第24話 勇者カミヤVS大魔王フカーノ

 勇者カミヤはついに最深部に到達した。目の前には、大魔王フカーノ。物凄く高い玉座から飛び降りる。その身長は勇者カミヤの2倍はあった。魔族特有の、血色の悪い白い肌と、赤い目そして、銀髪の髪……は、キャップの下に隠れて見えない。なぜか頭には、キャップをかぶっている。



「フハハハハ、良く来たな! 勇者カミヤ、弟のかたきとらさせてもらうぞ!」


「うるせー! はげ! あんな雑魚魔王の兄貴が何偉そうなこと言ってんだよ!」


「はげではない! はげって言ったほうがはげなんだぞ!」


「俺ははげてない! ただちょっと薄いだけだ!」


「俺もそうだ! 髪が薄いだけだ。よし良いだろう。どちらが髪が多いか勝負だ!」


「望むところだ!」



 勇者カミヤは、兜が脱ぎ捨てた、そして、大魔王フカーノもキャップを脱ぎ捨てる。お互いのやや薄い頭髪が、あらわになる。そして、


「1本!」


「2本!」



 向かいあって気合を入れた勇者カミヤと、大魔王フカーノは、自分の髪を一本ずつ抜き始めた。



 勇者カミヤと、大魔王フカーノ、史上最低の戦いが幕をあけた。







 狩人マスターゴトーは、息を潜め闇に消えていた。大きな空間中央には、落ち着かない表情で、周囲を見回す狩人ハッタの姿があった。その耳にゴトーの声だけが届く。特殊な発声法なのか、周囲に声は聞こえない。



「ハッタ、お前は動くなよ」


「イエスサー」


「お前が撃たれた瞬間、俺がやつの居場所をつきとめ、やつを射殺す」


「えっと、それって」


「返事は、イエスサーかノーサーしか認めん!」


「ノーサー」



 そう言いながら、狩人ハッタは、出口に向かって駆け出した。その瞬間一条の閃光がハッタの体を貫く。そして、狩人マスターゴトーは、静かに矢を射る。



「ウッ! ドサッ!」



 空間に人のうめき声と、倒れる音が響く。



「フッ強い敵だった。良くやったハッタ」


「……」



 ハッタからの返事はなかった。


「あっ、やべっ!」



 狩人マスターゴトーは、慌ててハッタを担ぐと出口に向かった。







「ハハハ、まだまだだな」


「クッ 親父強えー。クソっ」


「本当だよ、魔法も避けちゃうし、タクは役に立たないし!」



 見ると、戦士タクは転がって微動だにしていない。勇者アオは傷だらけでなんとか立っていた。魔術師ユナは、少し離れた場所から魔法攻撃をかけていたようだが、それらも剣聖シロは全て避けたようで無傷。



 勇者アオは、再び勇気を振り絞り斬りかかる。魔術師ユナも、サポート魔法をかけて、勇者アオを援護する。勇者アオの防御力が、攻撃力が、素早さがあがる。



 一般人から見たら見えないようなスピードの斬撃が繰り出される。だが、剣聖シロもそれらを全て紙一重で、かわす。かわす、かわす、かわす、かわす。そして、日本刀を抜き、返して峰打ちで、打つ、打つ、打つ、打つ、打つ!



「グッ!」



 うめき声をあげ、勇者アオが膝をつく。



「終わりだ」



 剣聖シロの、低く冷静な声が響く。


「アオ!」


 魔術師ユナが叫ぶ! そして、勇者アオは、目を閉じた。





 …………。しかし、いくら待っても、一撃はこなかった。勇者アオは、そっと目を開ける。目の前には、剣聖シロが立っていた。


「どうしたんだアオ?」


「いや、親父終わりだって」


「ああ、終業時間だ」


「へっ?」


「帰るぞ、アオ」


「ああ」



 剣聖シロは、出口に向かって歩き出した。勇者アオは、慌てて後を追う。魔術師ユナもついていった。








 そして、ここにも一つの戦いの決着がついた。



「48558本!」


「フハハハハ、勇者カミヤもう終わりのようだな。俺は、まだもう1本残っているぞ!」


 大魔王フカーノの頭には、前方部に1本髪の毛が残っていた。勇者カミヤは、見た感じ髪の毛がなかった。


「ハハハ! ばっかじゃねーの」



 勇者カミヤは、後ろを向く。そこにはなんと、2本の髪の毛が見えた。


「なっ、2本も残っていただと!」


「終わりだ! 大魔王フカーノ!」


「やめろ、やめてくれ!」


「48559本!」


「ギャー!」



 大魔王フカーノの最後の髪の毛が抜ける。すると、大魔王フカーノは、白い灰となり風に飛ばされ消えていった。



「フッ、大魔王フカーノ、強敵だったぜ! お前のことは、一生忘れん!」



 そう言うと、勇者カミヤは、兜をかぶった。兜のすそからは、最後に残った勇者カミヤの毛が誇らしげに見えていた。

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