1-6 オーガの喧嘩作法
オーガ族、勇者達にとって彼らとの遭遇は悪夢そのもである。彼らは生来の強靭な肉体と持ち前の強力な身体強化魔法によっていくつもの勇者パーティーを全滅させてきた。特に上位のオーガは自身よりも遥かに巨大なドラゴンやゴーレムするも屠ると言われており、最強魔族の一つとして名高いのである。
もし、そんなオーガ同士が争い激突したら?無論周囲も無事ではすまない。なので彼らはルールを作って喧嘩をしようとした。そのルール内容とは─
─最強を自負するもの同士のファーストコンタクトから30分後
男達の足下には、血の海ができており村には交互に聞こえてくる男達の呻き声と肉と肉がぶつかり合う鈍い音がこだましていた。
周りはその光景をこの世の物とは思えず唖然としていた。この時彼らはこの異常な光景の『歴史的出来事』の目撃者ということに気がついていなかったのである。
最強を自負する二人は期せずして、オーガ特有の『特別ルールの喧嘩』に則って戦っていた。どちらかがこの方式を提案したのではなく、互いに自身の強さを証明するのにこれが一番だと本能が理解していたのだ。
では『特別ルールの喧嘩』の内容とは一体?
答えは実にシンプルッッ!!バカでも赤ん坊でもオーガでもすぐに理解し納得する!!
そのルールは実に簡単ッ!!!
一発殴ったら、相手に一発殴られるッッ!!!
相手が倒れるまで繰り返されるターン制ガチンコ殴り合いバトルであるッッッ!!!
この光景を見て最も愕然としているのはオーガ達だった。彼らは噂ではない本当のゾイトラの
実力をその身を持って知っている、その破壊的な威力を持つ拳を、こちらが拳が壊れるまで殴っても全く意にしないほどの圧倒的タフネスさを。
故に彼は見たことがなかった!オーガ最強の男の苦悶する顔をッッ!!!
「て、てめぇ...思ったよりやるじゃねぇか。初めてだぜこんな食らい付くやつはよお!!!」
「よ、余裕みせてるつもりかもしれないが息が途切れ途切れだぞ」
ゾルトラも、そして無論ダリルも限界が迫っていた....
しかし、男達はそれでも殴り合うのをやめなかった。引くわけにはいかないのだ己の最強を証明するためにはッッ!!
気が付けば村人達とベロニカは隠れのを止め、男達の戦いをオーガと共に近くで観戦していた...
彼らも気が付き始めたのだ─
オーガvs人間の殴り合い...名のある勇者や騎士ですら不可能な事をやってのけている存在に─
しかも相手はあの魔王四天王のゾルトラ!オーガ最強の男との殴り合い─
恐らく今まで、そして今後も観ることが出来ないであろう伝説に残る喧嘩だと云うことにッ!!
やがて村人達も最初に感じていた恐怖は、喧嘩の狂気と熱気により飲み込まれてしまい─
二人の男の熱狂が伝染していくッッ!!
「い、いけぇぇぇぇ!相手はもうふらふらだぞ!」
「負けるな!兄ちゃんー!」
「お兄ちゃんがんばれー!!」
怯えてい村人達は今やダリルに声援を飛ばし始めたッッ!!
「お、親父ー!!オーガの意地みせてくださいよ!!!」
「やっちまえ親父ィィィィ!!!」
「相手はもう限界だー親父ィィィィ!!」
オーガ達も負けずに声援を送るッ!!
「ヤレェェェェェェ!!!?!?殺ッちまェェェェェェェ!!!?!!?」
興奮したベロニカもデスボイスで声援を送るッッ!!!
もはや村全体がコロシアムの如き熱気に包まれていた!!
そしてこの殴り合いは─
さらに1時間続いたッッッ!!!!
観るもの全てのボルテージは頂点に達し、この戦いは永遠に続くのではないかと誰もが錯覚していた!!!!
だがッッ終わりは突然訪れた!キッカケはゾルトラの一言ッッ!!
「お、おい.....そろそろ止めねぇか...このくそなげぇ喧嘩よ」
「な、なんだ...ギブアップ宣言なら大歓迎だぞ」
「バカ言うじゃねぇ!!お前のカス見たいなぁ
パンチいくら貰っても倒れやしねぇよ!!....だがなぁ、このままチンタラやっても時間が掛かるだけだ....だからお前の『全力』の一撃で俺に膝をつかせる事が出来れば、お前の勝ちでいいぜ」
「....全力の一手だと...」
「今さらすっとぼけるな!...目を見れば解る、その目は自分の勝利を疑わないやつの目だ。それの根拠足る奥の手を持ってるんだろ?」
ダリルは確かに奥の手、必殺技を持っていた。己の体内で循環、加速させたマナを相手に『浸透』そして『振動』させ内部から破壊する技、その名も『破勁』を。
しかし、ダリルはこの喧嘩ではこの技を使わなかった。
否
使え無かったのである。
『破勁』の真髄は自身のマナを相手に浸透、打ち込むこと─
だが!!ゾルトラの驚異的な身体強化魔法は、浸透など不可能なほど高密度のマナの鎧で男を覆っていた!!!
それ故にダリルも『理合』で自身を強化するには留め、結果今に至るのである。
策はあった─
相手が強固なマナの鎧を纏っているならばそれを打ち破るほどの加速させたマナを打ち込めば良いだけのこと....!
しかし、この策は諸刃の剣であった。そもそも十分にマナを加速させるまで体に留めとくという行為自体は自身の体を著しく傷つける行為であり、恐らくゾルトラに通用する一撃を放つには自身がセーフティレベルだと定めた基準の10倍以上加速させる必要があった─
だがダリルはこの策を即採用したッッッ!!!
(ゾルトラを倒すにはやはり破勁しかない...これは千載一遇のチャンスだ!!!こんな時でなければ己の限界以上にマナを加速させるなど考えもしなかった!!!)
ダリルの危機をチャンスだと思い込むポジティブモンスター気質が狂気の沙汰へと走らせたッッ!!
息を大きく吸い、構えるとダリルを中心としてい突風が吹き始めるッ!
魔法すら理解していない村人達も直感した─
次の一撃が尋常ではないことを
理合を理解しないゾルトラも本能で察知した─
次の一撃が自身にとっても致命的な一打になることを
しかし、ゾルトラはそれでも両腕を組みながらの仁王立ちを続けたッ!!!
全てはダリルの強さを否定するため、この男が全力を出しても通用しない最強の存在を認めさせるためッッ!!!!
ダリルはまるで自分が風船となって破裂しそうな感覚を必死に堪え忍び、その十二分に加速させたマナを体から肩へ、肘へ、そして拳へと伝導させゾルトラへと撃ち放ったッ!!!!─
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