第17話 戻ってきた勇者カミヤ?
「カミヤさん、良かった、戻ったんですね。わたしの愛が通じたんですね!」
元の姿に戻ったマスターが、上半身裸で、顔が赤黒くなっているカミヤさんに抱きつく。すると、オサダさんも寄ってきて、
「いや、先生の祈りだと思うぜ。マスターのあれ、カミヤさん、殺す気だったでしょ?」
「まあまあ、取り敢えず、カミヤさん戻ったんだから良いでしょ」
「先生、呑気だな〜」
わたしと、オサダさんは、マスターがカミヤさんにしがみついて泣いているのを見ていた。だけどやらなくちゃいけないことがある。
わたしは、振り返り勇者アオの方に向かう。そして、
「天にまします我らが父よ。願わくは、皆の怪我を治し給え、できれば装備もね」
「先生の祈り、適当になってねぇ?」
「な、な、な、なんて失礼なことを言うんだ、タクちゃん」
戦士タクと、戦士レッドは、もう大丈夫なようだ。その後ろにはいつの間にか、狩人マスターゴトーもいて、頷いている。
賢者グレンが、魔術師ユナが、騎士エスパーダが、そして、ミドリーヌが寄ってきて口々にお礼を言われた。そして、魔術師ユナの、怒声を合図にカミヤさんの元に移動を開始した。
「カミヤはどこだ〜!」
皆でカミヤさんの元に向かう。すると、兜をかぶってカミヤさんが土下座をしていた。顔はまだ赤黒く腫れていたが、あえて、そのままにしておいた。
「記憶ないんだけど、ごめんね。みんなに一杯おごるから許してよ」
「誤ってすむ問題じゃねぇだろ!」
ユナちゃんが凄むが、
「えっ、だって俺記憶ねぇし」
「あん?!」
「まあ、いくら記憶なくても、沿岸部の被害は尋常ではないですからね」
オサダさんが発言すると、
「本当に? だけど見てみないとね」
カミヤさんの発言で、わたし達は、最も近いフォズーガの街に移動することとなった。
そこは、悲惨な状況になっていた。城壁は崩れ落ち、家々は瓦礫となり、至るところで、盛り土があり、その上に墓標が立っていた。そして、崩れ落ちた家々の前で呆然として、焚き火をしている無数の人々。それらの人々も、怪我をしていない人はいなかった。
「ありゃ〜、こりゃひどいね」
カミヤさんが、他人事のように呟くと、珍しく勇者アオが、語気を強くして、カミヤさんと話す。
「いくら記憶無くても、この惨状見てなんとも思わないんですか?」
「う〜ん。そうだ! 俺が復興手伝えば良いでしょ? そしたら、ちゃっちゃとやって、早く復興するでしょ」
「だから、そう言う問題じゃねぇ〜!」
「そうです、ユナさんの言うとおりですよ、カミヤさん。そんなことしたら、わたしがチェリーシティー行けるのいつになるか」
「ああん? 黙れ童帝賢者!」
魔術師ユナの怒りが、賢者グレンに向く。
「そうだ! 土下座してまわるよ! 良い考えでしょ! ただ、だし」
「カミヤさん、ふざけないで下さい」
「まあでも確かに誠心誠意謝るしかないんですかね?」
オサダさんの一言で、皆が黙る。確かに、操られていたカミヤさんに、責任があるわけではないが、人々の怒り、嘆き、悲しみをぶつける場所も必要なのだろう。
ただ、わたしにはあまりよく分からない。わたしは、ただ再び楽しく、キャットハウスで皆と酒を飲みたいのだ。
「要するに、カナリア王国が元に戻れば良いんですね?」
「先生、何言ってんの?」
オサダさんが、ちょっと機嫌悪くなった。それもそうだろう。不可能なことを言ったら、そうなる。いかに神に使える神父でもできないことがあるのだ。
「冥界神の名において命ず、開け冥界の門。輪廻の輪を外れ、
「先生、なんか違う神に祈ちゃったよ」
その瞬間、瓦礫だったフォズーガの街は、ビデオの巻き戻しのように、元の姿を取り戻し、墓からは、次々に腕が突き出て、人々が這いずり出てきた。街は混乱を極めた。
同じ頃カナリア王国沿岸部では、同様の現象が起きた。「勇者カミヤの奇跡」後々こう呼ばれた現象であった。
「これで良いですかね?」
「いや、良いけどさ」
「良かった。これでようやく帰れますね。さあ、キャットハウスで、一杯やりますか」
マスターと、オサダさんが、すっとわたしから離れ、話をする。
「マスター、先生って何者?」
「さあ? ただ。人間知らない方が、良い時がありますよ」
「えっ、まじで?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます