2-22 破裂音
『鬼拳』と『神器使い』、『神を喪いし者』と『神に選ばれし者』───
人知れず成された歴史的ファーストコンタクト。この時の光景をダリルに脅され案内させられていた男性はインタビューで語る。
『え? なんで観に行ったかって? そりゃあ恐いもの見たさってやつですかねw だって男なら気になるでしょ、神器使いとの喧嘩なんて。それでこっそり扉の隙間から覗いていたんですよ。二人はどんな様子だったか? う~ん、思っていたより静的というなんというか、とにかくお互いに睨み合ったままの無言が暫く続いたと思ったら、示し会わせたように同時に構えたんですよ』
───『鬼拳』vs『神器使い』に戻る
言葉は不要であった──
愛しあっている裸の男と女がベッドの上ですることが一つであるように、互いの強さに引かれ合った最高の『拳闘士』同士、密室、放たれる闘気。何も起きないはずがなく······
何の合図も無しに二人は同時に構える。ダリルはどっしりと山のように足を開口させ、対するトロータはファイテングポーズを採ると軽くリズムを刻むようにトントンと跳ねる。
まさに静も動。両極端な構えをとる二人は、僅かな時間睨み会うとじわりじわりと互いに距離を詰め始める。密室に響くは二人の足音と呼吸音のみ。しかし、それが逆に唯一の観戦者である男性の緊張を否応なしに高めさせた。
『いや~、視ているだけなんですよ。視ているだけなのに汗が止まらなくて下着までびっしょりなっちゃってw 言葉では上手く表現出来ないですけど、本能で直感してたんでしょうね。これからどえらい物が来るって。ま、実際にすぐどえらい物が来たんですけどねw』
二人の間合いは更に近づき互いの制空権が交わった時、ダリルが先制の刻み突きを放つッッ!!!!
『拳からパンッ! ですよ。知ってますか? 銃の発砲音も似たような炸裂音を出しますけど、あれって火薬が爆発した音じゃなくて、高速で銃筒から飛び出た弾の衝撃波の音らしいんですよ。つまり、信じられない話ですけどダリル氏のあの石つぶてのように太い拳は弾丸と同じ速度で放たれていたんですよ····ッ! でもこんなのまだ序の口ですよ』
音速を駆けるダリルの拳は真っ直ぐとトロータの顔面へと向かい──
『すり抜けちゃったんですよ、ダリル氏の拳がトロータ氏の顔面を。まるで陽炎を撃ち抜いたかのようにね。でもって、トロータ氏もお返しと云わんばかりに当たり前のように炸裂音を出すジャブを撃ったんてすけど、これまたすり抜けたんですよ。トロータ氏の拳がダリル氏の顔面をッッ!!』
まるで魔法のような光景であるが彼らはただ攻撃を直前まで引き寄せ、最小限の動きで回避しているだけッ!! 腰と膝関節の僅かな入り抜き
で、体の軸を崩さないが故にあたかも動いてないように見えているのである。
ともかく両者共に不発と終わった初撃、だが互いに驚きの表情はなく。
『今、思えばこっちは驚いてもあの二人にとっては予想の範疇だったんでしょうね。そしてこれを皮切りに闘いが始まったんですよ』
実力は互角ッ!! 言葉交わさずとも拳のコミュニケーションで互いの力量を悟った両者は、間髪入れずに咆哮しッッッッ!!
「覇ッッ!!」
「シッッ!!」
超近距離で機関銃を乱射するが如く、音速の刻み突きとジャブを乱れ撃ち始めたッッッッ!!!
密室には拳の空を穿つ炸裂音と、靴が高速で地面を擦る甲高い音が響き渡るッッ!!
両者共に尋常ではない速度の乱撃を繰り出すが、的中せずッッ!! 互いの拳が互いの体をすり抜け、二人の作る蜃気楼はあっという間に穴だらけとなるッッ!!
『もう、訳分かんなかったですよw 僕のとこまで、鼓膜が破れそうほどの爆音と風圧が届いていたので当の二人は別世界にいたんでしょうね~。で、その撃ち合いも10秒位続いたんですけど、突然トロータ氏が後ろに飛んで距離を取ったんですよ。え、その時の様子ですか?』
距離をとるトロータ、その頬には刃物で切られたような一筋の真新しい傷から血液が流れ出る。
一方、残されたダリルは、
『全身血塗れでしたね。そうですよ、残ったダリル氏の方が明らかにダメージが大ききったですね。全身の服と皮膚がまるでナイフで切り裂かれたようでしたね。そしてまた暫く睨み合った後、初めてダリル氏が一言呟いたんですよ』
「『拳速』差か···」───
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます