第12話 勇者カミヤの敗北
「カミヤさん、冒険者ギルドからの依頼なんです。魔物の侵攻が激しい件ですが、どうやらヨコファーメ島から漏れ出てくる瘴気が、関係しているようです」
「へ~、凄いね。最近のギルドの情報網。そんなことまで、わかんの!」
「はい、それで、冒険者ギルドとしても、討伐隊を組織して、討伐しようと思っていまして」
「ああ、いらね、いらね!」
「はい?」
「だから、他の弱っちい奴らいらねーよ。俺1人で充分」
「ですが」
「大丈夫だって、俺魔王だって1人で倒したんだぜ!」
「そうですか。ですが、これだけは持っていって下さいね」
「なにこれ?」
「ないとは思いますが、ピンチになったら飲んで下さい」
「ただなの?」
「はい、差し上げます」
「気前良いね、ミマラちゃん。ありがたくもらっておくよ!」
そう言うと、勇者カミヤは緑色の液体の入ったガラス瓶をつかんで、冒険者ギルドから出ていった。それを見送るギルド職員ミマラ。
「ククク、せいぜい頑張ってくださいね、勇者カミヤさん」
勇者カミヤは、ヨコファーメ島に向かって歩き始めた、ザーマシティは内陸にある。ひたすら南に向かって歩き、そして、港町フォズーガに出た。そして、船を探すのかと思ったら、海岸に行き、そのまま海に向かって走り始めた。
海の上を走る勇者カミヤ。左足を前に出し、海面につき、その足が沈みこむ前に、右足を踏み出し進む。それを全力で繰り返し、高速で海上を進む。そして、あっという間に、ヨコファーメ島に到着する。
「おっ、着いたか? ヨコファーメ島って、ここだよな? で、洞窟ってどれだ?」
勇者カミヤは、誰もいないのにひとり言を言う。そう、人間おっさんになると、ひとり言が多くなるのだ。
「おっ、あった、あった。あれが洞窟だな。いっちょやりますか!」
勇者カミヤは、洞窟に一歩入る。中は暗くなっている。すると、勇者カミヤは兜の前面をいじる。すると、兜が光り、洞窟内を照らす。光る頭、もとい、光る兜で周囲を照らしつつ、無造作に進む。時たま、魔物が出るが、勇者カミヤの持つ、聖剣が振るわれると、跡形もなく、消えていく。
そして、洞窟最深部に到着する。そこは、ほの暗い緑色の灯りがともっていた。そして、そこには、高さ3m程の椅子に座り、足をぶらぶらさせつつ、黒い大きな影がいた。
「待っていたぞ! 勇者カミヤ!」
「誰だ? お前?」
「わが名は大魔王フカーノ、魔族の頂点に立つものだ!」
「えっ、俺が倒した魔王より、偉いの?」
「そうだ! 魔王は我が弟。復讐の機会を待っていたぞ!」
「あっそ。まあ、兄貴って言ったって、あいつの兄貴だろ? まあ、たかが知れてるわな!」
「貴様! 言わせておけば!」
「さあ、やるべ、やるべ。ちゃっちゃと終わらせて、キャットハウス行くんだからさ」
そう言うと、大魔王に向かって、勇者カミヤは向かっていった。大魔王も椅子に差してあった。魔剣を引き抜くと、勇者カミヤと打ち合った。火花が飛び散り、金属の焼ける匂いが広がる。そして、一旦両者は、大きく飛び退く。
「臭ーなー。この匂い」
「ふっそうか。情報通り、匂いに敏感なようだな。ならば、これでもくらえ!」
大魔王が手を振ると、洞窟内に、大量の魔物がわき出てくる。
「うげっ、くせっ、なんだ!」
「ハハハ! 貴様の嫌いなエルフの匂いだ! 特にしばらく風呂も、体すらも洗っていない、女のダークエルフだ! どうだ?」
「えぐっ、おえっ、くせっ」
「ハハハ、苦しめ、苦しめ!」
勇者カミヤの周囲を、女性のダークエルフが取り囲んでいる。勇者カミヤは、その匂いに、翻弄され、相手が女性でもあり、攻撃を躊躇していた。
その時、ギルド職員ミマラの言葉を思い出す。「ピンチになったら飲んで下さいね」そして、勇者カミヤは、瓶を取り出し、その緑色の液体を飲み干した。すると、
「なんだこれ? 体がしびれ て あ え」
「ククク、カミヤさん、それはわたしの唾液ですよ。効果はいかがでしょうか?」
「おま ミマラ 貴様」
そこには、ギルド職員のはずの、ミマラがいた。そして、ミマラは口から、不釣り合いなほど、大きく長い舌を出す。すると、緑色の液体が流れ落ちる。
「やっぱり、ミマラ くせ~」
そう言うと、勇者カミヤは倒れた。
「良くやった。悪魔神官ミマラ」
「はい、ありがとうございます。大魔王様」
「で、これからどうするのだ?」
「はい、勇者カミヤをわたしの唾液の効果で洗脳して、カナリア王国に攻めこませます」
「なるほど。ハハハ、魔王カミヤの誕生だな」
「はい、楽しみにお待ちください」
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