1-43 剣聖対決

──ロベリアとの激闘決着30分前、王宮マリーの寝室前



マリーの寝室前の廊下は鮮血が壁、床に飛び散り静寂に包まれていた。


普段より衛兵がロベリアの件もありさらに増員されていたのだが、彼らはたった一人の男に抵抗することもできず虐殺されたのである。


血塗られた剣を片手に男はドアノブを掴むが──


「レディーの部屋にそんな小汚ない格好で入ろうとするなんてベデリカシーが無いな、ベルモント団長?」


男、もといグランオルドル団長のベルモントが声の方向に振り向くとそこには剣聖ストレリチアが何時も通り無気力な表情のまま佇んでいた。


「何を言っているストレリチア、私が駆け付けて来た頃にはもう·····」


「つまらない言い訳をするなんて『獅子王』も落ちたものだな。無駄だ、全部見ていたからな」


「······そうか、可愛そうに、こいつらは全員お前に見殺しにされたのか」


「殺した奴の方がもっと悪いに決まっているだろ、何で私が悪いような言いぐさなんだ。しかし貴方が本当に内通者だったとはね······ 結構尊敬していたのにな、団長としては」


「······誰かがお前に入れ知恵をしたようだな、ストレリチア」


「気になるんだった教えてやるよ···· 私に勝てたらな」


「フン、難儀だなそれは」


場所は長い一本道の廊下、お互いの距離は30メートル程度、両者剣士である以上有効射程の遥か外側に位置している筈だが───


最初に動くはストレリチアッ!!! まるで急ぎ自身の間合いまで詰めるかのように猛然と駆ける。


一方ベルモントは悠然と上段の構えをとりまさに空を切り始めると、突如床、壁、天井が切り裂かれたかのようにストレリチアの方向に向かって一本線の切り口が発生する。


そう!! 防御不可能な風魔法の斬撃、『真空斬』であるッッッ!!


ストレリチアはその異常な光景を見ても止まらないッ! 怯まないッ! そして彼女もその右手に握る剣で空を切り始める、否、向かってくる真空斬を振り払うかのように全力で剣を振り回すッッ!!


(!! 流石だなストレリチア! 剣で斬れないならば、風圧だけで真空斬を打ち消したか! だが迂闊だぞッッ!)


特攻を続けるストレリチアだったが、自身の異変に気が付いた彼女は突如その歩みを辞め、跳躍して後退する。


(!? 一体いつ?)


彼女は感じた異変、それは真空斬を全て打ち落とした筈なのに背中に受けた大きな切り傷ッッ!!


傷自体は深くないが、真空斬を全て察知出来なかったという事実が彼女の攻撃の意思を鈍らせたのである。


(······背後から人の気配はしない···· ならばこの背中の傷は前方のベルモントによるもの?)


「どうしたストレリチア? そんな離れてるとお前の剣は届かないぞ?」


挑発するベルモント、彼の体から赤黒い魔法陣が浮かび出る。


「······なるほど、それが外道の術、呪印装術とやらか」


「これも知っているのか? いよいよ、お前に入れ知恵した人物を生かす訳には行かなくなったな······! お前も殺されたくなければさっさと命乞いをするんだな」


「·····フフフフフフ」


突如微笑み出したストレリチア。その小さな笑い声は二人だけの廊下に響き渡る。


「·····何が可笑しい、ストレリチア·····」


「フフ、ちょっと可愛くてね。こんな切り傷一つつけただけで嬉しそうにしている元『剣聖』の姿が」


その一言でベルモントの魔方陣はさらに輝きだす──


「貴様もか····· 貴様も私の力を認めず愚弄するのかッ!!」


「ん、怒ったのかい? 分かってないようだから言ってやるが、そんな『物』に頼った所で私やブレイドには勝てないんだよ····· 鍛練を諦め、ちんけなプライドを守るために外道に堕ちた負け犬にはなッ······!」


「黙れッッ!! 私は貴様らをッッ!! 人間を遥かに越える力を手に入れたのだッッ!!!」


「力を手入れた? 人間を棄てたの間違いだろ······!」


再び構える両雄ッッ!!!


拮抗した力の衝突は更なる激闘が予想されたが、43秒後それは突然と終わる──


その時、ベルモントは目撃した·····


首の無い胴体から噴水の様に血液が飛び散る様を───




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