2-13 手紙
───アルザーヌでの二発目の銃声直後、王宮のとある一室にて
(····驚いた、まるで3年前とは別人だ)
ダリルは部屋の主、フィリップス国王の顔を一目視るやいなや圧倒された。3年前、謁見の間で初めて見たときは王者の風格こそあったが逆をいえばそれだけであった。
だが、今日のフィリップスは違った。一見すると闘病生活で痩せ衰えた老人に見えるが、その血走ったギョロ目で睨まれた者はまるで蛇に睨まれたカエルの如く呼吸をするのも忘れさせ、
体からほとばしるオーラは圧倒的の凄みをもって対面するものを硬直させる。現に何もわからずダリルと一緒に『メモワール』からついてきたベロニカは枯れ木のような老人から発せられる超自然的恐怖に似た何かに威圧され、カタカタと体を震わせていた。
「すまんな、ダリルとベロニカとやら。せっかくの会食中に呼び出してしまって。あと、衛兵達よこの部屋から下がるがよい」
「あっ! じゃ、じゃあ不肖このベロニカ、場違いみたいですので私も下がりますね!!」
「いや、お主もここに残りなさい」
「はいぃぃぃぃぃッッ!!!?!?!」
静かな口調ではあるが、声に込められた決して相手に拒否を許さない強い意思にベロニカも察し、思わず裏声で返事をする。
「さて、本題に入る前にまずは礼を言わせてもらいたい。3年前、この王都を国民を救ってくれて感謝する」
そう言いながら、王族でもない、貴族でもない、ただの平民であるダリルへと深々とお辞儀する。
「····顔をおあげ下さい陛下、それよりも本題に入りましょう」
それに対して素っ気なく返答するダリル、不敬ともとれる態度を示すが、顔を上げた国王は意にも返さない表情を示すと、力強く言い放った。
「単刀直入にいうとこ今度はのフランシアを、ひいては西方世界を守ってもらいたい····ッ!」
あまりにもスケールが大きく曖昧な願い事に二人は困惑の表情を浮かべるが、国王は淡々と今フランシアが陥っている状況を説明し始める。
カルミアが暴徒によって狙撃され、意識不明のことを。
一発の銃撃によって、フランシアとオストラインが武力衝突したことを。
そしてこの二つの事実が両国民の敵愾心を煽り立て、着実に開戦へと向かうことを
「──以上が我が国のおかれている状況だ。仮にオストラインと戦端を開けば、この国は滅ぶ·····。そして、漁夫の利を得た魔王軍は勢いを盛り返し真の勝者として西方世界に君臨することになるだろう」
国王の力説を暫く聞いていたダリルは、口を開く。
「······状況は良くわかりました、陛下が和睦を望んでいると言うことも。しかしだからこそ解せません、闘うことしか出来ない自分には出る幕などないと思いますが?」
当然過ぎる疑問、外交問題を解決出来るのは外交努力のみ。戦争故に戦えというのならまだしも、和平を望むと果して自分に何が出来るのだろうか?
そもそも3年前は結果的にフランシアを救い英雄扱いされてはいるが、自分の拳は己を『最強』だと証明するためだけに震ってきたダリルにとって、祖国の危機と云えど他者の意思によって力を行使することは乗り気ではなかった。
そんなことを考えているダリルに対して、国王は無言で金細工と仰々しい封印魔法の魔方陣が掛かれた手紙を渡す。
「·····これは?」
「我々にとっては『希望』、そしてお主にとっては『挑戦状』と言ったところだ······。お主も聞いたことがあるであろう? 神に選ばれた集団『七神器伝説』を」
「そりゃあ、世界一有名な神話ですからね·····」
まるで話が掴めず頭をかきむしるダリル、フィリップスはおもむろに立ち上がると窓の外を眺めながら語り始める。
「太古の大昔、魔法文明黎明期、人智を超えた力を誇る魔神『アンゴルモア』の侵略に怯え、蹂躙されていた人間達·····。その弱き者達を救うべく天界より来た闘神マルウスと博愛神ミネルは我々人間に『魔法』を伝授し、そして───」
「神の如き力を授ける至高の武器、七つの『神器』を与えたもうた·····。でしたかな?」
「そうだ、そして神器の威力と威光に魅せられた我々人間は奪い、殺しあい、紆余曲折を経てオストラインが全ての神器を独占するに至った」
「しかし所詮、神話は神話。手に入れたものの語り継がれるような力を発揮することはなかったし、肝心の神器使いも今日まで現れなかった···· ガキでも知っている話です、それよかいい加減その手紙と何の関係があるのか教えて下さい·····ッ!」
脈絡のない話にいよいよ苛立ちを隠せなくなってきたダリルは思わず語気を強めるッ! それに対し、フィリップスはダリルの側に近寄ると両肩を力強く掴み言い放ったッッ!!!
「現れたのだよ、お主が眠ってい間に神器使いがッッッッ!! それも一人や二人なんかじゃないッッ、『神に選ばれし者』が7人全員だッッ!!!」───
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