1-10 ダリルの秘め事
「....貴方達の事とだいたいの事情はわかったわ、この町に入ろうとした下りは意味不明だったけど...」
「? 何でだ、 言っただろ強い奴と戦いに来たと? 」
「あ~ハイハイ~、ダリルさんは黙っていてくださいね~、マリー様もあんまり気にしなくて良いですよ~ この人ただのバトルジャンキーなので」
マリーは納得できずしかめっ面になっていたがダリルはそんなのお構い無しに問いただす
「改めて聞くがどうしてあんたがこんな国境の町に? .....まさか亡命か」
その一言を聞くと彼女の顔が曇り始め、図星なのだとダリルは察した。
「.....釈明する余地もないわ...そうよ私は一人亡命しようとしていたの、グランオルドルの護衛を伴ってね。だけど町から国境を越えようとしたら奴等の強襲にあって...騎士達は私を町の外に隠すと囮に....」
「それで今に至ると.... 恐らく抵抗した騎士達はもう手遅れだろうな、町の住民はどうなった?」
「それもわからないわ..... でも奴等の目的はあくまで私だから町の人には手を出してないはずよ、悲鳴も聞こえてないし...」
「それも今のうちかも知れんがな...痺れを切らしたゴブリン共がどうするかわからんぞ」
──同時刻、アルザーヌ町内中央広場にて
ダリルとマリーが外で話していた頃、町内では住民が中央の広場に武装したゴブリン達によって1ヶ所に集められていた──
「まだ見つからんのか! マリー·ロイはっ!!」
「は、はい....隅から隅まで探しておりますがどこにも..」
指揮官らしきゴブリンは部下に怒鳴り散らしていた。無理もない、首尾よく護衛の騎士達を全滅させ町を占領できたと言っても、当の目的であるマリーが見つけなければ、監視役で付いてきた魔王直属親衛隊の一人、『エルヒガンテ』に粛清されるの目に見えていた──
そんな苛立つゴブリンを見ながら捕らえられた町人達は己の不運を呪っていた。
「くそっ...どうして俺達がこんな目に...」
「マリー·ロイのせいだ! 国民を置いて逃げようとしたあいつが全部悪いんだ!」
「そうよ! あの女が逃げるためにこの町に来たせいで私たちは巻き込まれたのよ! 」
魔王軍の王都接近に伴って、元々この町は隣国に逃亡しようとする避難民がごった返していてそれ事態は何も珍しいことではなかった。
しかしマリーについては違う。彼女は誇り高きロイ王朝の血筋にして、領土と国民の安全と安寧を守る責務がある。大いなる力を持つものは大いなる責任も伴うのだ、それ故に敵前逃亡をし、あまつさえ隣国に亡命しようとする王女など民からすれば侮蔑の対象であり、ゴブリン達が仮に許可すればマリーを私刑するほど憎み始めていた。
「....ッ時間がない!!おい、適当な人間を処刑しろ! 近くに居れば悲鳴を聞いて出てくるかもしれん! 」
──最初に町内の異変に気が付いたのはダリルだった
「──中が騒がしくなってきた....どうやら早速痺れを切らしたらしいな」
「!....貴方達、引き留めてごめんね。王都を、父をよろしくね.... 」
「あんたはどうするつもりだ」
「私は...町の住民を助けに行く...!」
「そ、それなら私たちも一緒に──」
「ダメよ!!それじゃあダメなの!...私が、巻いた種だから、私が全部悪いんだから...私が全部やらなきゃいけないのよ....」
マリー自分の震える手を抑え、その持ち前の力強い眼差しを向けながらダリル達に警告した。
「いい? 貴方達はこの件に無関係だから何も気を負わなくていいし、私がこの後とやかく言うことはないから何もしないで...!もし、手助けなんかしたら絶対に許さないから!!」
そう言い残すとマリーは町の入り口に向かって走り出し、茂みにはダリルとベロニカのみが残された──
「マリー様...どうして亡命なんか....」
「阿呆かお前は。尻尾巻いて安全地帯に逃げようとしていた人間がわざわざ僅かな住民を助けるために死地を行くと思うか? おおかた国王と周りの臣下に亡命を薦められていたが、本人は頑なに断り続け無理やり連れてこられたんだろう。国王の娘に対する溺愛ぶりは有名だからな」
「そ、そうですよね! よし、あんなこと言われたけど助けに行きましょう!! 」
「そうだな」
その言葉を聞いたベロニカは以外そうな顔でダリルを見つめた。
「....なんだ、その顔は...」
「い、いや~あんまり私もダリルさんのこと知ってるわけでないですけどてっきり『断るッ!!俺の拳を振るうのは強敵と戦うため! 決して弱者を救うためにではないッ!!』とかなんとかKY発言するかと思ってたもので~ てか、心なしかマリー様には凄い肩入れしてません? 」
「....気のせいだ、お前はここで荷物でも見張ってながら待っていろ」
そう言うとダリルは何かを隠すように町の方へ走り出すのだった──
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