1-46 険悪

燃えカス一つ残さず消滅したベルモント──


ストレリチアは想う。彼のやったことは、フランシアの裏切り行為は決して赦されぬ行為であると。


だが少なくともある時点まではフランシアと民の安寧と平和ためにその身を捧げ、人々から『獅子王』と称され尊敬されていたのもまた事実。


故に彼女は許せなかったのだ尊敬すべき人物の異変に気が付かなんだ不甲斐なさに、赦せなかったのだ彼の心の闇につけ込み外道の道へと誘った『魔王』にッ!


彼女は相も変わらず無気力な表情をしてはいたが、ベルモントの唯一の遺品である剣を拾い、強く握りしめたストレリチアの瞳には強い意志、決意が宿っていた。


「安らかに眠れ『獅子王』よ···· お前の無念は私が晴らす····!」


が、やはりこの女の登場でそのシリアスな空気も台無しにされるッッ!!



「ストレリチア先輩ッ!! 不肖このベロニカ、ただ今助太刀に参上しましたッ! さぁ、裏切り者は何処ですか、このダリルさんが全て粉砕しますよッッ!」



そう、何故かどや顔で参上したベロニカであるッ!!



「·····別に増援をお願いしてはないし、ただ連れてこいと言っただけでなんだけどなぁ。あと、もう裏切り者との決着もついているし」


「えぇぇぇ!! 本当ですか! ちなみにその裏切り者とはどなたのことで····?」


「うん····· まあその話は追々な」


ストレリチアは裏切り者の正体に興味津々のベロニカを尻目に傷だらけのダリルに問い掛ける。


「所で君も中々派手に闘ってきたみたいだな。で、しっかり殺ってきたのかい?」


「····いや、決着はつけきれなかった。取り逃がしてしまったからな」 


「取り逃がしたって? 何かの冗談だろそれは」


ストレリチアは呆れたかのように言葉を放つ、否、その言葉には呆れを通り越して侮蔑や軽蔑すらも含まれていた。


「····どうしようと俺の勝手だ。お前には関係無い話だ····」


「幼なじみだから殺せ無かったんじゃないか? こっちはあの小娘に部下を殺されているんだ、お前の勝手にされちゃあ困るんだよ」


「····否定はせん。敵だと分かっていながら非情に成りきれ無かったのは確かだ···· お前とは違ってな」


「!?·····その一言は余計だったな、坊や····」


ダリルは察していたのだ、ストレリチアが相手をしていた裏切り者の正体に。


どの様な背景があったかは分からないがストレリチアに尊敬していた人物が殺されたという事実が彼女に対して反感の念を持たせ、挑発的な言葉を選択させたのである。


「えっ、ちょ何ですかこの雰囲気·····」


突如として険悪な雰囲気を出す二人に間であたふたするベロニカ。


それを察して遠くへ逃げるプルム。



「随分と殺気を放つものだな坊や、そんなに私と闘りたいのかい?」


「俺はそれでも構わんぞ、剣聖」 


一難去って一難、巨大なマナ同士がぶつかり合い王宮全体がにわかに震え始める。


二人が激突すれば、前の二戦と比べなれない二次被害が出るのは必至。


されど闘いの火照りが冷めぬ両者はそれを分かっていながらも矛を収めようともせず、衝突は不可避に思われたが──



「双方止めないかッ!」



突如廊下に鳴り響く声、その人物はマリーの寝室から出てきた─


「····申し訳ございませんカルミア様。少々熱くなりすぎておりました」


そう、5年前魔王軍と通じ王家を追放された人物、カルミア·ロイだったッ!


「ストレリチア····· お前はフランシアが保有する最高戦力の一人、軽率な行動は控えるように分かったな?」


「承知いたしました、閣下」


カルミアは噂の嫉妬に狂った人間だと思えないほど、凛とし威厳ある表情でストレリチアを諌める。


「そしてダリルとやら大義であったな。国王陛下に替わって礼を言うぞ」


「····まさか礼を言いたいがために俺達をここに連れてきたんじゃないだろうな·····?」


まるで誰かの手のひらで踊らされているような感覚に苛立ちを覚えたダリルはその感情を言葉に乗せて放つが本人は全く意に返すことなく、余裕の微笑みすら見られた。


「フフ、マリーが話していた通りせっかちな男なのだな、嫌いじゃないわ。その通り、お前達とは少々情報交換しておきたくてな····· だが話はまた後日にしましょう、今はその怪我を治しなさい」


「後日だと? 悪いがそんな時間は──」


「話は最後まで聞きなさい。せっかちが過ぎると女に嫌われるわよ? ゾルトラに備えての修練なら焦らなくても大丈夫、なんせ魔王軍が到着するのは少なかれあと二週間は掛かるのだからね」


「4日間ではなく二週間だと!? 一体どういうことだ!」


「一言で言えば向こうの事情が大分変わったと云うことね。だから今は怪我を治し、そして後日またここに来なさい。わかったわね?」──

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