1-4 神と成るか鬼と為るか

「ラウ師匠お一つお聞きしたいのがあるのですが宜しいでしょうか?」


ダリルは自分の荷物整理をベロニカに任せ、外で黄昏ていたラウに話しかけた。


「なんじゃ、改まって。もしかしてワシの『用事』の件か?」


「はい、宜しければ教えていただきたいと」


「それはの─...、いや、それは元はと言えばワシが自分で撒いた種。これ以上この老体に恥をかかせんでくれ...」


ラウはうっかり喋りそうな自分を自制し話を変えてきた。


「そんなことよりダリルよ一つ言っておきたい事がある。今お主の肉体には神が宿ろうとしている、先ほどの宣言通り己を高める事のみに拳を振るえばもしかしたら神そのものに成ることが出来るかもしれん。しかし己や他人の欲望為に道具として拳を振るえば神は堕落し、お主は鬼に為り下がるだろう。そしてその時はワシが責任を持ってお主を殺し、そしてワシも死ぬ。それだけは肝に刻んでおけ」


「.....はい、分かりました」


ラウはこの時始めてダリルに対して殺気を発した。緊張ある静寂、それは少女の甲高い声で掻き消された─


「ダリルさーん、荷物の準備終わりましたよー。ていうか、年頃の美少女に男物の下着の整理とかやらせます普通!?」


「それではラウ師匠準備出来ましたので行って参ります。短い間でしたが本当に有り難うございました」


たった三ヶ月間といえど自分の人生を変えてくれた恩人にダリルは深い感謝の念を込めてお辞儀した。


「ふむ、達者でな。また何処かで合ったら稽古つけてやるわい」


どんどん小さくなっていく自分が認めた『二人目』の弟子の後ろ姿を見てラウは思った。


(武神ラウも年で焼きが回ったの....何も知らん青年に自らの業を背負わせようとするなんて.....)


「ま、しかしあいつも剛毅じゃのぉ~、ココネオ村からあんなごっつい闘気を感じといて涼しい顔で向かって行くなんて。なんだか面倒くさそうな気がするから、ワシもさっさと旅立とうかの!」











「─しっかし許せないですね!ダリルさんにそんな濡れ衣被せるなんて!!王都に着いたら私証言するんで一緒に無罪勝ち取りましょう!!」


ダリルとベロニカはココネオ村に向かって森を歩き続けてた


「もうそんなことは気にしてないからどうでも良い。そういえば『黒狼騎士団』は今どうなっているんだ?」


「もちろん反乱に加わっていますよ!相手する事あったらぶっ飛ばしてやりましょう!!」

 

俺がそれを知ったら間違いなく止めにかかる、それも追放した理由の一つかとダリルは一人納得した。


「とりあえず、今日中にココネオ村から街道に出て次の町まで行きましょう。魔王軍が王都到着まで10日程度しかないので!」


「?そんなに掛かるのか王都まで?俺がここに来たときは1日走り続けたら着いたが?」


「えぇ、まさかダリルさん王都直ぐ南にあるコルト樹海突っ走って来たんですか?よく無事でしたね~、あそこコンパスも利かないから普通、通信か探索魔法使えなきゃ遭難するんですけどね」


「言われて見れば人気なかったな、必死で走っていたから朧気だが」


「とにかく、私達はコルト樹海を東周りに迂回するように移動していきます。途中3つ程の町があってそこで宿泊しつつ、4日程度で王都に到着時するはずです」 


先を急ごとするベロニカをダリルは肩を掴んで引き留めた。


「おい、危ないから俺の前に出ない方がいいぞ」


「へ?それってどういう意味─」



瞬間ッ!!草むらから2体の『人型の何かが』飛び出し、ベロニカとダリルを襲いかからんとしたッッ!!


この時ベロニカは自身の運命を悟り、走馬灯を視たのだッッ!!


赤ん坊の頃から優しかった父と母─

騎士見習いとして初めて王都を見たときの心の高鳴り─

一緒に仲間たちと泣き、笑っていた日々─


もっと強く成りたかった─

もっと恋をしてみたかった─

あ、そういえば借りパクしている小説どうなるんだろう─








スパァン!!!!


唐突に鳴り響いた乾いた高音でベロニカは走馬灯から目を覚まし、そんな彼女が最初に見たものは─


眼下に横たわる2体のオーガの姿だった。


「へ、へ?わ、私生きている!?てか、何ですかこのオーガ!?」


「わからん、いきなり飛びかかってきたから気絶させた」


「ダリルさんやったんですか!?どうやって!?中級勇者パーティーでも一体相手するのにやっとなのに!?」


「普通に殴打しただけだ。そんなことより急ぐぞ、この先にもっと強いやつがいる」


「いやいやいやいや!?何言ってんですか!?逆でしょ、逆!?危ないから戻りましょう!ね!も~ど~り~ま~しょ~う~」


ベロニカはダリルの腰に両手を回して必死に引き留めようとしたが、無情にもダリルはそれを意に返さず彼女を引きずりながら村へと向かうのだった。


この時ダリルは木の陰に隠れているオーガの存在に気がついていたが、戦闘の意志が無いことを悟るとこれを無視した。このオーガは二人がいなくなったのを確認すると、通信水晶で村に連絡をとるのだった。


「おい、聞こえるか!親父に伝えてくれ!『ラウ』らしき人物がそっちに向かっていると!!」

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