2-23 流儀

光強ければ闇が深くなるように、オストラインの血煙漂う内戦時代が終わりつつ、平和と調和の時代を迎えようとする中、時代精神に逆行する一つの組織が誕生した。


その組織の名は『ヴァルハラ』。武器使用可、殺害可、異『種』格闘可、禁止事項は敵前逃亡のみの真のバーリトゥードを標榜する裏格闘技団体であるッッ!!!


ある者は貧困のため、ある者は失った戦場に替わりを求めて、ある者は殺し合に快楽を求めて───


理由は様々であるが、過酷ゆえの絶大なる名声と莫大なファイトマネーを求めて数多の強者が鎬を削っているのである。だが、そんな報酬にありつけるのも一握りのみッ!


『平均試合5.5試合』

 

闘技者の年間平均試合数ではない、これは闘技者の寿命。つまり、多くの者はたった6試合目をも迎えることなく散って行くことを意味しているッッ!!!


デビューした次の日から姿を見掛けなくなることも決して珍しくない世界。しかし、そんな過酷な環境下でその男は伝説を創っていくッ!!


その男の初参加年齢、驚愕の14歳ッ! にも拘らず、対戦相手の二回り以上巨大な大男を殴殺KOするという鮮烈なデビュー戦を飾るッッ!! 


没落名家の魔法騎士、暗黒世界から来たミノタウロウスの武道家、はたまたS級モンスター『ブラックケルベロス』·····。数多の強敵達がその男の前に立ちはだかったが何れも歩みを止めることは叶わず、そして男が18を迎える頃には前人未到の368戦366勝という大記録を築きあげたのであるッッ!!!


しかし、金を持て余し血に餓えた観戦者達をより熱狂させたのは男の持つ圧倒的強さだけではないッッ!!! 剣はもちろん、銃ですら持ち出して来るのが珍しくない『ヴァルハラ』ルールにおいて、男が選択した武器は己の肉体ッッ!! さらには、蹴りも組技も、寝技にも頼らず男が信をおいたのはたった二つの拳のみッッ!!


不利な条件でありながら、常に圧勝し続けてきた男はやがて一つの異名を囁かれるようになる。


『幻のように舞い、大砲のように撃つ』

 

『ファントムキャノン』トロータとッッッッ!!!



───『鬼拳』vs『ファントム』戦に戻る


「『拳速』差か···」


血塗れのダリルは静かな口調でほぼ無傷のトロータに語りかける。


「アンタ、風魔法を使っているな? 恐らく拳にジャイロ状に纏わせ風魔法が鎌鼬の要領で俺の肌や服を切り裂いたんだろう。だが、この結果を招いた一番の原因はアンタと俺との拳速差。俺と1とすればアンタは1.3てところかな?」


ダリルの分析にトロータは笑みを浮かべながら答える。


「全部正解だぜ、俺の拳は風魔法『乱風』によって鉄鋼だってバターのように切り裂く。そして、ご考察の通りお前と俺の拳速差は僅かな差だよ。だが、その僅かな差でも手数やヒット率にこんなにも差が出る。どうする、このままじゃ逆立ちしても俺に勝てんぜ? 『神器』を使っていないこの俺にすらな····ッ!」


トロータは舌を出して挑発するがダリルは冷静な表情を崩さない。


「·····認めてやるよ、『拳闘』に関してはお前が今の所上手だ。だから──」


そういうとダリルは両手を大きく前へ突きだし、重心低く構えるッッ!!!


「ここからは俺の『流儀』で闘らせて貰うぞ····ッ!!」


「言うねぇ。まるで俺の『流儀』に付き合っていてくれたと?」


余裕の態度をみせるトロータではあったが、男はさらに後ろへとステップして下がる。


(あの構えは間違いなく組技か、ぶちかましを意図しての物····。浅いねぇ、打撃が駄目なら他で勝負ってか? こちとら伊達に裏格闘技で300戦近くもこなしてないんだ、経験と対策は万全よ····ッ!)


トロータの戦法は実にシンプルッ!! 突進してくるであろうダリルに対して常に充分な距離を保ち、失速したタイミングで『乱風』で凶化した音速のジャブを万発撃ち込むッッ!!


如何に頑強であろうと、直撃すればあの男とて無事では済まないのは明白ッッ!! だがトロータは自身の勝利を確信しながらも、寸分の油断もしていなかったッ!!


『闘いは常に不条理なものなり』


裏格闘技時代からトロータはその信条を胸に掲げているからこそ、最底辺のスラムからオストライン最高権威と言っても過言ではない『神器使い』まで登り詰めたのであるッ!!


ましてや相手は、自分の猛ラッシュにまともに反撃してきた男ッ! むしろ慢心する余裕すらトロータにはなかった。


技術においても心理面においても、隙をみせないトロータ。だが、当のダリルは無策であるどころか既に──


(悪いが、出し惜しみするなら勝たせて貰うぜ····ッ!)


勝機を見出だし、決着を着けようとしていたッッ!!!!

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