1-29 繁盛、殴られ屋ダリル

──殴られ屋ダリル、開業30分前


プルムの荒唐無稽な提案に二人は驚きの声をあげた。


「えぇぇぇぇ!! 寝てるダリルさんを使って殴られ屋をやるですって!? てか、何で景品として私のオリハルコンの剣をプレゼントしなきゃいけないんですか!?」


「まあまあ、落ち着けよベロニカ。景品があった方が客受けが良いのは当たり前だろ。それに考えてみろよ、こいつはオーガ族とゴリアテ族の猛攻を耐えきった男だぞ? 今さら人間のパンチやキックを受けたところで倒れると思うか?」


「うううう····· 確かにそうとは思いますけど、この剣は私がグランオルドルに入隊したときに、田舎の両親がなけなしのお金で買ってくれた大切な物····· もし本当に手放したりしたら·····」


悩むベロニカを見てマリーは謎の決心をする。


「······そんな大切な物を景品にするわけにはいかないわ、安心してベロニカ! 本当は王家に伝わる秘宝中の秘宝だけど、この金細工と巨大ダイアで作られているペンダントを──」


「出します! 出します! 私のオリハルコンの剣、景品に出しますから、そんな大切な物ホイホイと出さないでくださいマリー様!?」


マリーのお節介がベロニカに決断させたッッッ!!


「しかし、本当にこんなので儲かるんですかね~」


「う~ん、私もそう思うわ····· 本当に大丈夫なのプルムちゃん?」


「フッフッフッ、まあ見てなさいよお二方。ずくに分かるさ」


──殴られ屋ダリル、開業30分後


「·····いや~、何が成功するか世の中分からないものですねマリー様」


「そうね····」


二人が見た光景とは·····


「いいぞ、やれぇ!!」

 

「おら!! いけるぞ兄ちゃん!!」


「金的だ! 金的を狙え!」


「なんだあいつ!! あんなボコボコにされているのに表情一つ変えねえぞ!?」


「なんつー体つきしてやがるんだ!! あいつ本当に人間か!?」


そう!! まさかの大盛況ッッッッッ!!!


仁王立ちして眠るダリルの周りには、殺気だつ人だかりができ、ヤジと暴言が飛交わっていた。


「はい~ 一分終了~ 残念でしたね! またの挑戦お待ちしております~」


「くそっ!! どうなってるんだこいつの体!!」


また一人、挑戦者が愚痴を言って去っていく。


「おお~! ついに二十人抜きだッ!!」


「十二人目の挑戦者なんて、殴り過ぎて拳がぶっ壊れたらしいぞ!!」


「あいつの体がオリハルコンで出来てるんじゃなねえか!?」


「みろよ、あいつの顔!! 服は殴られ過ぎてボロボロだけど、涼しい顔してやがるぜ!」



「······Zzzzzz」



無論ダリルは目を開いたまま寝ていた。身体強化魔法も理合も使っておらず生身の状態であったが今の男にとって、挑戦者達の打撃などそよ風か吹いた程度しか感じていなかったのである。


そんなことも露知らず、取り巻き達のボルテージは更に上がり、無謀な挑戦者達は挑み続けたが──


──更に30分後


「うぉー!!! 遂に五十人抜きだーッッ!!」


「すげぇ! すごすぎるぞあいつ! 本当になにもんなんだ!!」


「さっきの兄ちゃん、自慢の頭突きしたら自分の頭蓋骨折れて重体らしいぞ!」


ダリルの肉体による犠牲者だけが増えていったッッッ!!!


「······Zzzzzz」


が、しかし流石にこの男の規格外過ぎるタフネスさに挑戦者はここでパタリと来なくなってしまった。


「ほらー、他の挑戦者はいないかーい(流石にそろそろ潮時か····· ま、十分に稼がせて貰ったからここらでお暇としますか)」


プルムが潮時とみて、殴られ屋を御開きにしようとしたところ······


「待ちな、アタイらが挑戦するよ」


プルムが後ろを振り向くとそこには真っ赤なロングヘアーで目付きが鋭い鎧を着けた女性が腰に手をあて立っていた。


「お姉さんが挑戦? オーケー、オーケー! 歓迎だよ!!」


「誰がアタイがやるといった、挑戦するのはこいつさ」


女騎士が親指を後ろに向けると、周りの野次馬をかき分け、ダリルの倍の筋肉はあるであろう

モヒカンヘッドの巨漢がやって来た。


この二人を見た観客の一人が驚きの声をあげ、勝手に解説し始める。


「あ、あいつら『バルバロッサ』だ! オストラインの勇者パーティーで、S級モンスターのホワイトドラゴンを討伐して一気に名をあげた奴等だ!?」


「何だって!? 『バルバロッサ』といえばフランシアの列強勇者に匹敵する実力者だと聞いてるぞ!? こいつらも王都防衛戦に参加するつもりだと言うのか!?」


「ふっふっふっ、勝手に説明してくれてありがとう。そうよ、アタイ達は更なる名声と強敵を求めてここに来たのよ!」


プルムはニヤリと笑い女騎士に話し掛ける。


「へえ~、お姉さん達有名人なのね~」


「そうよ、坊や。ほら、さっさと始めなさい」


女騎士が正銅貨一枚を差し出すが、プルムは両手でばってんを作り拒否するッッ!!


「な、どういうことだい! 他の奴は正銅貨一枚で挑戦してたじゃないか!」


「ええ~、だってお姉さん達強いことで有名なんでしょう~ それなら正銅貨じゃなくて正銀貨ぐら位じゃないとね~」


「なっ! アンタ正銀貨一枚分の景品に正銀貨一枚の挑戦料を払うバカ──」


「ライラック、良いから払ってやれ。俺がこいつを殴り倒せば問題なかろう?」


モヒカン大男は女騎士ことライラックの文句を遮ると、寝ているダリルの前に立ち、メンチを切り始める。


「お前がアルザーヌでゴリアテ族を屠った男か····· あと1日到着が早ければその名誉は俺達の物だったのにな···· どんな奴かと思えばガッカリだぜ、こんな雑魚ども相手に小遣い稼ぎしてるなんてよぉ!」


モヒカン大男は更にその眼光を強めるッッ!!!


一方のダリルはッッ!!!!


「······Zzzzzz」


これを無視ッッ!!!


否、意識なしッッ!!


この無礼な態度はモヒカン男の怒りのゲージをトップギアにさせ、野次馬たちを更に沸き立たせるッ!!!


「うぉー、すげぇ!! あんなタンカ切られてガン無視しやがった!!」


「オイオイオイ! 死ぬわあいつ!」


モヒカン大男は額に青筋を立て、プルムに対して怒鳴る!!


「小僧ぉぉ!! さっさと開始の合図をしろぉぉ!!」


「ok! 制限時間は一分! レディーファイッッッッッ!!!」 


「食らえ!! 俺の必殺技『竜殺神拳』をなあッッッ!!」


必殺の拳がスヤスヤ寝ているダリルに襲いかかるッッッッ!!!



──一分後


「はい終了です~ 惜しかったですね~」


「なぜだぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」


が、ダメッ!! このモヒカン男の拳は全く通用しなかった!!!!


「そ、そんな···· あいつの拳はホワイトドラゴンにだって通用したのに···」


この以外な結果にライラックをも唖然とさせた。


「フフフフフ、私のライバルと呼ばれた貴方も堕ちたものですな。無抵抗の人間ひとり倒せないとはね」


モヒカン大男がその声の方向を向くと、そこにはこれまた筋肉モリモリの修道服を着たリーゼントの大男がいた。


「フフフフフ、久しぶりですねビスマルク」


「お、お前はクロムウェル! 何故ここに!?」


その名前を聞いた観客の一人が驚きの声をあげ、また勝手に解説し始める。


「く、クロムウェルだって!? あのアルビオンの『破壊牧師』クロムウェルなのか!?」


「『破壊牧師』と言えばたった一人でアルビオン最大の盗賊集団『夜明けの守人』を壊滅させたことで有名な!? こいつも王都防衛に参加するってのか!?」

 

「フフフフ、勝手に説明してくれてありがとうございます。私も己の実力を試すために参加するんですよ、王都防衛戦にね···· その前に倒させもらいますよ、この大男をね」


「おっ、お兄さんも挑戦するのかい? じゃあ有名人みたいだから正銀貨一枚で」


「当然! 私はそこの地面に転がっている負け犬より有名人でより強いので払いますよ」


「な、何だと!」


「話が分かるね~ じゃあ早速いくぞ! レディーファイッッッッッ!」


「見ていなさいビスマルク! 本物の神拳とはこういうもの───」




───一分後ッ!!!


「はい終了~ もうちょっとでしたね~」


「なぜなのですかぁぁぁぁぁ!??!!!」


やっぱりダメッッ!!! もう全然ダメッッッッッ!!!



「何だか酷い茶番を見た気がするけど、正銀貨二枚儲かったからヨシとするか! すまんマリー、ベロニカ! オレちょっとトイレいきたくなってきたから対応頼むわ! もう挑戦者来ないと思うけどな」


そう言うとプルムはそそくさとトイレを探しに走っていくのだった。


「·····いっぱい儲かっちゃいましたねマリー様」


「そうね、このお金でプルムちゃんの服の前にダリルの服を買ってあげましょうか····」


ボロボロの服を、否、もはやボロの布切れを纏いながら仁王立ちで眠る男を見つめて、たそがれる女二人·····


盛り上がった野次馬は多けれど、もはや挑戦者はいないと思ったが······


「はいはーい! 僕、挑戦するよ!」


人だかりの後ろからブンブンと両手をふってアピールし人混みをかき分けベロニカとマリー、そしてダリルの前にやって来ると····



その白髪の男子かと思えば女子のようにも見え、大人かと思えば子供のようにも見える人物はニッコリと笑いいい放った──




「はい正銅貨一枚! それじゃあ始めていいよね!」

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