1-8 国境の町、アルザーヌへ

ダリルは次の日の朝になっても意識が戻らず怪我も全治1ヶ月の重症と診断された。全身の打撲と筋肉断裂、さらにはマナを過剰に加速循環させたことで多臓器不全も引き起こしつつあったのである─


ベロニカはその話を聞いて王都防衛戦には間に合わないと思いつつも、この村をそして自分を救ってくれたヒーローの看護を恩返しと云わんばかりに一晩中行った─


が、しかし!!それはあくまで名目ッ!!ベロニカはダリルのその筋肉美に魅了されていたのだ!


無理もないッ!!ベロニカも花の15才で異性の体について気になるお年頃、騎士という職業上同期異性の裸を見ることはあるが、目の前にあるのは徹底的に無駄をそぎおとした機能性の極致と究極の黄金比を兼ね揃えた芸術的肉体ッ!!


(こ、こいつってやっぱり近くでみると凄い筋肉してるわね、顔もちょっとイケメンだし.....意識戻らないからちょっとなら触って大丈夫よね....?)


理性が欲望に負け、ベロニカは一線を越えようとした─


「何をしている.....?」


ダリルがタイミングよく目覚めた


「ほわちゃぁぁぁぁ!!?!?いやー、ジャイアントモスキートを払おうとしたものでー、ははははっ!!?!てかよく起きましたね、3日は昏睡状態だろうてお医者さん言っていたのに」


「お前の方向から邪気を感じたからな。そんなことよりさっさと出発するぞ」


「えぇぇー、何を言ってるんですか!!?!ダリルさん。全治1ヶ月の大怪我ですよ!?!?!」


「だからだ、ここにいるより王都の治癒術師に治療してもらった方が早く復帰できる。この状態じゃあ戦闘は勿論、修行すら出来ない。...なんせ再戦までもう9日間しかないしな..」


渾身の破勁は確かに通用したが反動はみての通り、故にダリルは更なる修練と新しい『技』の必要性を感じていた─


そんな事を考えていると扉から一人の老人が入ってきた


「おお、目が覚めましたか!!私この村の村長をやっているものですが、この度は村を救って下さりありがとうございました。このお礼はどうしたものかと.....」


「村長だと?ちょうどいい、礼がしたいのならこの村にある薬草とポーションを分けてくれ、俺たちは今から村を出発する」


「ええー!?!?そんな大怪我で!?!?」


「そ、そうですよ!?!ほら村長さんも心配してるからゆっくりしましょう、この村で!?!」


「ダメだ、行くぞッッ!!!!」


かくしてダリルとベロニカは次の国境沿いの町、アルザーヌへと向かうのだった─


─同時刻、王都城内の一室にて


その部屋では男が二人、大きな机の上にあるフランシア王国の地図を眺め険しい表情をしていた─


「幾らなんでも5万の軍勢にしては進軍が早すぎる!!!地方の領主や辺境伯どもは本当に抵抗しているのか!!!」


この苛立ちを隠せない中年小太りのチョビヒゲの男性の名はダルラン。王国の宰相を勤めており実質的な行政、軍事両方の最高権力者でもある。


「中立宣言のみならず裏で一部の諸侯が魔王軍の兵站を手助けしているという噂は本当のようですな...援軍はもはや期待できません、現状の戦力で防衛計画を建て直しましょう」


堂々たる体躯と豪華な甲冑を見にまとい、威厳溢れるこのナイスミドルの名前は『獅子王』のベルモント。王室近衛騎士団、通称グラン·オルドルの団長にして現在、勇者達の反乱で軍事指揮者がほとんど死亡したために臨時て防衛軍司令官を勤めている。

 

「....教えてくれ、我々にはいかほどの戦力が残されているか...」


「はっ!現状の投入可能戦力ですが、まず我々グラン·オルドルの騎士が『剣聖』を含む500名とそれに残留した勇者パーティ50組の総計200名、さらに徴用した市民兵と傭兵の混成防衛隊2万名となっております。数でこそ混成防衛隊が主力ですが後方支援程度でしかあてにできず、実際の戦力の主軸はグラン·オルドル、次いで勇者パーティとなっております」


「....やはり『ブレイド』のバカはまだ見つからんのか...?」


「なにぶん勇者のくせしてパーティを作らずに付き人一人と行動する変わり者でなかなか足取りが掴めず...大の『負け戦好き』で王都危機の知らせを聞けば駆けつけくるはずですが、なんとも」


「結局あてには出来ないということか!!」


ダルランは深くため息をつくと、ふと時計を観ながら呟いた


「そろそろ『あの方』が国境を越える時間か..こうも八方塞がりだと、あの時亡命を強く奨めておいて良かったよ...」


「毅然な国王も子の親といった所ですな...何事もなければよいのですが...」


盛大にフラグを建てる二人....そしてその回収係りはすぐ側まで大きな足音をたてながら迫っていた─


「き、緊急報告です!!」


「どうした、そんなに慌てて!」


「ま、魔王軍の一部隊がアルザーヌへ─」




─ダリルとベロニカが村を出てから2時間程度、アルザーヌ近郊にて





「おえっ...私て男子にお姫様抱っこされるの夢の一つだったんですけど、今は嫌いな男子の行為ランキング一位に躍り出ましたよ....」


そこにはダリルの腕の中でグロッキー状態のベロニカの姿があった。無理もない、王都に急いでいるダリルに無理やりお姫様抱っこされ、通常半日以上かかる道のりを2時間程度でついてしまうほどのスピードで揺さぶられていたのだからッッ!!


「...ベロニカ、確かアルザーヌって国王直轄地だったよな...」


「えー?そうですけど、それがどうしたのですか?」


「なんか見知らぬ旗がたってるぞ...?」


「旗ぁ?何を言って─!!??!」



ベロニカは戦慄した。


その旗が魔王軍のものと気付いたからという訳じゃない!


ダリル謎の本能による強敵発見レーダーで獲物を発見したときに無意識下で出てる、好戦的なナイス笑顔を見てしまいまた自分が巻き込まれる未来を想像したからであるッッ!!─

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