1-44 栄光

ベルモントの経歴はまさに栄光に満ち溢れている──


上級貴族の子息として生を受けた彼は、幼少より剣の修練に励み10才の時には既にグランオルドルの一級騎士に引けを取らない実力を持っていた。


そんな彼は周囲の期待通り14才の時にグランオルドルに入隊、同期との隔絶した実力を存分に発揮し若手ながら頭角を表し始める。


そして、入隊から6年後20才を向かえようとした時に彼を一躍有名に『マルセイル血の日曜日事件』が起きた──


それは観光客や休日を楽しむ人々が賑わう日曜日に起きた。西方世界の南方にある魔族達の国家が犇めく別大陸····· 通称『暗黒世界』から突如S級モンスター『ジャバウォック』を筆頭にB、C級飛竜型モンスターが大挙して海岸都市『マルセイル』に押し寄せたのである。


美しいエメラルドグリーンの海は一転、人間達の血で赤く染まり、逃げ惑う人々、町のあらゆる所から悲鳴が聞こえ、駐屯兵や居合わせた勇者パーティーは応戦するが地獄絵図の様相を呈し始めていた。


だが、この町にはいたのだ! 別の任務のために滞在していたベルモントがッッ!!


彼は各地で応戦している者達の元へ駆け付けこれを統率し、的確な指示で人々を最優先で保護させ、そしてベルモント本人は剣聖や上級勇者パーティーですら手こずるS級モンスターを単独撃破という快挙を成し遂げるのだった。


本来町一つ壊滅しても可笑しくない危機に対して、個人の武勇だけではなく卓越した指導力で被害を最小限に納めたベルモントは国内外から称賛された。


そして半年後、確かな実力と名声を持つベルモントは『剣聖』の称号を得る。


彼の実力だけではなく、その誠実さと優しさは人々の心を掴み多くの者、あのダリルすらも尊敬し、自身の目標としたのであった。


かくして誕生したこの偉大なる『獅子王』は永遠に人々から称賛されたのである──







だが、この話は男の周囲からの評価······


男自身の評価は違う······


男は満ち足りていなかった·······


人々から飽きるほど尊敬され、称賛されても尚渇き続けていた······


男が、ベルモントが求めていたのはただ一つッ!!


『最強』という称号のみだったッ!!!!



だが、人々から尊敬されていても彼がこの称号を得ることはなく、それを得たのは同世代の怪物『最強勇者』ブレイドだった。


彼はベルモントの正に真逆の人間であり、無銭飲食をするは、人の恋人を寝とるは、誰の命令も聞かないはで粗暴と無責任を体現したかのような人物であったが、彼はそれでも人々を魅了させた──



単純な迄の個としての強さのみでブレイドは数多の人間を魅力させたのであるッ!!


ベルモントも彼に追い付くべく更に激しい修練と数多の死地を潜り抜けるがそれでも怪物との差は埋まることなく、そして剣聖就任から4年後もう一つの『越えられない壁』と遭遇する──


その少女はグランオルドルの入隊試験の実技において挑発し激昂させた当時の騎士団長を圧倒し、後に最年少の剣聖となる『雷閃』ストレリチアであるッ!!!


同じ時代を生きる二人の異次元の存在──


かくして強さを渇望する男の心境は人知れず嫉妬に支配され始め、怪物達を越え『最強』に至るために男は魔王の誘惑に負け、人間を棄てるのであった───



───突然の決着43秒前、王宮マリー寝室前の廊下にて



そして力を得たベルモントは対峙していたッッ!!!


異次元の怪物、ストレリチアとッッ!!


ストレリチアは未だに背中の傷を受けた理由は分かっていなかったが、この距離と時間は自分に不利だと悟り一気に決着をつけるべく剣を右肩に担ぐような構えを取る。


「屋内でこの技は使いたく無かったけどな·····」


それを見たベルモントは再び上段の構えとる。


(やはり『雷撃』で来るかッ! 貴様は踏み台だストレリチア···· 貴様を奥義ごと打ち破り、私はブレイドに挑戦するッッ!!!)


静まり帰る廊下、響くのは二人の息遣いのみ。


ストレリチアはゆっくりと深呼吸を繰り返し、彼女の発動した雷魔法は徐々にバチバチと大きな音と空気を震わせる。


そして、意を決した彼女は雷纏う右足で第一歩を踏み込むッッ!!


その一歩は力強くという表現で足りない程の衝撃を床に伝え、後ろの建造物が激しく震動し多数の亀裂を発生させながら──



ストレリチアを雷速の世界へと送りこんだッッッ!!!



まさに雷と化した彼女は目にも止まらぬスピードで男に向かうがッッ!!!



(見えたぞッッ!! 敗れたりストレリチアッッ!)



ベルモントは全力で振り抜きッッ! 渾身の一撃、『神空斬』を放ったッッッ!!!──

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