九日目 だって疲れてるし
セラ姉に起こされ目が覚める。雲が赤い。朝日に照らされてるんだ。結局、魔物の襲撃も無く夜が明けた。睡眠を二回に分けてとったせいか体がだるい。固い地面の上で寝たせいで体があちこち痛い。
「ノルセヤロカには早めに着くはずです。夜はゆっくり休んでください」
ルソルさんが方位磁針を確認して北北西に進んでいく。街道に出るまでに七回も魔物に襲われた。でも、今日は俺の疲労を考慮して幻術の訓練はやめておくことになった。現れる魔物は全部カダーシャさんが一刀の下に斬り捨てる。そうして、昼過ぎには宿場町ノルセヤロカに到着した。
宿場町にしては大きい。きっとセヤロカがかなり大きな都市なんだ。ルソルさんが言うにはセヤロカは世界で三番目に栄えている街だという。
「美味しいもの食べようよ、ご飯は元気の素だよ」
エトナさんの意見に賛成。もう少しで着くからと昼御飯を抜いていたこともあって、空腹で辛い。寝不足もあってみんな元気がない。野宿が疲れるものだということを嫌というほど思い知ったよ。早くベッドで横になりたい。でも、お腹も空いてる。
エトナさんが露店を指差した。
「あれ食べよう、あれ」
露店で売っていたのは薄焼きパンに野菜と肉を挟んだもの。一口食べただけで、なんだか元気が出てきた。空腹と寝不足って合体すると本当に辛いんだなぁ。
早めに宿をとって、入念に体を拭く。ベッドに横になると、すぐにうとうとしてきた。しばらく微睡んでいると、セラ姉が晩御飯の時間だよと呼びに来る。正直なところ寝てたかったけど、しっかり食べないと体力がもたないのはよくわかった。気力を振り絞って起き上がる。
夕食はとろみのついたシチューみたいなスープだった。肉と野菜のうまみが溶け込んでいる。疲れた体に滋養が染み渡る感じ。ふと、思い立ってルソルさんに尋ねてみる。
「魔力を使い果たすとどうなるんですか?」
ルソルさんは少し首を傾げる。
「魔力は言ってみれば余剰の生命力です。それを使いきってなお魔術を使おうとすれば、魂を余分に燃やすことになります」
エトナさんが口を挟む。
「早い話が寿命を削るってことね。あと、頭脳や肉体を動かす力も魔力に回されるから、本当にここで魔術を使わないと死ぬ! って状況でもなければやめといた方がいいよー、まぁそんなことにはならないだろうけど」
そんなことにはならない?
「一昨日、四人に同時に幻影を見せて、〈聴覚の撹乱〉も使ったら、どっと疲れて熱が出そうになったんですが、あれは魔力切れとは違うんでしょうか」
俺は自分の魔力量が少ないじゃないかと心配してる。だけどカダーシャさんは何でもない事のように言う。
「普段使わない筋肉を使うと疲れるのが早いだろう? それと同じだ」
セラ姉も、慣れだと思うよと言ってくれた。
「そっか、疲れただけか。……魔力はどのぐらい使ったら切れるんでしょうか。限界を知らずにいて、いきなり切れるのも怖いなって思うんです」
この質問に、ルソルさんは不思議そうに答えてくれた。
「食事と睡眠をしっかりとっていれば、よほど高度な魔術を連続で使用しない限りそうそう魔力切れは起こしませんよ。実際のところ、私はその状態になったことがありません。まず、そこまで高度な魔術は使えませんから」
他の三人も口々に「私も」と言う。どうやらマジックポイント切れというのは滅多に無い極限状態らしい。
「休憩も取れずにずっと戦い続けてたら危ないかもね。まぁ、その前に体力の限界がくると思うけど」
セラ姉の言う一般論が俺にも当てはまるといいんだけど。
「ああ、しかし、確かに魔力量が不足するという例はあります。昨日今日と歩いてきたコレフト砂漠、地形を考えると不自然に存在すると思いませんか?」
地形のことはよくわからないけど、ここもジグニッツァも緑豊かだ。不自然と言われればそんな気もする。
「二千年ほど前にコレフト平原で人族と魔族の一大決戦がありました。その時に広範囲にわたる強力な魔術が使用され、破壊の限りが尽くされた結果が不毛の地、コレフト砂漠なのです」
広域破壊魔法。ゲームやアニメではよくあるが、魔力をどう操ればそんな魔術を使えるのか想像もつかない。
「ひとりの魔力ではまったく足りないため、何十人もが魔力を併せて使用したとされています。それも、人族と魔族の双方が同じような規模の魔術を転戦しながら幾度も撃ち合ったそうです。この時使われた魔術がどのようなものだったのかは伝わっていません。元素術説と召喚術説があり、元素術派はその再現を目指して古文書の研究を行っています。私は召喚術派なのですが、かつて空術と呼ばれていた――」
俺は急にガクンと揺れを感じてハッとする。ルソルさんとカダーシャさんが苦笑して、セラ姉とエトナさんがクスクスと笑ってる。どうやらルソルさんの話を聞いている間に一瞬寝落ちしたらしい。
「お疲れのところに長話が過ぎましたね。今日は早めに休みましょう」
すみませんと言いつつ、本当に眠くてどうしようもなかった。セラ姉に支えられながら部屋へと戻り、ベッドに入ったところで、意識は途絶えた。
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