第16話 マスターの怒り!

 わたし達は、慌てて皆の所に走りよる。


「大丈夫ですか! 皆さん!」


「う、すみません先生、タクと、レッドを先に頼みます」


「わかりました」



 わたしが、まわりを見回すと、カミヤさんと、オサダさんが睨み合い、マスターは、戦士タク、戦士レッドの顔と胴体を抱えて、こちらに走ってきた。



 わたしは、胴体を受け取ると、頭を乗せ、神に祈る。すると‥‥? あれっ?



 顔がみるみるどす暗くなっていく。


「先生、頭逆ですよ! ほら、首の所段差が出来てますよ!」



 良く見ると、首の繋ぎ目の所が段差になっている。どうやら首はタクの方が太いようだ。


「すみません、マスター頭間違えたみたいです。首落としてください」


「はいよ!」



 そう言うと、マスターは、ニヤリと笑い、持っていた双刃の斧で、2人の頭を切り落とした。わたしは、すぐさま、乗せ直すと、神に祈りを捧げる。すると、2人の顔色がみるみる回復し、目を開ける。



「うっ、先生、マスター? なんで、なんで?」


「俺たち、どうして! そうだカミヤは?」


「大丈夫です。後はわたしに任せておいてください」




 マスターは、そう言うと振り返り、魔王となったカミヤさんを見る。その目は怒りに燃えていた。



「なんてことするんですか、カミヤさん! お客さん減ったら責任とってくれるんですか!」





 マスターの服がちぎれ飛ぶ。どういう構造になっているのか、ズボンはそのままだ。そして、マスターの体は、2倍程の大きさになり、全身は黒い固い毛に覆われ。そして、顔は、口から固く尖った牙がはえ、目は、猛獣そのものであった。




「わたしは、先の大戦で、カミヤさんによって倒された魔王の部下でした。魔王四天王の1人、魔獣王ウーマ・ジョー。勇者カミヤによって助けられたのです! 今はキャットハウスが、我が城です。そして、お客様が神様です!」



 マスター、いや魔獣王ウーマ・ジョーがほえる。




 そして、マスターと魔王カミヤの戦いが始まった。


「行きますよ! カミヤさん!」


「筋肉ダルマ! 死ね!」



 カミヤさんが、魔剣を振るい、マスターに斬りかかるが、その黒い固い毛と、ぶ厚い皮膚に阻まれ、傷つけることができないようだ。



 マスターは、ただその攻撃をその身に受ける。



 ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ!



「お~、良いですね~、ですが、まだまだです」



 ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ!



 カミヤさんの、ひたすらな攻撃が炸裂するが、マスターは気にとめない。



「ん~、お~、い~。気持ち良いですね~。ですが、まだまだです」



 ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ!



「お~! 来ました~。あ~。良いですね~。ですが、あの時のカミヤさんは、もっと凄かった。わたしの身も心も、カミヤさんの聖剣で貫かれたのです」



 ちょっと、卑猥に聞こえたのは、わたしだけだろうか?



 そして、マスターは、反撃にうつる。その持っている斧をなぜか勢い良く、カミヤさんに向かって投げつけると、一瞬怯んだカミヤさんに、突っ込んで行った。




 そして、タックルすると、マウントポジションに引き込んで、カミヤさんを抑え込む。カミヤさんの、兜が吹っ飛び頭髪が、顕になる。思った程は薄くない!



 よし、カミヤさんの動きが封じられた。わたしは、神に祈りを捧げる。



「天にまします、我らが父よ。願わくは、この者の邪悪を払い給え」



 カミヤさんに光が差し込み、頭から煙のようなものが出る。少し、髪の毛が薄くなったような気がしたが、気のせいだろう。だが、まだまだ緑色は落ちない。わたしは、ひたすら、神に祈りを捧げていく。





「カミヤさん! しっかりしてください! わたしが助けます!」



 と言うと、マスターは、全力で、カミヤさんを殴り始めた。カミヤさんも、マウントポジションから、逃れようとするが、完全に決まったポジションから、逃げ出すことができないようだ。



 マスターは、両手を合わせると、ハンマーのように振り落としていく。



 ドゴッ! ドゴッ!



「カミヤさん! 助けます! 絶対に!」


「くそっ! この野郎!」



 ドゴッ! ドゴッ!



 そして、マスターは泣き始めた。



「カミヤさん! あなたは強い人だ!」



 ドゴッ! ドゴッ!



「この程度のことで」



 ドゴッ! ドゴッ!



「負けるあなたではない!」



 ドゴッ! ドゴッ!



「カミヤさん、戻ってきてください!」



 ドゴッ! ドゴッ!



 ひたすらに、地の底まで響くような重い、人体を殴る音が響く。そして、それに混じって、微かな声が聞こえる。泣いているマスターは、気づいていないようだ。



「マスターどうしたの?」



 ドゴッ! ドゴッ!



「ちょっと、待って」



 ドゴッ! ドゴッ!



「結構痛いんだけど」



 見ると、カミヤさんの肌は、元に戻り、なぜか、頭髪は無くなっていた。カミヤさん、元に戻ったみたいだな。しかし、皆は気づいていないようだ。重低音が響く。わたしは、ゆっくりと近づいた。



 ドゴッ! ドゴッ!



「ちょっと、助けて」



 ドゴッ! ドゴッ!



「俺、なんか悪いことした?」



 ドゴッ! ドゴッ!



 わたしは、マスターの元にたどり着きマスターの肩を叩く。



「カミヤさん、元に戻ったみたいです」


「えっ!」


「先生遅いよ」



 赤黒く腫れ上がった、カミヤさんが呟く。

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