1-5 最強を自負する二人

ダリルと引き摺られたベロニカが村の入り口に到着したとき、その前には野蛮な服装と顔をしているオーガが立って待っており、やたらと丁寧な口調で話しかけてきた。


「ラウ殿で御座いますね?我が王がお待ちですので、着いて来てください」

 

「あ!違いますよ!?この人は─」


ダリルはベロニカの口を塞ぐと、無言で頷きこのオーガの後についていく、途中家々のカーテンの隙間から視線を感じるのと、死臭が全く無いのをみると住民は無事であるようだった。


やがて村の中央広場に出るとそこには、彼ら特有の深紅の髪と目そして立派な角を持つ堂々たるオーガが7体待ち構えていた。さっきのオーガ4体とは別格ッッ!!


しかしダリルは既に気づいていた。中央に座っている二本角で身長はかの種族としては比較的小さめの2m程度、年は恐らく30代前後でその左目には大きな縦傷があるオーガ、こいつはこの7体の中でもさらに異次元だとッッ!!この異質のオーガもダリルの視線と警戒が自分一点に向けられているのを察していた。


「ほう、やるじゃないか。見ただけで俺がこの中で一番だと気づくなんてよ。武神ラウの名は伊達じゃないということか、嬉しいねぇ....!」


そのオーガはゆっくりと立ち上がるとダリルの真ん前まで近寄って来た


「ベロニカ、お前どっかに隠れてろ」


「喜んでぇぇぇ!!」


額面蒼白でカタカタ震えていたベロニカはその言葉を聞くとハッと正気に戻ったのか見たことがない速さで酒場に隠れ大声でダリルに警告した。


「ダリルさん!!そいつ私の記憶が正しければ魔王軍四天王の一人『悪鬼』のゾルトラです!!めっちゃ強いんで土下座して許しを請いたほうが賢い選択ですよ!?」


ダリルの名を聴いたことでゾルトラの顔が曇る。


「ダリル?おいちょっと待てお前がラウじゃなあいのか!?」


「すまんあれは嘘だ、連れてきた部下を責めないでやってくれ」


「そういう問題じゃねえだろ!あのクソ魔王、適当なこと言いやがって!!ラウは何処にいるんだ!!」


(魔王すらもラウ師匠を知っている?やはり貴方は何かを隠していたんですね....)


「別の場所に旅立とうして、そろそろ森を抜けてるんじゃないか?」


「なんだと!?こうしちゃいらねぇ─」


ダリルは通り抜けたゾルトラの肩を後ろから掴んで引き留めた。


「....てめぇこれはどういう意味だ..!今度は冗談じゃすまねぇぞ」


その声には威圧と殺意が込められていた。通常の人間なら失神してしまうほどの迫力だがダリルは話を続ける


「行ってどうするつもりだ?」


「あ゛あ゛、決まってんだろ!?そいつぶっ倒して俺が『最強』だと証明するんだよ!!」


その言葉を聞いたダリルは不敵な笑みを浮かべながら、左の親指で自分を差しいい放った。


「それなら問題ない、ここにラウ師匠より強い男がいる」


あながちハッタリではなかった。確かに先程の組手では遅れを取っていたが、それでも三ヶ月でダリルとラウの実力は大幅に縮んでおり、あともう三ヶ月あれば越えることが出来たとこの男は確信していた。


ゾルトラはゆっくりとダリルの方向を向きなおし、その顔には言葉には表現できないほどの怒りが込められている。


「師匠だぁ?てめ゛ぇ゛、ラウの弟子か。もういい、お前で遊んでやるよ。二度とその舐めた口聞けなくしてやるから覚悟しろよ、ゴラァ!!!」


「その前に聞きたいことがある」


「あ゛あ゛、今さら命ご─」


「オーガは全魔族の中で近接格闘戦最強と聞いたが本当か?」


「....違うな、近接格闘戦最強じゃねぇ...全てに於いてオーガは最強だ!!!」


「それではそのオーガの中でもお前は最強なのか?」


余りにも呑気な質問に、怒りを忘れ呆気に取られるゾルトラ、周りのオーガ達も笑いを堪えられず一人がジョークを飛ばす。


「親父~、その人間に舐められてますよ~、ビシッと一発絞めてくださいよ~」


「うるせぇ!!....阿呆だとは思っていたがここまでだったとはな...。いいぜバカなお前でもわかるように教えてやるよ。オーガってのはな実は角を見るだけでそいつの実力がわかるもんなんだよ」


「...それが最強であるかないか何の関係がある」


「いいから話は最後まで聞け!...俺たちオーガは自己中で喧嘩好きなろくでもねぇ奴が多くてよ、しょっちゅう争い事が耐えねえ!そんなとき事を収める為に『特別なルール』の喧嘩をするわけだが、負けたやつは勝ったやつに敗北の証明に自分の角を折って相手に渡す仕来たりがあるんだよ。後ろのやつらを見てみろよ、一本角のやつがいれば二本角でも左右非対称のやつがいるだろ?そして俺の角を見てみろ、左右対称だし一番長げぇだろ?つまり何が言いたいかというと─」


瞬間ゾルトラを大きく体を剃らせ、その豪腕をダリルへと振り下ろす─


「この角が俺自身をオーガ最強だと証明しているわけよ....!!」


ゾルトラの拳とダリルの頭が激突したとき、まるで金属の塊同士がぶつかったような高音がなり響く。


ベロニカも、隠れながら見ている住民も、取り巻きのオーガ達も思うことは皆ひとつ、バカで無謀な青年が死んでしまったと─


しかしゾルトラは違っていたッ!


彼は戦慄した


己の全力の拳を打ち込んでも絶命しない人間がいることにッ!!


「...そうかそれなら俺がお前を倒せたときは─」


そしてあろうことか反撃に転じて来たことにッッッ!!


「俺の拳が全ての魔族に通用するということだな..!!」


ダリルの反撃の拳はゾルトラの腹部に先程と同じ音を出しながら直撃した


最強を自負するもの同士のファーストコンタクトは互角ッッ!!


両者、一歩も譲らずッッッッッ!!!!

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