1-7 鬼拳誕生

─ダリルの長い戦いの歴史はこの一戦から始まった。彼の活躍は結果的に西方世界に平和をもたらすことになる─


しかし後世の時代で正史として男の活躍が語られることはなかった。時の為政者達は恐れたのだ、男が成し遂げた伝説的偉業の数々と、そしてやがてこの男の伝説が神格化し体制を脅かすシンボルになることを─


男は自分を英雄とも、ましてや勇者としての栄光や名誉を求めることはなかった─


では、何の為に男は拳を振るい続けたのか─


無論!己こそが最強だと証明するため!!


後にこの時代に生きる全ての者はある異名を共にこの男を知ることになるッッッ!!


鬼(オーガ)をも征する拳を持つ男─


『鬼拳』のダリルとッッッ!!!!!















ダリルが渾身の破勁を打ち込んだ瞬間、まるで大砲のような炸裂音と爆風が周囲の観戦者達を襲い咄嗟に耳と目を塞がせた


...少しの静寂の後に、ベロニカが閉じた瞼を開くとそこには─



血反吐と呻き声を吐きながら片膝を紛れもない大地に着けているゾルトラの姿があったッッ!!!!!



他の村人達も一人、また一人とその歴史的光景を目撃し歓喜の声を上げようとしたその時─


彼らは忘れていた『恐怖』を思い出した.....ゾルトラの『それ』を見たことによって....


「てめ゛め゛め゛め゛め゛め゛え!!??!ふざけやがって!!?!こんだけの奥の手を持ってんなら、何で最初から使わなかったぁぁ!!!?!?」



ゾルトラがキレたッ!


ダリルの一撃はこの歴戦の猛者が経験したことがないほどの威力を誇っていた。故に屈辱的に感じたのだ、最初からこの技を使わなかったダリルに、自身が手を抜かれていたという事実に!!


ゾルトラの姿がみるみると変わっていく


褐色の肌は紅色へと変色し、爪や牙はさらに長く鋭くなり、表情はさらに険しくなっていく、その姿は正に鬼へと変貌しようとしていた─


「お、親父ィ!『それ』使っちまったらこの村全部が吹きとんじまうよ!!」


部下のオーガが警告しても、もはやゾルトラは聞く耳を持たない。許せなかったのだ、自身が

、オーガが侮辱されたことに


この場にいる誰もが凄惨な殺戮を避けれないと予感していた─


だがダリルはこれほど緊迫した状況でも平常通りに一言いい放った





「お前だってこれから『奥の手』とやらを使うつもりなんだろ...」




余りにも呑気かつ真っ当な意見に、本日二回目の怒りを忘れ呆気に取られるゾルトラ、やがて鬼のような異形な姿は何時もの姿に戻っていき、ゾルトラは一人笑いだした


「は、ハハハハハッ!そうだよなぁ、フェアじじゃねぇよな...!かーっ!!キレたのが馬鹿らしいぜ、おいお前ら!!帰るぞ!」


「へ、へい!親父!」


「...なんだ、お前は俺に『奥の手』をみせてくれないのか?」


「ハッ!ここで使っちまったらこの村全部ぶっ飛ばしてしまうぜ、お前それでいいのかよ!」


「俺は一向に構わんッ!!」


「てめぇ正気か!?ダメだダメ!!終わりだよ終わり!!」


「...じゃあ、置いてけ....」


「あ!?何をだよ」


「角だよ角、お前言っただろ負けたやつは角を差し出すとな。お前は膝をついた、ここで終わりなら俺の勝ちだから角を置いてけ」


「あれはオーガ同士の喧嘩の場合であって、お前はオーガじゃねえから関係ないだろ!!!つーか、誰が片膝と言った?俺は両膝がついた場合って言ったんだよ!!」


「じゃあ、続きをやろうッッッッッ!!」


「しつけえなぁお前も!?はーっ、わかったよ次に俺に勝ったら角をくれてやるよ」


「次だと?」


「おうよ、お前もこれから王都に行くんだろ?俺達の軍団を迎え撃つためにな。そこで決着つけようぜ」


「その時は『奥の手』やらも見せてくれるのか?」


「ああ最初から見せてやるよ。だがなぁ、次はルールに縛られたの喧嘩じゃねえ..何でも有の殺し合いだ...!」


「望む所だ...」


「ま、それまでせいぜい強くなっているんだな。じゃあな兄弟」


そう言うと好戦的な笑みをこぼしなからゾルトラは部下を引き連れ村から去っていったのだった。


戦いは終われどこの時ダリルは一人高揚していた─


こんなにも早く自分の全力をぶつけられる相手を見つけたことに!


自分の限界を超えられたことに!!


自分がまだまだ強くなれていくことにッ!!!



だかそんな感傷を邪魔するかのように


「うわぁぁぁぁぁぁん、よかったぁぁぁぁ、ダリルさん生きてるぅぅぅ!!?!?あと私もぉぉぉぉ!!?!?」


ベロニカが涙と鼻水を出しながら抱きついてきたッッ!!そしてそれにつられるように村人達も集まり歓声と賛辞を送った。


「あんたすげぇよ!!?!なにもんなんだよ!!?」

 

「最高にシビレたぜあんた達の喧嘩!!」


「あの最後の村がどうでもいとかどうとかのハッタリ、ありゃあ凄かったな!?!」


最後の村はどうでもいい発言はガチであったが、ダリルは期せずして成ったのだ、この小さな村のヒーローに─


「...ベロニカ、すまん」


「ぐすっ、な、なんですかぁダリルさん」  


「....さ、流石に疲れたから今日はこの村でや...す...む─」


ドサッ


「あぁぁぁぁぁぉ!?!?!?ダリルさんが倒れたぁぁぁぁ!?い、医者ー、誰か医者をぉぉぉぁぁぁー!!?!?!?!」


─魔王軍、王都到着まで残り10日!!!

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