1-30 急展開

「ねえ! 始めていいよね!」


「え!? 貴方が挑戦するの!?」


マリーは再度話しかけてきた人物を見て言葉を返してしまった。先程の二人に比べ······ 否、今までの挑戦者に比べ明らかに華奢なその人物は不満気な顔を彼女に向け言い返す。


「何だよ! 君は何時も人を見た目で判断するんだね!」


この意外な挑戦者に周りの野次馬達が茶々をいれ始める。


「何だ兄ちゃん人を殴ったことあるよかよ!」


「兄ちゃんなのか? こいつ、女にも見えるぞ?」


「殴り倒したら飯奢ってやるよ!」


誰もが無敵の肉体をもつ大男を殴り倒せると思っておらず馬鹿にし、それを充分に察しているこの人物は露骨に量頬を膨らませ不満の言葉を述べ始める。


「揃いも揃って馬鹿にしやがって! 後で吠え面かくなよ! お姉さん始めてよ!」


「わ、わかりました! それじゃあ制限時間は一分! レディーファイッ!」


ベロニカが急かされて合図を切るとそれと同時にその人物は速くもなく、かといって遅くもない正拳突きに似た一撃を繰り出し───




正にダリルの腹筋と拳が接触しようとするその瞬間、ほんの一瞬───











その人物から全身の血が逆流するほど身の毛もよだつような、ドス黒い吐き気を催すようなマナが発せられたッッッッ!!!



ほとんどの者はそのマナを察知できず知らぬ間に鳥肌と寒気を感じただけだが、この近くにいたごく少数の実力者達とトイレに行ったプルム 、そしてこの男もそれを確かに感知したッッッッッ!!!!



──パシッ



男は絶対の肉体を持っていた····· それはオーガ族やゴリアテ族、魔族トップクラスの身体能力をもつもの達でも壊しきれい程の·····



そんな男が、この華奢の人物の拳を──


手のひらで受け止めたッッッッ!!!



「え? え?」



ベロニカは混乱した。華奢な人物の拳を受け止め、見たこともない驚きの表情を浮かべながら冷や汗をかくダリルの姿にッッ!!


「ふーん、成る程成る程····· これ程とはね~」


「····お前、一体何者だ」

 

完全に目が覚めたダリルは得体の知れない人物に問い掛けるが·····


「その質問は無意味さ、恐らく君は僕と再開することはないだろうからね·····」


その人物はマリーの方に目を向け別れの言葉を告げ、


「じゃあね、マリー。また会おう」


そそくさと建物の間の裏路地へと去っていった。


「····マリー様、さっきの人と知り合いなのですか?」


「·····いえ、会った記憶はないはずだけど」


「はずだけど?」


「何だか····· 懐かしい感じがしたわ·····」


突然の出来事に唖然とする女二人と男と野次馬たち。彼らを現実に引き戻すように盛大に息を切らしながら走って戻ってきたプルムが大声をあげて問い詰める。


「ハァハァハァ、ベロニカ!? ダリルは無事か!? さっきここに中性的な子供にも大人にも見えるような奴が来なかったか!!?!?」


「え? え? その····」


その表情は何時もの飄々としたどこか余裕のある面影はなく、大粒の汗を流しその険しい顔つきは真っ赤になっていた。


「俺は無事だ、プルム。あいつはそこの裏路地に入って行ったぞ···· お前はあいつの事を何か知っているんだな?」


余りの剣幕に押されるベロニカに代わり返答するダリル、この男もプルムの取り乱しぶりを見て察し始めていた、あの人物がただ者では無いことをそしてプルムと深い因縁があるということをッッッ!!



「ッッ!? わかった!!」


「待てッ!! プルム!!」


「なんだよ!? 急がないと──」


「·····約束しろ、無茶はするなと。そして必ず戻ってこい!」


プルムはその意外な言葉に一瞬唖然とした、引き留められるかと、正体を話せと言われるかと思っていたからだ。


無論ダリルも本心としてはそうしたかったが、プルムの強い意思を尊重し後押しすることにしたのだッ!


「·····約束するよ相棒! オレは必ず戻る」


少しの冷静さを取り戻したプルムは笑みを浮かべ返答すると裏路地へと向かうのだった──





(いやはや本当に彼が『神が宿りし者』だったとは。しかしあの実力じゃあねぇ·····)


その人物は一人裏路地を歩きながら考え事をしていた。


「フレイアぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


背中の方向から突如なり響く、その懐かしい声を聞いたフレイアはゆっくりと不敵な笑みを浮かべながら声の主の方向へ体を向ける。


「おやおや、これは奇遇···· 懐かしい声が聞こえたと思ったら君だったのかい、『災厄の子』プルム。嬉しいよまた会えてね····」


「オレは二度とアンタに会いたくなかったがな!! 『魔王』フレイアッッ!!」──

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