1-22 可愛いは正義
「·····何故俺がお前雇う必要がある? これからお前を制裁するというのに」
「まあ話を聞けよ相棒。アンタもどうせ最強の称号とやらを目指して旅をしている口だろ? 悪友がこうも言っていたぜ、『神が宿りし者』達は例外なく己の強さを証明せずにいられない人種で、同時期に二人以上いる場合は確実に激突する運命だとな」
「それがお前を雇うのと何の関係が?」
「これまで以上の激闘が待っているのに、そんな『手負い』の体で何時まで持つかと言っているんだよ」
プルムの観察眼による考察はほぼ完璧だった。平然としてはいるがココネオ村のゾルトラ、アルザーヌのエルヒガンテ、そしてメッサでのギレム····三度の死闘は確実に男の体を蝕み始めており、この先も似たような戦闘が起きた場合は王都までもつのかすら怪しくなり始めていた。
「····なるほど、一流の治癒術師は一目見ただけでそいつの状態が診断出来ると聞いたが、噂は本当のようだな」
「それだけじゃねえ、本業の魔術研究家としても超一流だぜ? 今後は怪我の心配をしなくてもいいし、なによりオレの技術と知識があれば誰よりも強く成れるはずだ。悪い話じゃないだろ?」
「でもって、報酬は俺がお前のモルモットになれというところか?」
「モルモットなんて人聞きの悪い! ま、オレの研究の観察対象という所かな。で、どうするよ?」
そう言うと握手を求めるようにプルムは手を差し出してきた。
常人ならばこの先程まで敵対していた胡散臭いエルフの言葉を信じる事など不可能だろう·····だがダリルもまた追い詰められていたのだ! 既にゾルトラとの再戦があと一週間弱で在るのにも関わらず未だに勝機を掴めていないことにッッ!!
故に男の決断は既に決まっていた───
「期待外れなら何時でも切るからな」
「お、早速ボス面か! 任せな、期待以上の働きをしてやるよ」
二人の男が手を固く握り合い、ここに契約成立ッッ!!!
「····ところで、プルムよ」
「ん? どうしたんだ相棒」
「お前、何で裸なんだ? あと、男だったんだな····」
「·····今さらかよ」───
─「私は絶対に認めませんからねッッ!!!」
物置小屋に戻った男二人に、激しい剣幕で怒鳴り散らす女性····なんと! あのベロニカがであるッッ!!
「ダリルさんも何を考えているんですか! マリー様を拐おうとした犯人を捕まえてきたと思ったら王都まで一緒に同行させるなんて! 普通そんなこと考えませんよ!!」
「まあまあ、ほら怒るのも分かるけどお茶でも飲んで落ち着いて」
「あなたのせいで怒ってるんですよ!! なーに、仲裁役みたいな面しちゃってるんですか!! しかも、あなた男であの時裸だったなんて····私、マリー様が叫んで倒れてしまった理由、何となくわかっちゃいましたよ····おいたわしやマリー様」
ベロニカは毛布を被り未だ目の覚めないマリーを憐れみの目で見つめる。ベロニカは森で倒れているマリーを発見後物置小屋まで連れ戻し、介抱したのだ。
「·····ベロニカ、お前の言い分も分かる。だが、そこを何とかならないか····?」
流石のあの傲慢不遜のダリルも筋の通らない話だと思ったのか、ベロニカに対して頭を下げて懇願した。この真摯な姿勢を見てベロニカもヒートダウンする。
「····ダリルさんがそこまでするってことは何か理由があるんですね····でも一つ条件があります!! 私の意見はもう良いとして、マリー様がダメだと言ったらダメですからね! それで良いですね!」
「えぇ·····オレあの子に確実に恨まれているから絶対無理じゃん」
「だまらっしゃい! これ以上の譲歩はありませんからね!!」
「·····話は聞かせて貰ったわ····」
ダリルを含め全員に緊張が走るッ! 目覚めたのだ、マリーがッ!
彼女はゆっくりと上半身を起こすと、虚ろな瞳でプルムを見つめる·····
少しの沈黙のあと、彼女は右の拳を弱々しくも前へと突きだし親指を力強く天へと向けたッッッッ!!!!
「·····女子でも男子でも関係ない·····可愛いは正義よ······!」
「·····えぇ、マリー様····」
プルム、同行決定ッッッッッ!!!!!
─魔王軍、王都到着まで残り8日!!!
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