第6話 バッカスオサダ

「マスターお疲れちゃん!」


 マスターに負けず劣らずごつい体格をした人が、扉を開けてキャットハウスに入ってくる。手には酒瓶をぶらぶらとさせ、目はすでに酔眼だ。


「お疲れ様、オサダさん。何飲まれます」


「この間美味しかった、梅酒ある?」


「ありますよ」


「甘すぎるんだよね。甘くないのある?」


「えっ? 果実酒系ですか? だったら、すもも酒とか、すだち酒とか」


「おお良いね。じゃ、ビールちょうだい!」


「オサダさん、そのくだりいります?」


「えっ、マスター嫌い?」


「いや、面倒くさい」


「ハハハ、そう?」


「はい。あっ、そう言えば、オサダさん、先生にあったことあります?」


「見かけたことはあるけど、直接話したことないね」


「そうでしたか。先生、この人武闘家のオサダさん。あだ名はバッカスオサダ。酔えば酔うほど悪くなるって人」


「よろしくお願いいたします。オサダさん」


「こちらは、ザーマ神殿の神父で、先生」


「よろしく、先生。先生ってあれ、勇者カミヤが取っちゃったタクの首くっつけた人?」


「はい、一応」


「凄いね。首、前後逆とかにくっ付けてやれば良かったのに。少しは、馬鹿がましに見えたかもしれないよ」


「オサダさん。やめて、冗談でも」


「ごめん、ごめん、マスター。タクのこと、好きだったもんね」


「はい、馬鹿な子ほど可愛いんですよ」


「へー」


「先生も、興味無さそうに返事しないで下さいよ」


「へー」






 酒が入り、マスターと、わたし、そしてオサダさんと話が弾んだ。とても、豪快で、面白い人だ。ただ、マスター曰く、酔えば酔うほど、マスターに絡んでくるそうだ。



「そう言えば、オサダさん、今回って、少し久しぶりでしたね?」


「ああ、そうだね。新しいパーティー組んで、遠出の仕事してたからじゃない?」


「どこで仕事していたんです?」


「隣のトルキア帝国だよ。なんかあっち、大変なことになってて、なかなか帰れなくてさ。マスターの料理懐かしくなって、帰ってすぐ来ちゃったよ。忘れられない、オリーブに、ミックスナッツに、チョコレート」


「全部、買ってお皿に出すだけのやつじゃないですか!」


「えっ、そう? 美味しいよ」


「だから、作った料理を言ってください!」



 本当に、面白い人だ。そして、ふと真面目な顔になった、オサダさんが



「先生、悪魔とか、悪霊とかの退治ってできる?」


「はい、一応」


「そうなんだ。もしかしたら、手を借りることになるかもだけど、その時はよろしく」


「わかりました。わたし結構暇なんで、大丈夫ですよ」


「そうなんだ、暇って?」



 オサダさんは、ちょっと心配そうに、マスターを見る。


「オサダさん、心配無用ですよ。ザーマ神殿で、人、生き返らせる神父って、先生だけですから」


「えっ、そうなの?」


「というか、神官が人、生き返らせたって話聞いたことあります?」


「あっ、そう言えばないね」


「だから、ザーマ神殿に冒険者が集まってくるんですよ」


「なるほどね」





 そして、かなり長時間飲んでいる時、事件は起こった。


「ウッ」


「オサダさん、どうしたんですか?」


「マスター、気持ち悪い」


「えっ!」



 マスターは、慌ててカウンターを越えると、オサダさんの元に行き、立たせると、外に出した。



「オサダさん、上、上向いてください!」


 上? どういうことだ?



「ウッ、オエッ、ゴーーーーー!」



 オサダさんの口から、とんでもない熱量の炎が放射され、上空に向かって打ち上げられた。そして、炸裂すると、周囲が昼間のように明るくなった。



「マスター、何これ?」


「オサダさんの奥義、嘔吐爆炎砲です」


「へー」

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