1-19 必殺の技

間合いを支配したダリルの重厚な鉤突き(肝臓)、猿臂(下顎)、裏拳(側頭)三連撃が次々と空気を震わせながら炸裂したッッッ!!!


「クカァッ!?!」 


しかしこの男もまた歴然の勇!! 

接触する瞬間体を僅かに捻ることで直撃は避けていたのだ!! 

たが、それにも関わらず受けたダメージは甚大!!! 

これには堪らずギレムがよろめきながらも距離を取ろうとするが、これは悪手ッッ!!


彼は距離をとれたのではなく、入ってしまったのだ!! その強烈無比な一撃の最有効射程距離にッッ!!

 

「! なッッッ!?」 


ギレムの首筋に不吉な音を出しながらめり込んで行くダリルの足先──


ダリルの満を辞しての第四撃目はゴリアテ族の英雄、エルヒガンテをも撃沈した胴回し回転蹴りッッッ!!!!


ギレムはいなす暇もなく直撃すると再び吹き飛ばされ近くの大樹に轟音を出しながら激突し、糸が切れた人形のようり崩れ落ちた──


「うわ~ 痛そう~ 見えてないけど」


軽口を吐くプルム、しかし勝者であるはずのダリルにの耳には入っていなかった。


(....全てだ、四撃全て殺すつもりで撃ち込んだが....)


「ックカ、カ、どうしたんだいそんな神妙な面持ちをして....?」


普通の人間だったら既に死んでいる程ひしゃげた体が再び立ち上がり──


「以外と大したことないんだなぁ....ゴリアテ族を倒した拳とやらは」


与えたダメージは確かに甚大!!なれど───


「そして、残念だったな。30秒経過だ...!」


この勝負、未だに決着がつかずッッ!!!


「....お前、一体何者だ...?」


ダリルはもはや見ることが出来ない相手に問いかける。


「クカカカカ、良いだろう冥土の土産に教えてやるよ。俺の名は『喪剣』のギレム、『剣聖』をも越える最強の力とより洗礼された必殺の剣技を手にいれた男の名だ!!」


名乗りと同時に男はダリルに向かって駆け出したッッッ!!

 

「『喪剣』だと? そうか....お前があのグランオルドル崩れの殺人鬼か....」


「お喋りするのもそこまでだ! そら、次はどの感覚を奪われたい!!!」


ダリルは足音を頼りにカウンター気味の右正拳突き繰り出すが──


「目の見えない状態で反撃して来るとは恐ろしい奴だな! だがそんな当てずっぽうな拳当たりはせんぞ!!」


直撃直前にギレムはあり得ない角度まで上半身を反らし、反撃の拳は無情にも空を切るッッ!!


そして、両者の交差際にダリルは右太ももと右脇腹に細剣による悪夢の刺し攻撃を受けるッッ!!!


「クカカ、これでお前は30秒後に『触覚』を更に30秒後には『聴覚』すら喪う。だが、そう簡単に殺しはせんぞ? 『声』は奪いはせんからお前の断末魔を聞かせてくれ....!」


不気味に笑うギレム、後一分もしないうちにほぼ全ての感覚と勝機を喪うダリルであったが──


「随分と愉しそうだな」


「それはそうだ! お前みたいな自分を最強だと勘違しているやつほど最期の情けない───」


「違う違う、そうじゃない....俺が言いたいのは御自慢の必殺の剣技とやらが三度も決まっといて人一人殺せてないのに愉しそうだなと言っているんだ」


「....何だと」


この時この勝負に於いて優越感しか感じていなかったギレムの心の中に始めて怒りの感情が芽生え、声に漏れ出す───


「ふっ、なるほどそう言うことか...分かったぞお前が薄汚い殺人鬼に墜ちた理由がな」


「クカカ、何を言って来るかと思えばそんなことか! ただ楽しいからだ!! 人の最後に見せる──」


「いつまでも的外れな事を言うな。それとも自分自身知らないフリをしているのか? だったら教えてやるよ、お前が殺人鬼に為ったのは自分がいくら努力しても越える事が出来ない存在を知ってしまい、そのちんけな虚栄心を満たすために弱い存在で当たり散らして来たんだろ? 違うか?」


「何を言っている....追い込まれて頭がおかしくなったか?」


ギレムの中で怒りの感情が燃え上がり始め、先程までの余裕を含んだ口調はなくなっていたが、ダリルは更にその怒りに燃料を投下する!!


「そう言わずに聞けよ。お前が本当に只の殺人鬼なら剣技など所詮は欲求を満たす為だけの道具、何ら思い入れなどないはずだ。だがこれ迄のお前はどうだった? まるで自慢するかのように自分の剣技をご丁寧に説明までしていただろう? 恐らくお前は誰よりも強くなるのを目指して修練を積んでいたが強くなれば強くなるほど、誰かはわからんが『越えられない壁』の実力差を実感し始め、その姑息なプライドを守る為に御自慢の技を女子供に披露していたという所か? ここまで来ると道化を通り越して哀れにすら思ってくるよ....」



「....ッッ!?!?」



「どうした? まだ一分もたってないのに気味の悪い笑い声が聞こえんぞ? もしかして.....図星か?」



この時ギレムは遥か昔──


まだ自分が最強を目指し、無謀にも『剣聖』に挑んでいた時を思い出していた──


「くそっ、なぜだ! 誰よりも修練を積んだ!! 誰よりも強くなる事を願っている!! 教えてくれ!! なのに何であんたに追い付けないんだ!!!」


久しく忘れていた劣等感と無力感が──


「....だって君──」


ギレムの中で大きく膨れ上がり──




「....センス、ないから」




爆発したッッッッッ!!!!!! 



「黙れ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」



激情に駆られた男はダリルに向かって一直線に突撃する!!


「殺す殺す殺す殺すッッ!! 誰にも俺の強さを剣技を否定させないッッッ!! 俺を否定したお前は今すぐ殺すッッッッッ!!!!」


細剣の切っ先は真っ直ぐとダリルの脳天を目指し──


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


直撃した!!!だがッ!!!


「───お前が何から何まで俺の思い通りに動いてくれる阿呆で助かったよ」


急所にマナを集中させた肉体の前に、剣は無惨にも折れ曲がり!!!


「礼に見せてやるよ、本物の必殺の技とやらをな....」


ダリルの拳が──


(しまっ!──)


破勁が直撃したッッ!!!!!

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