2-39 アルビオンの憂鬱2

オルポールの態度と、その言葉の重みに陸海トップ二人の表情も強張る。


『西方世界を統べるほどの超大国誕生の兆しがない限り大陸情勢関与せず』


この一貫としたアルビオンの外交方針によって大陸での不毛な紛争に巻き込まれず、植民地経営を通じて栄華を極めてきた。この方針は今日まで徹底しており、三年前のフランシア存亡の危機に際しても対魔王同盟の提案どころか軍事派兵すらも拒否し、武器の供給と資金の援助に留めていたほどである。


つまるところ、少なかれオルポールにとっては魔王フレイア率いる魔王軍がフランシアを武力占領した場合よりも、将来の皇帝ジーク率いるオストラインが合法的にフランシアを勢力圏に収めた場合の方が驚異的だと判断していた。


やがて、さっきまでの砕けた態度が消え失せたネイザンがその翡翠のように透き通った眼を向け語り始める。


「あくまで王立海軍の長としてではなく私個人の見解ですが、首相の言う干渉政策は時期尚早かと·······」


オルポールがなぜだ? と聞く前にネイザンは矢継ぎ早に語り始める。


「現時点で対抗同盟を結ぼうにも大陸の有力な勢力は魔王軍以外に存在せず、その者達と公式な協力関係を結ぶのは不可能! さらにはオストラインの神器使いを筆頭とする陸上戦力は我が軍と比較にすらなりませんわ」


沈黙を保っていたウェルトンも援護に入る。


「仮に大陸派兵するとなったなら植民地を含めての大規模徴兵は不可欠ですが、国防の危機でもない状況下の臣民の反発は不可避。強硬して民意議席を喪うのは首相と自由党の長老達も望まないのでは?」


ではどうすると? と、聞こうとするがこれまた矢継ぎ早にウェルトンが語り始める。


「であれば据え変えましょう、オストラインのジークを我等が都合の良い人物に。それこそが最もスマートで最善の選択肢かと」


この提案にネイザンも頷く。現オストラインの拡張政策の旗降り役重心は間違いなくジーク皇位継承者であり、このカリスマを失脚させれば小さくない混乱が生じるのは必然。やもすれば、後継問題に端を発した内戦時代に戻る可能性すらある。


そんな二人の考えを目の当たりにしたオルポールは、不敵な笑みを浮かべると自分の椅子に深々と座り込む。


「·····本当に話が早い、説得する時間が省けて嬉しい限りだ」


「·····と、言うことは首相の方では既に目処が?」


ネイザンの問い掛けに対して、オルポールは茶目っ気あるウィンクで返答する。


「オストラインの皇位継承法を読み返していたらユニーク脳筋なものがあってね。これを利用するためにも君たち二人には、世界中に散らばっている腕利き戦闘のプロ達を本国に呼び戻して欲しいんだよ」


「それを構いませんが、別の皇位継承者には当てがあって?」


「もちろんだよネイザン大提督。優秀なる外務局秘密諜報部が支援しているオストラインの政治団体テロリストの中に居たんだよ。アルビオンに光もたらす幸運の女神様クレイ·ラインバッハがね」───

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