1-2 理合

─あの酒場の出来事の次の日、ダリルに神が宿る三ヶ月前


「よし、二日酔いはないようじゃな感心感心!」


「昨日は色々ご迷惑をおかけしたみたいで」


「全くじゃ、弟子入りを認めた途端気絶しおって。運ぶのが大変じゃったわい!」


「へへへ、何だか安心してたら気が抜けちゃって。そう言えば師匠の名前まだお聞きしてないんですが?」


「ワシの名前はジャック·ラウだ、ラウ師匠と呼べ。そんなことより早速『理合』の修行に入るぞ」


そう言うとラウはダリルに手のひらサイズ程度の石を投げて渡してきた。


「?これをどうすれば?」


「それを『理合』を使って砕いてみよ」


「えぇぇぇぇ、これを砕くんですか!?魔法使いの僕が!?てか、『理合』のなん足るかも教えて貰ってないのに!」


「同じじゃよ魔法と」  


「へ?お、同じ?」


「魔法も大気中のマナを呼吸で体内に取り込み発動させるじゃろ。理合も同じなのじゃよ呼吸でマナを取り込むという点はな。違いはマナの利用方法じゃ、お主は魔法を発動させる時何をイメージしている」


「そりゃあ、こうバーと解放するイメージなような」   


「そう魔法の本質はマナをより遠くより広範囲に『放射』すること、じゃが理合の本質はその逆でマナを体内に留め続け高速で『循環』させることで身体能力を向上させること!!」


「それがあの腕相撲のカラクリですか!」


「そうじゃ、そしてここからが本題!いいかワシの持ってる石を良く見ろ!その高速で循環させたマナを対象に『浸透』させ『振動』させることで─内部から完全に破壊する!!」


パァン


「わ、わ、石が勝手に粉々に」


「これを極めれば腕相撲で見せた腕にはマナを浸透させるだけでその先のテーブルで振動、破壊させることも出来るのじゃ」


「なるほど。しかし、何で西方世界と東方世界でそんなにマナの考え方が逆なんですかね?」


「まあそれは文化の違いだろう、お主ら西方世界は魔族も多いためか戦争も多くある種の飛び道具的な『兵器』としてマナの利用を求め、我々東方世界は戦争は少ないが個人間の決闘文化が盛んなため『武術』としてマナの利用を求めた─というところじゃの。てか、そんなことはいいからお主もやってみんしゃい!!」


「わ、わかりました。循環、循環...ふんぬぉぉぉわぁぁぁぁ」


(頑張れダリルよ。お主は魔法の才はいまいちだが、その逆で理合の才は確実にある!!ふふふ、こうして見てると昔のワシを思い出す。あの時も確か─)


パァン


「あ、なんか出来ました師匠!!」


「ほ、ほうやるじゃないか(うそぉぉぉぉぉ、麒麟児と言われたワシですら割るだけで10日間かかったのに、こいつ10秒位で木っ端微塵にしやがった)」


「なんか以外と簡単でしたね!!」


「ゆ、言うじゃないか。では、もっと難易度の高いのを─」


しかし!!そんなラウの思いとは裏腹にダリルは次々と修行をあっさり乗り越えて行くのだった。元々ラウはダリルの高い理合のセンスを見破っていた!!しかし、ダリルは武神ラウですら想像出来ないほど稀代の天才だったのである!!


無論修練は天才と言えど過酷を極めた。だが日々己が渇望していたより強く、より成長していることを感じているダリルにとっては何ら辛いことなどなかった。






やがて、季節は冬から春へと変わり。山々の雪が溶け新たな草木花が咲こうとしたとき、


ダリルの肉体には神が宿ろうとしていたッッ!!


僅か三ヶ月でダリルのあの小枝のように細かった腕はまるで大樹の幹のように太くなり、崩壊寸前だった気弱メンタルはその鋼の肉体に裏打ちされた何事にも動じない、むしろどんな苦難するも自分が成長するための糧だと思い込むポジティブモンスターへと変貌していた....


今やダリルは


打てば金剛石を破砕し

組めばドラゴンをも絞め殺し

投げればゴーレムすら木っ端微塵


にするほどの実力を持ち合わせているのである。


「ラウ師匠、瞑想終わりましたので『俺』の組手の相手して貰えませんか?」


ついでに一人称も変わっていた


「よし、かかってきんしゃい!!」


最初はお互いにまるで健康体操のようなスピードで組手をしていたがやがて、はやく、早く、速く、疾く─まだ疾くなるッッ!!!

二人の拳がぶつかる毎に大地は揺れ、大気は震え、草木がざわめく!!しかし、それもラウの左拳がダリルの顔面直前で寸止めする事で修まった。


「.....御見逸れ致しました。やはりまだラウ師匠には及ばない」


ダリルはラウに対して深々と礼儀正しく礼をする。


「嫌味かお主。たった三ヶ月で一丁前にワシと対等に組手をしおって!!」 


ダリルはラウに小言を言われながらも草むらを見た。


「しかし、中々あの『お嬢さん』は出て来ませんね。何が目的なのでしょうか?」


「う~ん、悪いやつじゃ無さそうだから、こっちから声を掛けて見るかの!!お~い、『お嬢さん』やもう、ばれてるから出てこいや~」


ラウが草むらに向けて語りかけたら、喧しい声を出しながら鎧装備一式を取り付けた金髪ポニーテールの少女が飛び出してきた。  


「ひ、ひぃ殺さないで下さい!」 


「殺しはせん、殺しはせんから。お主は何者じゃ、何が目的なのじゃ」


「わ、私王都から来ました騎士見習いのベロニカと申します!!!!もしよければ─」


少女は全力でこちらに駆け寄り、全力のスライディング土下座を繰り出しッ、全力の大声で懇願したッッ!! 


「王国を救うため王都に来て頂けないでしょうかぁぁぁぁぁぁ!!!」

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