1-48 五年前の真実

──昼頃王宮、カルミアの一室にて



「東方世界から仕入れた茶葉で煎れた紅茶よ···· フランシア産やアルビオン産には風味が劣るけど飲み始めると不思議と癖になるわ」


「ほんじゃ遠慮なく」


プルムに紅茶を奨めながらティーカップを啜るカルミア、改めて情報交換の場を設けたが集まったのは結局カルミア、プルム、マリーの三人のみだった。


「ぷはー、結構なお手前で」 


「フフ、気に入って貰えたら何よりよ。ところでダリルはどうしたのかしら? 昨晩はあれほど今すぐ話を聞かせろとしつこかったのに」


「あぁ、相棒なら朝一どっかに行ったぜ。多分修練だと思うけどな」


「そう、残念。彼には謝っておきたいことがあったのに」


「そんなことより安心したよ、思いの外姉妹仲が良さそうで。な、マリー?」


「えっ、いやっ、これはその····」


借りた子猫のように大人しかったマリーは唐突に話しかけられことに焦りだしカルミアをチラチラ見始める


「フフ、もう言ってしまっても結構よマリー。それとプルム、あんまり私の可愛い妹を苛めないで。マリーが真実を知ったのは謁見の間以降···· 王都に向かう道中で貴方達に話したことに嘘偽りないわ」


「それじゃあ五年前の事件は自演か?」


「そう、事件の切っ掛けとなった密告文は私が仕込んだもの。妹は何も知らずに若さ故の義憤に駆られて行動しただけよ。もっとも、計画を知っている父だけではなく何も知らない大臣連中の前でも啖呵を切ったことで、大分難儀したけどね」


カルミアはクスクスと笑いながらマリーを横目で見ると彼女は顔を赤面させて下を向いた。


「でもって、失意のあまり嫉妬と復讐に狂った元王女サマを『演じて』魔王に接近、内通者を炙り出すためにダブルスパイをやっていたということか? でも理解出来んな、ヘタを打てばアンタの名誉は回復されることもなく死ぬ可能性だって十分にあった、なのに何故·····?」


カルミアはティーカップをテーブルに置くと、その力強い紫色の瞳でプルムを見つめる。


「フランシアという『国家』のためよ、それ以外に二心はないわ」


(·····民や王家のためではなく、国家のためと言い切りますか···· コイツが『玉座の改革者』とか渾名されていたのは本当のようだな····)


カルミアの言葉に嘘偽りないことをプルムは重々承知していた。それ故にこの女の性格も理解し始めた····· 『国家』の為なら自分自身も含めて全ての犠牲を許容する危険な性格が──


「なるほどね、アンタのことはだいたい分かったよ! でもって何か裏切り者を炙り出したこと以外に成果は無いのかい? 例えば魔王軍がマリーを拐おうとしている理由とか?」


「そ、そうですよカルミア御姉様! 私、理由が気になります!」


「······ごめんなさいマリー、その件に関してはまだ何も。事情を知っていると期待していた『内通者』はストレリチアが粛清し、黒狼騎士団の面々も死亡するか逃亡···· 私自信も講和の使者に装ったマリーを拐う部隊の支援をせよとの連絡しか受けてないから····· 貴方なら何か知っているんじゃないかしら『災厄の子』プルム?」


「····なんだよ、アンタも人が悪いだな。でも残念、俺が魔王軍にいたのはアンタら姉妹が生まれてくるよりも前だから何も知らん」


「そ、そう···· カルミア御姉様もプルムちゃんも知らないのね·····」


だがプルムは確かな根拠はないが僅かな吃りと視線を察知し直感した。


カルミアは嘘をついていると、自分に知られると不利なることを理解していると。


しかし、名誉を回復したカルミアはその性格も相まって今後間違いなく権力を取り戻すのは明白。ここで無理に追及して気分を害するのは得策ではないと考えプルムは話題を変える。


「ま、そんな気を落とすなよマリー。誰が来ようがダリルや剣聖が守ってくれるはずだからな! それよりもアンタ言ってたよな、魔王軍の到着が二週間後になるってよ。何があったんだ魔王軍の連中に?」


「理由は単純、彼らは二日前から野営地を出発してないからよ。斥候兵の連絡だと組織的な行動も取れず兵站は崩壊寸前、逃亡兵まで出ている始末らしいわ。その魔王軍の内情と今後の天候、それによる路面状態、その他諸々を勘案した結果が二週間という数字なの。今日私も出席する国防会議でも議題に上がるけど恐らく同じ見解になるはずだわ」



「はぁ~ 重々質問で悪いがどうして突然魔王軍はグダグタになったんだよ? 今までは常軌を逸した進軍速度で王都に接近してたのに」


カルミアは人差し指で耳を近づけるようにプルムとマリーに手招きすると、小さな声で囁き始める。


「····この話は魔王軍と内通していた時に聞いた話だけど、どうやら強行軍の総指揮をとっていた魔王が単身でエベリア半島に戻ったらしいの。それも魔王最高戦力アレウスが死亡したという噂のためにね」───


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