1-47 恐怖
──カルミア登場後、王宮廊下にて
あの後、納得がいかないダリルをベロニカとプルムが説得し結局三人は部屋に戻った。
「珍しいわねストレリチア、普段は感情を露にしないお前があそこまでダリルに突っかかるとは」
カルミアは部屋までの護衛として後ろに着いてくるストレリチアに話し掛ける。
「····少々想うところがありまして、まだ私も未熟だと言うことです」
謙遜しはぐらかすストレリチア、その言葉に本心が込められていないのは明白だったが、
「天下無双の『雷閃』にもそんな面があるとはな···· まあ、良い。それよりお前から見てどうだったかしら?」
「実際に戦いを見たわけではないですが断言は出来ます。あのダリルという男はゾルトラに間違いなく完敗します」
思いの外はっきりと期待外の言葉を言われたカルミアは表情を少ししかめる。
「·····何故そこまで断言出来る? お前が過去に戦ったゾルトラとそこまで実力差があるのかしら····?」
「それ以前の問題です。格下の小娘相手に手こずり、あまつさえ取り逃がしたなど全く持って話にもなりません」
「お前は随分と手厳しいわね···· だが奴は魔王軍の間でも『神が宿りし者』ともっぱら噂されていたけど?」
「奴のマナと身体能力は認めていますよ···· だが問題は心構え。あの男にとって闘争とはただの『力比べ』程度の存在でしかありません···· 閣下、やはり来るゾルトラとの闘いは私のみで行うべきです」
カルミアは歩みを止め、ストレリチアの方を振り向く。
「····ストレリチア、勘違いしているようだけど奴が生きようが死のうが関係ない。重要なのは先鋒たるダリルが少しでもゾルトラを消耗させ、次鋒のお前が確実に仕留めることなのよ。今やゾルトラとの勝敗がこの戦争···· いや、西方世界の運命が掛かっているからね····」
───同時刻、ダリル一行の一室にて
プルムによる応急処置が終わったダリルは部屋の窓から見える夜明け前のシャンズ大通りを拳を強く握りしめ感情が爆発するのを抑えながら眺めていた。
闘いの最終盤、ロベリアは自分より明らかに重症を負い劣勢であった。
実力差も闘いの中で開き始め、彼女に勝機など万に一つもなかった。
だが! ロベリアはそれでも止まることはなかった! 自分の勝利を疑うことなどなかったッッ!!
片腕を失なっても闘争心は揺るがず、勝負を棄てることはなかった。
むしろ勝負を棄てたのは自分自身。
ロベリアに逃亡を提案したのは彼女に同情し、憐れんだだけではない。
男は女の猛攻を受けるうちに闘いの高揚以外にもう一つ──
ダリルはロベリアの勝利への執念に気圧され恐怖を見たッッ!!
そしてストレリチアはその男の本心を見透かしたからこそ、あのような軽蔑した態度を取ったのでると。
ダリルの中に神が宿り始めてから早3ヶ月·····
男は誰よりも強さを求めてきた、誰よりも最強の称号を求め渇望してきた。
しかし、順当な手順を踏まずに圧倒的強者に期せずして成ってしまった男は失っていたのである。
勝利への意思を、執念をッッ!!!
ロベリアとの一戦を評価するならば、まさに『試合に勝って、勝負に負けた』である。
見た目の傷以上に精神に深刻なダメージを負った男は窓のガラスに映る自分に思わず呟く──
「····俺はあのゾルトラに勝てるのか? そもそも闘う資格すらあるのか·····?」
だがその問いには誰も応えてくれない、時は待ってはくれない。
日はまた昇り無情にも決戦の日が迫るだけであった。
─魔王軍、王都到着まで残り二週間?
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