1-81 覚醒
まさに別世界ッ!
二人が発する莫大なマナは互いにぶつかり合い、形成された奔流はまるで嵐の如き暴威で大地を削り取り、草木を大いに揺らすッッ!!!
フランシア陣営は勿論、魔王陣営の魔族すらもはや近くで観戦することは叶わず、我先にと嵐に巻き込まれぬよう逃げ惑う。
「な、なんだかダリルさんの様子おかしくないですか? マリー様もそう思いません? ん、マリー様?」
ベロニカは問い掛けても返答のないマリーの方向を見ると、彼女は虚ろな目をしながら何か聞き慣れない言語を呟いていた。
「マリー様? ちょっ、マリー様大丈夫ですか!?」
マリーを揺さぶるベロニカ、だが彼女は何の反応も示さず、呟くのをやめない。
「た、大変だぁ! マリー様がついにご乱心だぁ!!!! プルム! 貴方がメッサで負わせた心の傷が原因で遂に── て、あれ? いない!?」
マリーはおかしくなり、プルムはいなくなりと一人あたふたするベロニカ。この時プルムはダリルの『変化』を間近で確認全てく駆けていた。
(何だあれは!? ギレムの時ともロベリアの時とも魔方陣の構築パターンも模様も違う! 一体何が起きているんだ·····ッ!)
プルムは激しくなる心臓の鼓動を感じながら急ぐ、それが興味深い研究対象を前にしての高鳴りなのか、それとも得体の知れない不安を感じての高鳴りなのか、わからずに──
───マナの嵐の中心部の二人
「くソガッッッッ!!!」
「どうした、懸かってないのか? オーガの『ひよっ子』よ」
獣の心に支配されたゾルトラは本能で悟った。今、目の前にいる『獲物』に全くの隙がなく、下手な攻撃は致命的な反撃を貰うことになるとッ!!!
故にゾルトラは気を読み隙を伺う、確実な一撃を与えるためにッ!
しかし、この消極的な姿勢は尊大な態度をとるダリルを呆れさせる。
「なんだ、本当に懸かってこないのか? それでは、この右拳が砕けることになるぞ?」
強まるダリルの左手の握撃ッ! ゾルトラは軋む自身の右手を見ながら苦悶の表情を浮かべる。
ダリルはそんなゾルトラを嘲笑うかのように不敵な笑みを浮かべる。もはや男の表情に先程までの苦戦の色は消え失せ、それどころかこのオーガの獣に対して挑発、見下すまでの感情が透けて見えた!
現に限界を迎えた筈だった体からは、まるで噴火した火山から溶岩が吹き出るが如くマナが溢れかえり、脳からドバドバと発せられる脳内麻薬で激痛を紛らわす処か、心地よさを感じるほどであった。
溢れるパワー、爽快な心理状態ッ! ダリルはまさに全能感に支配されていた、景色が全く違うものに見え始めていた。
そして、耳元で囁かれる言葉で男は更に滾り散らせる。
『壊して····· 私たちの敵を全て···ッ!』
何処からともなく聞こえてくる少女の声、それが現実なのかはたまた脳が作り出した幻覚なのかは今のダリルには判別すること出来なかったが、混濁した記憶の中で聞き慣れたこの声にダリルは何故か返答する。
「あぁ、待っていろ。今、俺たちの敵を──ッッ!?」
ダリルが独り言を呟き、視線が自分からずれたことをゾルトラは見逃さ筈もなくッ!
念願の隙をつくように、超近接での右膝蹴りを繰り出すッ!
「チッ···· 所詮は『獣』か」
ダリルはこれに対し、左肘を撃ち下ろすようにして迎撃ッ!!! 無論、ゾルトラの左手はこの時解放され──
「シャアアアアッッッッ!!!」
ゾルトラは再び両拳で猛ラッシュを放つッ!!
「フッ、芸がないな」
だが、届かないッ!! ゾルトラの拳は全て漏れなく、側面から力を加えられ軌道を逸らせられていたッッッッ!!!!
この神業を前にして、意気消沈していたフランシア陣営の戦士達は無邪気なまでに沸き立つッ!!!!
そして確信するッ!! 今度こそ魔王軍最強の男、ゾルトラの敗北が近いことをッ!!
それは魔王陣営も同じであった。
脳裏によぎるゾルトラの敗北する姿、その悪夢のような瞬間を想像し魔族達は固唾を飲む──
オーガの若人達は除いてッッ!!!
「親父ぃ!! 負けんじゃねぇ!!!」
「オーガの意地みせたれやぁ!?!?」
「死んでも倒れんじゃねぇぞ、親父ぃ!!!」
誰よりも近くでゾルトラを視ていた彼らは違ったッッ!! 偉大なるオーガ最強の戦士の勝利を一ミリ足りとも疑ってはいなかったッッ!!!
やがて、この熱い想いは他の魔族であるゴブリンやオーク達にも伝わり巨大な十万人にも及ぶ大地揺るがす大声援となったッ!!!
そしてそれに応えるかのように、ゾルトラの拳は更に速さと鋭さを増すッ!! しかし、
「大した人気じゃないか、妬けるな。だがな──」
おもむろに放たれた右正拳突き。その拳はまるでゾルトラの両拳をすり抜けるように突き進み──
「もう、見切ったぜ」
ゾルトラの顎を捉えた───
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