1-80 それは証

「『戻り』を使わせるなダリルッッッ!!!?!?」


普段は飄々としているプルムから飛び出た怒号のような絶叫に、隣にいたベロニカは「ひっ」といって後ずさる。


(ここで決着をつけないと本当に全部終わっちまうぞ、相棒·····ッ!)


一方のダリルも言われるまでもなく、胸骨の軋みによる激痛を堪え貫手による頚部損傷を試みるが──


「!? なっ!!」 


指先はゾルトラの喉には届かず。その遥か手前にて手首をアッサリと掴まれ、進撃を止められる。



「おマエ、遅くなっタか?」



何か別の言語と混濁しているゾルトラの言葉に不気味さを感じるダリルであったが、この魔獣染みたオーガはそんな余裕を与える筈もなく。


「シャアッッッッ!!」


掛け声と共に繰り出される右足による無造作な蹴り──


ダリルはこれを左腕で防ごうとしたが─


ほんの数瞬、ほんの少しだけゾルトラの足刀が左の前腕に接触しただけで確信する──



かつてない破壊力を自分の体を駆け巡ると──



そしてそれはメキメキと左前腕の骨と肉を砕く不協和音を奏でながら──


「ッッッ馬鹿──!?!?」


ダリルへと襲い懸かったッッッッ!?!?!



吹き飛ばされふダリルの巨体ッッッッッッッッ!!!!!


鳴り響く炸裂音の如き爆音ッッッッッッッッ!!!!!



その一撃の破壊力、先程までとはまるで異次元ッッッッ!!!!


30メートル程度吹き飛ばされ、やっと着地出来たダリルは自身の受けたダメージに戦慄する。


急所にあたった訳でもない、確かにガードは成功していた。だが、五体を駆け巡った衝撃によってまるで体はこれ以上の戦闘を拒否するかのように重くなっていたッッッッ!!


(さっきまでとはまるで打撃の『質』が違うッ! これが『戻り』の真骨頂なのかッ!!!)


「ヴブォウァァッ!!」


しかし、ゾルトラは待ってくれないッッ!!!


男は獣のような声を上げながら全力で駆け出すッ!!! 自らの飢えを満たすためにッ!!!! 待ち望んだ極上の敵を喰らい尽くすためにッッ!!!


ダリルは左手を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、確認する。


(よし! 骨はイっているがまだ問題なく動かせるッ! こいゾルトラッ、全て捌ききってやるよッ!)


迎撃せんと体勢を建て直すダリルッ!


だが、ゾルトラが拳を放ったとき、ダリルの思考はフリーズする───


(ッッ~!?!#!#?)


まさに理解不能、ダリルが視たの壁ッッ!!! ゾルトラの前に突如壁が出来たのであるッッ


ゾルトラはここに来て魔法を使用でもしたのか?


否ッ! ゾルトラが使用したのは己の拳のみッ!


つまりダリルが視たのも拳ッ!! 高速で撃ち放たれた拳の残像なのであるッッ!!!



そして不可避の流星群の如きゾルトラの拳はダリルへと降りかかるッッッッ!!


抉る肉体ッ! 舞散る鮮血ッ! 倒れることすら許されないダリルはボロ雑巾の様に揺れ動くッ!


あまりにも一方的、無慈悲な展開にフランシア陣営は勿論、魔王陣営の誰もが言葉を失った。


『果たしてあの化物に理性は残っているのか?』


『ダリルが殺されたらあんな怪物がこの王都に襲いかかるのか?』


フランシア陣営の兵士達はここが安全地帯であるかのように勘違いしていたが、希望が潰えようとするこの瞬間になってそれがまやかしであることを悟った。そしてゾルトラの存在に生物的恐怖を覚え、絶望し泣き崩れ震える者すら続出する。


もはや誇り高きオーガの戦士ゾルトラは誰が視ても腹を空かした凶悪な魔獣でしかなく、喧嘩殺法のようだった攻撃は獣が爪と牙を振るうが如く更に荒々しいものになっていた。

 

そんな攻撃を受け続けているダリル本人は無事である訳がなく、意識を、命をも保つのに限界が近づいていた·······



筈であった──



(一体なんなんだ······ 俺は何を『視て』いるんだ·····?)


薄れ行く意識の中、ダリルは困惑する。


明確なほどに窮地に追い込まれているのに体の芯から涌き出るような力に──


そして走馬灯の如く、自身の頭を駆け巡る『記憶に無い』映像群──


その映像のワンフレーズに写った花畑に佇む一人の少女がこちらを見ながら何かを語り掛けてくる──


誰なのか分からない。白いワンピースを着ており身長や体格からおそらく歳も十五歳前後だろう、だが肝心の顔が霧がかっているようにぼやけている──


何を言っているのか聞こえない、だが何故か何を言っているのかは理解できた───


ダリルは手を伸ばし渇望する──


『ならば力を····· 何者を超越する力を俺に·····ッ!』


強くそう願うとワンピースの少女はこちらに近寄り始め、ダリルの中へ入り込む──




一方、現実世界ではダリルは未だ為すがままにゾルトラの拳を受け続けていたッ!


もはや防御の構えすら採らず、ゾルトラの猛攻はダリルが命尽きるまで続くと思われたがそれは突然と終わりを迎えるッ!


「ッッなニッっっ!?」


ダリルはまるでキャッチボールの如くゾルトラの必殺の拳を片手で受け止めるッ!


目を見開くゾルトラ、それは拳を掴まれたからではない。  


「·····きサマ、ナニモのだ····ッ!?」


ゾルトラは本能で察知したのだ、今のダリルはさっきまでと別者であることをッ!! まるでアレウスと同じプレッシャーを発し始めていることをッ!!!


「······図に乗るなよオーガの『ひよっ子』が····· 貴様に名乗る名などないわ······ッ!」


ダリルの体から蒼白く浮かびあがる魔方陣、それはあらゆる強敵を超越する者の──


神が宿りし者の証ッッ!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る