1-84 魔法と理合と
まるで『魔法』──
必当の拳が直撃直前に相手をすり抜け、逆に反撃の一撃を受ける。
ゾルトラはまるで『魔法』に掛けられたかのような現象に困惑していた──
「!? そうかッ! それがお前の『刃』かッ! ダリルッ!」
かつて同じように『魔法』を掛けられたかガナードはこの奇妙な光景を見て、合点し叫ぶッッ!!
(·····フッ、やっぱり馴染むぜ···· 訳のわからん力に頼るよりずっとましだ······ッ!)
神に見捨てられても、男は見捨てていなかったのだ───
例え夢潰えたといえど努力を忘れることなど誰が出来ようか──
ダリルは否定していなかったのだ、弱き魔法使いであった自分を──
ダリルは捨てていなかったのだ、成長の余地がない魔法を──
理合に出逢うも、1日足りとも研鑽を怠る日などなかったのだ──
ダリルが使っているのは正に『魔法』ッッ!!!
かつて苦戦を強いられた幼馴染みと同じ『幻術魔法』であるッッ!!!
ゾルトラが陥っているのは僅か数ミリ、僅かコンマ数秒の認識のズレ····
だがその僅かなアドバンテージが満身創痍のゾルトラに対して反撃を可能としていたッッ!!!
そして不死鳥の如く何度でも立ち上がるダリルと、限界をとうに迎えらがらも真っ向勝負で挑むゾルトラを見たフランシアの戦士達は一人、また一人と持ち場から離れていく····
無論、逃亡ではない。感化され、見届けたかったのだ、危険なほど間近でこの男達の命の輝きをッッ!!!
ゾルトラとダリル···· 共に命の燃え尽きるまであと幾ばくか──
絶命の崖っぷちは目前であるが、両者アクセルを弛めずッッ!!!!
最後の余力すらも振り絞り二人は殴り合うッッ!!
骨が折れようと肉が裂けようとも二人はどつき合うッ!!
序盤に比べて満身創痍の二人の動きは、明らかに緩慢でどこかヨロヨロと不安定なものであった。しかしッッ!! 両雄が放つ気迫については段違いッッ!!!
互いの意地をッッ!! ゾルトラの『強欲』とダリルの『信念』が拳を介してぶつけ合うッッッッ!!!
やがて、10万の魔族と3万の人間にも二人の熱狂が伝染し、敵味方入り乱れる中での今日一番の大歓声となるッッ!!!
そして終わりなき物語が無いように、この死闘も最終局面を迎える──
互いの血潮と汗が飛び交う中、ゾルトラの拳を紙一重で躱し、反撃するダリル──
威力不十分といえど、打撃戦においてゾルトラは苦戦を強いられ、ダメージはゆっくりと戦闘不能の基準に近づいていく。
焦るゾルトラ、追い込んでいた筈が自身が追い詰められている事実が男に大胆な行動を採らせるッッ!!
(今ッッ!)
ダリルの拳を下にすり抜けてタックル、二度目の組技!!! 打撃以上の大技を決めるべくゾルトラは賭けに出た──
「そいつを待ってたんだよ····ッ!」
ダリルの狙い通りにッッ!!!
ダリルの膝がゾルトラの顔面を完全に捉えるッッッ!!!
皮肉にも加速されたゾルトラの自身の体が、膝蹴りの威力を増大させ、脳をこれでもかと揺らし───
「クカッッ·····ッ!?!」
ゾルトラをぐらつかせるッッッッ!!!!
それすなわち正真正銘最後の『隙間』、最後の『チャンス』が訪れたのであるッッッッ!!
ダリルは周りの空気を大きく吸い込み、穴だらけの肺に送り込むッッ!!!
(来るッッ!!? あの馬鹿げた威力の突きがッッッッ!?!?!)
ゾルトラは予感したッッ!! 次の一手は間違いなく『破勁』であるとッッ!!
回避も不可能、防御も不可能ッッ!!! 故にゾルトラは最後の手段に出るッッ!!!!
一方のダリルは体内で加速度的に練られたマナを一点へと集中させッッッ!!!
「破ッッッッッッッッ!?!?!」
必殺技の『一撃目』を放つッッッッ!!
轟音と共にゾルトラの壇中に直撃したダリルの右拳──
まるで時間が止まったきのように動かない二人、決着の時が来たかとおもえたが──
「シャアアアッ!!」
狂喜な笑みを浮かべ叫ぶゾルトラッ!!
ゾルトラが取った最終手段、それは身体強化魔法の一点集中ッッッ!!!
全身を覆うマナを体の一ヶ所に重点的に集中させる技術であり、通常の身体強化魔法に比べ集中させた箇所は格段に攻防力上がるであるッッ!!!
だが、裏を返せば集中した以外の箇所は生身同然となりハイリスクローリターンな技術として忌避されている。
しかし、ゾルトラという天才はこの土壇場においてダリルの目線、姿勢、そして放つ気を読み取って瞬時にこの神業をやってのけたのであるッッッ!!!!
そして、必殺技をも凌いだオーガ最強の男は勝利を掴みとるべく拳を奮い反撃するッッ!!!
だが、既にダリルの二撃目は一撃目と同じ箇所に寸分狂わず叩き込まれていた──
その技の名は『双撃』、ココネオ村での苦い経験を元に編み出され、その名の通り二撃必殺を信条とする技である。
一撃目は拳に集中させた身体強化魔法で相手のマナの鎧を打ち砕き、間髪入れずの二撃目に無防備となった相手の肉体に破勁を撃ち込む──
魔法と理合、相反する二つでありながら、どちらも捨てなかったからこそたどり着いたら極致、手にしたダリルだけのオリジナル──
その二つの『刃』が交じり合うとき──
「ッッッッ馬鹿なッッ!?!?」
オーガ最強の男をも打ち砕くッッッッ!!!!!!!!
(······なんだ、何がどうなったんだ······)
極度を遥かに越えた疲労は、ダリルから一時的に五感を奪っていた。
僅かに瞳に入り始めてきた太陽の光、目を見開き真っ直ぐ前を見据えるとそこには──
(·····へっ、やっと倒れやがったか·····)
大地に大の字になりながら寝そべり、天を仰ぎ見たまま動かないゾルトラの姿──
勝利の雄叫びを叫びたいも、穴だらけの肺と焼けただれたような痛みが走る喉はそれすらも許してくれない──
故にダリルはボロボロの右腕をゆっくりと震えながら、そして力強く天へと突き上げる──
それを見た三万人の証人、否、仲間達は───
「「「う、ウォォォオォォ!?!??!」」」
一斉に吼えたッッッッ!!!!───
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