1-3 勇者達の反乱

「ほう、つまり王都には魔王の軍団が強行軍で接近しつつあって、戦闘員を確保するためにお主はその罪を犯し勇者パーティーから追放された『ダリル』という男を探して来たのじゃな」


ラウはダリルの『冤罪』を察してあえて知らないふりをしてベロニカに話しかけた。ベロニカ自身もダリルを目の前にしてもあまりの変貌ぶりに気付く余地など無かった。


「そう言うことなんです!ココネオ村の住民に聞いたらそれらしき人がこの森で老人と共に暮らしていると聞いたもので!!」


「しかし解せんな。何故そんな犯罪者もどきを探してまで隊列に加えようとするんじゃ?王都にはお主が所属しているグラン·オルドル(王室近衛騎士団)や100を越える勇者パーティー、そして最強の勇者と名高い『ブレイド』も抱えているから充分迎撃出来ると思うのじゃが」


「....さっきから反応薄いと思ったんですけど、やっぱり知らなかったんですね。1ヶ月前、王都でのクーデター騒ぎを...」


「クーデターじゃと!?一体下手人は誰じゃ!?」


「勇者パーティー達です!!それも一つや二つ処じゃなく、約半数の50もの勇者パーティー達が反乱を起こしたのですよ!!!!!彼らは魔王と結託してたんです!!証拠の手紙も見つかりました!魔王が西方世界を征服した新秩序下では、その半分を反乱を起こした勇者達に割譲すると!!!」


「落ち着くのじゃ、ほれお茶でも飲んで」


「す、すいません。つい興奮して」 


お茶をすすって落ち着きを取り戻したベロニカは話を続ける


「国王陛下を狙ったクーデターではありましたが、グラン·オルドルが誇る『剣聖』の活躍もありこれは阻止出来ました。しかし、当の反乱起こした勇者達はほとんど取り逃がし、その過程で王宮に集まったいた軍事、行政の首脳陣にも多くの犠牲を出してしまったことで、王都は混乱状態に陥りそれを聞いた地方の有力貴族や辺境伯は次々と魔王軍に対して中立を宣言。我々の援軍要請を無視するどころか魔王軍の進軍に協力するものまでいる始末なのです!!」


「え、この国詰みすぎじゃない?それで犯罪者だろうがなんだうが戦える人員をかき集めておるんじゃな」


「犯罪者だけではなく引退した者や、隠居した者にも私みたいな騎士見習いが声を駆け回っているのが現状です。私だって嫌だったんですよ、女の敵で陰険陰湿最低男の性犯罪者を探して一緒に王都まで行くなんて!!ほら私可愛いし襲われそうじゃないですか!!」


「しかし運命の神は私に微笑みました!!!見てましたよこの目で!!あんなすごい『魔法』観たこともありませんでした!!!御二人方には突然の話であれですけど、お国の為と思い私達と一緒に王都で戦って頂けないでしょうかぁぁぁぁぁぁ!!!」


ベロニカは二人に向かってまた全力土下座をした。


「ちなみにそれは『ダリル』のような犯罪者が参加したらその後はどうなるのじゃ?まさか事が済んだらしょっぴく何て事はないじゃろうな」


「い、一応は恩赦を出すと言ってはおりますがどうしてそんな─」


「だそうじゃ、ダリルよお主はどうする?ワシは別の『用事』があるからパスで、そもそもこの国の人間じゃないから関係ないし」


「ダ、ダ、ダリル!?い、居るんですか!!近くに!?」


ベロニカはさっきの悪口を聞かれたのかと焦りながら周囲を見渡した。


「居るよずっと前からあんたの前にの」


そう言うとラウが隣に座っているさっきから無口の筋肉モリモリマッチョマンを指差した。


「い、いや~冗談きついですよ~。だってこの手配書の人相書見てくださいよ。この世の全ての気弱さをかき集めたようなこの人相書と、お兄さんの精悍さの権化みたいな顔じゃ全然違うじゃないですか~」


しかしッッッ!!ラウと筋肉モリモリマッチョマンのマジな目を見てベロニカは戦慄し、己の勇気をとして問いかけたッッッ!!


「...あのう因みにお兄さんのお名ま─」


「俺がダリルだ」


「いやぁぁぁぁぁぁごめんなさいぃぃぃぃ!!!??!!先ほどは失礼な事を言ってしまい申し訳ございませんでしたぁぁぉぁ!!!何でもしますから犯すのだけは勘弁してくださぁぉぁぁいぃぃぃぃ!!!!!」


ベロニカは反省の弁を全力で体現すべく、土下座を超越した土下座ッ!土下寝を炸裂させたッッ!


「....別にいい。『そんな』こと今さら気にしていない」


「ほ、本当ですかぁ!!!良かったぁ!因みに婦女暴行については─」


「冤罪だ」


「で、ですよね~」


ダリルは浅くため息をするとラウの方向を向いて座り直した。


「ラウ師匠....俺は王都に行こうと思います」


「ほ、本当ですか!!!やった─」


「待つんじゃダリルよ、ワシは『どうする』と聞いたが『行って良し』とは言っておらんぞ。お主は心技体全てに於いて今だに発展途上。その未熟な拳で何を成そうとしているかワシに説明せよ!」


少しの沈黙を経てダリルは語り始めた


「...最初は復讐でした。俺を認めず、追放し、陥れた者達に報復するためにと、しかし修行をする毎に強くなっていくことを実感する事で思い出したのです、忘れていた『夢』を」


「その『夢』とは如何に?」


「誰もが生まれて来たときに持っていながら、成長し現実を観ることで忘れてしまう夢、『最強』の称号を得るという夢を思い出したのです。そして最強と為るためには激烈な『実戦』も必要だということも」


「己より強い存在を認めたくないということか、若さゆえの傲慢だなダリルよ。それすなわちワシをも越えるという訳じゃな」


「無論です」


屈託のない笑顔で即答したダリルを見たラウは苦笑しながら返答した─


「わかった!!!そこまで言うのなら好きにせい、もう免許皆伝じゃ!!!つうかぶっちゃけ、お主はもうワシが40代の頃のレベルに達してるしな」


「ありがとうございます」


深々とラウに礼をするダリア。やっと話まとまった!と思ったベロニカは立ち上がり大声で喋り始めた。


「よーし!!話も纏まりましたから早速出発の準備しましょう!!私も荷物詰めるの手伝いますから!!」


「お、おい勝手に俺の荷物漁るなよ」


「急いでるからいいじゃないですか!!はっ、何か女子に見せられないスケベな物でも!?」


「いや、そう言う訳じゃなく─」


「全く騒がしい奴らじゃの~」


ダリアはこの時胸を高鳴らせていた。この先どんな強敵と出会えるのかと


しかし!!この時既に最初の激闘が直ぐそこまで迫っていたのである!!






─同時刻、ココネオ村にて


「親父、ここの店の店主の話だと『ラウ』らしき老人がこの先の森に住んでいるそうです」


「おう、それじゃあ3人程その森に行かせろ。但し見つけ次第手は出さずに俺に直ぐ連絡、いいな?」


「へい、分かりやした!」


男は椅子に腰掛け、足をテーブルに載せ、ボトルごと酒を飲んでいた─


部下の前では平静を装っていたが、内心は武神ラウとの闘いを前にして興奮していた。


「早く味わってみたいねぇ、『理合』ってやつをよお」


男の名は、『悪鬼』のゾルトラ

魔王軍四天王の一人にして、戦闘魔族オーガの王でありオーガ最強の男ッッ!!


後に生涯の宿敵となるもの同士の最初の戦いが、今始まろうとしていた─

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