第9話 賢者グレンの憂鬱

「な、な、な、何を言っているのです。勇者カミヤともあろう方が」


「何を言ってるも、何もねーだろ? だから、お前童貞だろ? って言ってんだよ!」



 キャットハウスの中に、勇者カミヤの声が響く。カウンターには、勇者カミヤと、賢者グレンとわたし。わたしは、マスターと話していたので、良く聞いていなかったのだが、どういう流れで、今の会話が出てきたのだろう?



「あれだぞ、冒険者たるもの、女の一人や、二人ものにしないと、でっかくならねえぞ。あっ、でっかくって言っても、あそこが物理的にでっかくなる訳じゃないからな!」


「カミヤさん、他のお客様もいるんですから、もう少し声を落としてください」


「あっ、マスター、わりい、わりい。で、どうなのよ?」


「わたしは、賢者になろうと一生懸命勉強しました。女性にかまける時間など」


「そこはいいんだよ! 賢者になったんだろ? 今はどうなのよ?」


「えっ、えーと、声はかけましたけど……」


「声はかけて、どうなったのよ?」


「友達で、いましょうと」


「はーーー! だから、駄目なんだよ! よし、わかった! 今から、チェリーシティ行くぞ! マスター、お勘定! こいつの分も一緒でいいよ!」


「はい、では、8500ゴールドになります」


「はいよ。じゃこれで」


「はい、確かに」


「じゃ、行くぞ!」


「えっ? えっ、えーーーー!」



 賢者グレンは、勇者カミヤに引きずられるように、店の外へ出ていった。



「マスター、大丈夫かな? チェリーシティってあれだよね?」


「はい、色町として、有名な町ですね」


「そっか。賢者グレンは、賢者にならないのか?」


「先生、どういう意味ですか?」


「いや、聞いたことない? ほら、童貞でいる期間が長いと、魔術師になったり、賢者になったり、妖精とか仙人になったり」


「さあ、聞いたことないですね。そんなことで、賢者なれるんですか?」


「さあ?」






 そして、数日がたったある日。キャットハウスに、行くと。勇者カミヤが、カウンターで、大爆笑していた。奥のテーブルには、騎士エスパーダと、狩人マスターゴトー、ミドリーヌが座って。勇者カミヤのことを見ている。そして、勇者カミヤの隣には、項垂れた賢者グレン。



「先生、お疲れ様! いつもので良いですか?」


「はい、お願いします。」



 わたしは、賢者グレンの隣に座る。そして、グラスワインが置かれる。わたしは、グラスを持つと、


「マスター、グレンさん、カミヤさん、お疲れ様です。乾杯!」


「先生、お疲れ様! 乾杯!」


「あっ、先生お疲れ様です。乾杯です」


「どうしたんですか? グレンさん、元気ないですね? 大丈夫ですか?」


「先生さあ、聞いてよ! こいつさ~」


「わっ、わっ、わっ。やめて下さいよ。カミヤさん!」


「良いじゃねえかよ~。こんな面白い話、人に話さないで、どうすんだよ?」


「ひどいです。鬼、悪魔、魔王!」


「はい、はい。で、先生、こいつさあ。チェリーシティの有名店に、俺のおごりで、連れってってやったのによ~。何もしねーでやんの」


「そうだったんですか。へー」


「良いじゃないですか。女性は、お互いに付き合って、心の交流を深めてから、そういうことを」


「だから、心の交流すらできないから、連れてってやったんだろ? この意気地無し」


「カミヤさん、グレンさんはピュアなんですよ。カミヤさんと違って」


「マスター違うよ。意気地がないのよ。この賢者。なっ、ミドリーヌちゃん!」


「何でわたくしが、関係ありますの!」


「俺だったら、パーティーに年増だけど良いボディーのやついたら、一発やるけどな!」


「最低ですわ、勇者カミヤ!」


「ミドリーヌさんに対して、なんたる暴言!」


「おっ、やるかこの童貞。そうだ、お前わらべっていう字に、帝王の帝って書いて、童帝賢者グレンって! どうだ? いい呼び名だろ?」


「わーーーーー!」



 賢者グレンは、叫びながら、飛び出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る