第21話 どっちが本物?

「太古の昔、地上は、4大魔神と呼ばれる破壊神、大魔神、悪魔神、そして冥界神によって、支配され暗黒時代と呼ばれる時を過ごしていました」


「神父様! 魔王は?」


「魔王は4大魔神の手下です。そして、その暗黒時代を終わらせ、地上に光をもたらしたのは、天にまします我らが父である神です」


「神父様! 神様、なんで地上にいないの?」


「神は、みんなを公平に見渡すために、あえて天から皆さんを見ておられるのです。そして、神は、地上に4大魔神を倒すための使者を派遣したのです。それが、伝説の12勇者と、神の力を使う神父や、シスター達でした」


「勇者カミヤは?」


「コラッ! 勇者カミヤさんでしょ! コウタ君!」



 わたしは、ザーマ神殿付属小学校に、来ていた。神父やシスターが順番で、神の教えを子供達に教えるのだ。今回は、わたしの番。早く終わらせて、キャットハウスに行こう。



「勇者カミヤは、古の勇者ではありませんが、古の勇者に匹敵する力を持っています。ただ、最近は少し頭髪が薄くなって、常に兜をかぶっていますが、「ハゲ!」とか言ってはいけませんよ」


「はい!」


「神父様! 余計なこと教えないでください!」



 怒られた。







 わたしは、小学校を出ると直接キャットハウスに向かった。



「お疲れ様、マスター」



「お疲れ様です。先生。飲み物いつもので、良いですか?」


「はい、お願いします」



 わたしが、お店に入ると、カウンターにはカミヤさんが座り、奥のテーブル席には勇者アオ達がいた。わたしは、カウンターに座る。



「アオ君、タク君、ユナちゃん、カミヤさんお疲れ様!」


「お疲れ様です、先生」


「おっすー」


「お疲れ! 先生」


「……」



 あれ、カミヤさんから返事がない、どうしたんだ。見ると、限界まで椅子を高くして、椅子をゆらゆらやらしながら、ぼーっとしている。どうしたんだカミヤさん、体調悪いのか?



 その時、マスターが来て、わたしの前にワインを置く。


「マスター、カミヤさんどうしたの?」


「さあ? 来てからずっとあんな調子で。どうしたんですかね?」





 その時だった。キャットハウスの扉が勢い良く開いて。大声が響く。



「マスター聞いてよ! さっきさー、小学生に指さされてさ〜。「ハゲ!」って言われたんだぜ! 俺禿げてないよな!」



 と言って、カミヤさんが入ってきた。ん? わたしは、振り返ってもう一人のカミヤさんを見る。すると、視線に気づいた、カミヤさんもそちらを見る。



「ん、誰だ?」


「カミヤが2人いる!」


「本当ですね」


「えー、カミヤは1人で、十分」



 戦士タクの言葉に、勇者アオも魔術師ユナも、反応する。わたしとマスターも顔を見合わせる。



 そこには、まるっきり同じ格好で、同じ体格、同じ顔の勇者カミヤがいたのだ。



「どっちが本物の、カミヤさんですかね?」


「わたしは、飲み代さえいただければ、ぶっちゃけどちらでも良いのですが」


「おいおい! 俺が本物に決まってんだろ!」



 と言いながら歩いて隣に立つ。もう1人のカミヤさんも立ち上がった。



「良く見ろよ! 俺こんなに短足じゃないから!」


 そう言って、足を並べる。まるっきり同じだ。そして、カミヤさんは黙った。



「そうだよ! 顔、俺こんなにブサイクじゃないから!」



 マスターが、鏡を差し出す。鏡を見て、もう1人のカミヤさんの顔を見る。そして、カミヤさんは黙った。



「そうだ! あれだカミヤなら禿げてる」


 と、戦士タクが言うと


「俺、禿げてないから、馬鹿!」



 と言いながら、兜を取る。同じくもう1人のカミヤさんも兜を取る。禿げてはいない、ちょっと薄いだけだ!



「本当だ! 2人とも薄いだけだ!」


「うるせー! 馬鹿タク!」



 その瞬間、再び扉が開く。強い香水の香りと共に、ミドリーヌが入ってくる。



「うっ、臭え!」


「……」



 わたし達は、「臭え」と言った勇者カミヤを指差して言う。



「本物だ!」


「最初っからそう言ってんだろ!」



 もう1人の勇者カミヤが、変装を解く。そこには、キャップタイプの帽子をかぶった、魔族が立っていた。



「ククク、良くぞ見破った、我が名は大魔王フカーノ!」


「そうか! てめえ、思い出したぞ! あの時のやつ。逃げやがって!」


「逃げてはおらん! 戦略的撤退だ!」


「まあいいや! 表出ろ!」


「まあ、待て、今から1週間後、ヨコファーメ島で、決戦だ。やるか? 何人でも連れてこい」


「いいだろう。やってやろうじゃねえか!」


「ククク、楽しみに待ってるぞ」



 そう言って、キャットハウスから出ていこうとする、大魔王フカーノ。すると、マスターが声をかける。



「待って下さい!」


「なんだ、ウーマ・ジョー。またこちらにつく気になったか?」


「違います、お会計」


「へっ?」


「お会計です! 2400ゴールドです!」


「……」


 大魔王フカーノは、会計を済ますと、去っていった。

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