教えようとしたのに」


「本当にあいつやる気ないんですよ。知ってます。冒険の準備も前もってしないんですよ」


「わたしが地図買ったり、必要そうな道具買ったり」


「俺が、情報収集して、作戦たてて。タクは、集合の朝、眠そうな顔で来るだけって、おかしくないですか?」


 マスターは、3人の前に飲み物を置くが、興奮状態になっている、3人の話は終わりそうになかった。


「この間も、昼時になって、わたしに腹減った〜、飯まだって、わたしは、あんたの奥さんじゃないし、自分で用意しておけよって話ですよ」


「それで俺達が注意すると、お前達は、冷たい、友達がいがないって言われるし」


「もう、パーティから、出した方が良いんじゃないんですか?」


「先生も、そう思いますか。俺達もちょっと考えているんですよね。最近は、親父もいるし、修行終わったら、ハッタに入って貰えれば」


「わたしは、いやだけど」


「だそうですよ。タク君」


「えっ!」



 顔が真っ青で、幽鬼のようになった戦士タクが出てくる。



「俺だって、俺だって、頑張っているんだよ」


「いや、違うから」


 全員の声がハモった。

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