1-21 三人の同位体

──ギレム消失直後、メッサにて


「神が宿りし者?」


ダリルにはその言葉に聞き覚えがあった。そう、ラウと別れ際に言われたあの言葉だ。


「....驚いた、アンタ自覚なかったのかい? 最近、妙に力が湧き出るような事がなかったか?」


「ある」


「体格が急激に変わったことも?」


「それもあるッ!」


「性格が妙に強気に成ったり、ポジティブに変わったりも?」


「全部あるッッ!!」


「ひえ~、そんでもってその腕の魔方陣だろ? 話しでは聞いていたけど200年生きていて実物は初めて見たぜ」


「腕?」

  

ダリルが自分の腕を見るとそこにはびっしりと先程のギレムのような魔方陣が痣のように浮かび上がっていたッ!


「何だこれ! 気持ち悪ッ!」


プルムはその腕を指差しながら語り始める。


「そう、その気持ち悪い程びっしりの魔方陣みたいな痣が証拠! 浮かび出るのが短時間だからアンタが気が付いてないだけで、これまでの戦いの中でここぞと言うときは出てたはずだぜ....バカ力と一緒にな」


ダリルは思い返した、

ゾルトラ戦での正に自身の命をかけた渾身の破勁を....

エルヒガンテ戦で見せた極限まて理合で威力を高めた回し蹴りを....

そして先程のギレムへの破壊的なまでの一撃を....


程度の差があれど共通して感じた事は一つ、全て自分の中の『壁』を打ち破ったような感覚であった。


「一体、『神が宿りし者』とは何なんだ?」


その言葉をまるで待っていたかようにプルムは不適な笑みを浮かべると衝撃の事実を語り始める──


「──ぶっちゃけオレにもよくわからん」


「....そうか、じゃあこれからはお前への制裁タイムだ....!」


少し苛立ちながら近づくダリルにプルムは焦りながら弁明する。


「ちょっ! 冗談だよジョーダン! オレはよくわかってないけど、クサレ悪友からは聞いたことがあるから! 全く、ジョークが通じないんだからなぁ」


「お前のつまらんジョークを笑えるのは阿呆かベロニカぐらいだ。で、もう一度聞くとぞ、何なんだ神が宿りし者とは....」


再び真剣な表情に戻ったプルムは真っ直ぐとダリルの目を見つめる。


「悪友曰く、それを『リミッターが壊れた存在』と」


「リミッター? どういうことだ」


「人間であれ魔族であれ、生物の枠組みである以上どれ程時を掛けて鍛えたとしてもいずれマナや肉体に限界、上限に到達して、緩やかに衰えていくのが必然」


プルムはダリルを指差す。


「でも、神が宿りし者は違う....彼らは鍛えれば鍛えただけ強くなり、強敵に自分の技が通用したなくても瞬く間に更に強力な技を身につけ打ち倒し、難敵の拳に一度は沈んだとしても再戦する頃には全ての攻撃をはじき返す強靭な肉体を手に入れてしまう....そして彼らの強さは加齢と共に衰えることなく際限なく増長しいく、この世の理から外れた存在....らしい」


普通の人物なら信じない話であるが、ダリルは合点がついたように納得していた。本人が一番驚き不思議に思っていたからだ、この三ヶ月に自身の変わり様に──


「他にも居るのか? 俺のような存在は」


「オレが聞いている話だと西方世界と東方世界に一人ずついるらしい」


「その一人がアレウスとやらか....?」


「御名答、何だ知っているのか。オレも見たことはないが人は奴を『人型にあらゆる災厄を押し込めた存在』、『神をも屠殺する拳を持つ男』、『魔族が束になっても敵わない者』とか大層な触れ込みがあるぐらいだから相当強いんだろうな。もう一人の東方世界に現れたのは、ごく最近だから本当になんも知らないけどな」


「もしかしてそのもう一人はラウという人物なのか?」


「ラウ? ああ、武神ラウのことか。確かに東方世界最強と言われているが、そいつとは別人らしいぞ」


(東方世界最強....やはり貴方はただ者では無かったのですね、ラウ師匠!!)


何故か気を良くしているダリルを見て、プルムが交渉を切り出した。


「よし、それじゃあそろそろ本題に入ろうか! なあアンタ、オレを雇ってみたりしないかい? 後悔はさせないぜ───」

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