2-14 伝説

『振るえば一様に陸海空をも叩き割り、唱えれば例外なく全てを灰塵に帰す。その神の如き偉大なる力、まさに神器であり』


神話において魔神アンゴルモアを打倒すべく立ち向かった二人の神と七人の神器使い。非力な人間の身でありながら神器に選ばれた者達は二人の神にも劣らない実力と活躍を発揮し、見事不倶戴天の敵アンゴルモアを打ち破る。


しかし、魔神の驚異がなくなり二人の神も天界へと帰ると人々は偉大なる神の置き土産である、七つの神器を巡り争い始めた。


最初は少人数の小競り合いから始まったが、やがて規模は村単位で、町単位で、州単位で、果てには国単位まで発展し、人々は魔族に対抗すべく神から授かった『魔法』で同胞達を殺戮し、世界は荒廃して行った。


長い時を経て、この神器を巡る争いの中で勢力を拡大し、西方世界における覇権国家と成り上がったオストライン帝国が七つの神器の独占に成功するが、神話で語り継がれるような破格な威力を発揮できる神器使いは遂に現れなかった。


やがて誰かが噂し始める。神器にはそれぞれ神が宿っており、人々の奪い争う醜い様を目の当たりにした神達は失望し沈黙し、力を貸さなくなったと───











「お主は戦ってみたくないか? 現代に蘇った『神に選ばれし者』達とッッ!!!」


余りにも唐突ッッ!! その言葉を聞いた時、ダリルの中では様々な感情が一気に沸き立つが、一番最初に強く感じたのはッッ!!


「そりゃあ、まあ····ッ!」


好奇心ッッ、そして高揚感ッッ!! このダリルの心境を比喩するなら、まだ見ぬ美女達を想像し、胸を高鳴らせる合コン前の思春期の男子ッッ!!


本人はポーカーフェイスを気取っているが、闘争欲求が溶岩のように流れ始め思わず口許を緩めてしまうッッ!!


それを確認するとフィリップスはもうひと押しと言わんばかりに言い放つ。


「本来ならばオストラインにとっての最高戦力であり切り札でもある神器使いと手合わせすることなど叶わん話······。だがッ! その『手紙』をもっていれば必ずや神器使いと激突するッ! どうだ? この手紙を帝都のある人物に渡してほしいのだが、フランシアを救うためにやってくれるか?」


真剣な眼差しで問いかけるフィリップス、ダリルの答えは既に決まっていた───



───この三日後、国王執務室にて



「なるほど、『希望』とはその手紙のことを言っていたのですね」


フィリップスから事の経緯を聞いたダルランは小さく頷く。


「しかし良かったので? ダリルはこの国においては英雄扱いですが、オストラインにとっては魔王軍十万を相手取った怪物と捉えているはず、解釈によっては宣戦布告と勘違いされるのでは?」


「だからじゃよ。中途半端な実力の者にあの『手紙』を託しても帝都に着く前に殺されて奪われてしまうのは目に見えている。その点ダリルならそんな心配は限りなくゼロであり、最悪の場合は貴族にも軍属にも籍を置かない奴なら無関係と言いきることも出来るからな」


「つまり、ダリルが神器使い激突しようが、オストラインで大暴れしようが我々には関係ない話だと·····」


「利害の一致じゃよ。遅かれ早かれオストライン側は強奪しに来るはず、あの男が『手紙』を持っている以上、唯一『鬼拳』に対抗することが出来うる『神に選ばれし者』達を派遣してな·····」


淡々と話すフィリップスを見ながら、肝心の『手紙』の中身について話す気すら無いことを察するとダルランはため息をついて立ち上がる。


「·····まあ、いいでしょう。その『手紙』で本当にフランシアを救えるかどうかはわかりませんが、アンタと違って忙しいので私はこれで」


「なんじゃ? 『手紙』の中身については聞かんのか?」


「相変わらずの狸爺だなアンタは·····。どうせ聞いてもはぐらかすんでしょ? それに私が命じられたのは、オストラインとの戦争の先伸ばしだけ。精々、言われた王命だけは守れるようにしますよ」


「おうよ、精々しゃきしゃき働いて一分、一秒でもオストラインとの戦争を先伸ばしすんだな」


お互いに軽口を叩きながら部屋を出ていくダルラン、一人残されたフィリップスは口に手を当て軽く咳き込む。


「·····気持ちは若返っても、体はもう限界か····」


手にべっとりとついた吐血を眺めながら独り呟く───


「今まで余りにも多くの者を利用し、見殺しにしてきたツケか·····。親兄弟に始まり、数多の忠臣と二人の娘、そしてあの若き英雄までも·····。言い訳はせん、全てが終わったら報いを受けようぞ」───



───ほぼ同時刻アザーヌにて


「ククク、まさか神話に出てくる連中と闘えるとはな、楽しくなってきたぜッ!」


意気揚々と歩くダリル、その後ろには、


「·····楽しそうで何よりですよ、ほんと。なんで私のような可憐な美少女がこんな命懸けの旅に······」


借りてきた猫のように大人しくついていくベロニカ。ダリルよって半ば強引に連れてこられた彼女の表情は曇天のように曇り散らしておりダリルとはまさに雲泥の差であった。


「しょうがないじゃないか、今までパーティーで行動してきて一人で宿とか泊まったことなんかないし、そもそも帝都ベルンの行き方すら分かんないからな、ガハハハ!」


「ええぇ····、なんで世間知らず宣言しといてそんなにどや顔出来るんですかぁ····。ていうか私以外を連れて来ると言う選択肢は無かったんですか?」


「しょうがないじゃないか、王都に残っているメンバーの中で俺が気兼ねく話せるのは、カトレアおばあちゃんと、ガナードと、お前の三人しか居ないんだから、必然的に一番暇そうお前しか選択肢しか無かったわけよ、ガハハハ!」


「ええぇ·····、友達少ない宣言しといてなんでそんなに笑ってられるんですかぁ·····」───

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