そして神が宿りし者は今日も闘い続ける~東方世界から来た『武神』に鍛え直された気弱魔法使いは『最強』の称号求め拳一つで強敵達と闘うようです~

板垣弟

1-1 伝説の始まり

「んもぉぉぉぉぉ、ちょっと聞いて下さいよぉお爺さぁん!!本当に酷いんですよあいつら!!!」


「ほっほっほっ、聞いとる聞いとるわい。で、どうして王都からこんな片田舎に来たんじゃ?」


カウンターに隣合って雑談をする老人と泥酔している青年。彼らは今日この酒場で出会ったばかりであるが話す内に意気投合して今に至るのである。これ自体はよくある光景であるが、この二人の経歴は特別なものだった。


小柄でスキンヘッドながら白い立派な髭をお持ちのいかにも達人ですという雰囲気の老人、この老人はここから東の果てにあると言われる『東方世界』からやって来た人物で地元では『武神』と言われるほどの凄腕武術家なのである。


そして身長はそこそこあるが、顔、体つき、表情、この世の全ての気弱さをかき集めたようなこの青年の名はダリルという。新規気鋭の勇者パーティー『黒狼騎士団』に所属している魔法使いだった。何故だったかと言うと─


「だから追い出されたんですよぉ、パーティーからぁ!!あれわぁ、一週間前でしたよぉ─」



─一週間、王都パレスの勇者パーティー本拠地にて



「お前もう、このパーティーに要らないよ全然成長してないし最近」


その冷たく見捨てるような勇者アストロの一言ダリルは怯みつつも、言い返した。


「ど、どういうこと今迄は上手くなってきたじゃないか!!」


その言葉を聞くとアストロは呆れたようなため息をついた


「今迄はな!!だが、これからはどうだ!!さっきも言ったけどなお前全く成長してないんだよ!!それじゃあ、困るんだよ!!後方支援がポンコツじゃな!!」


確かに最近他のメンバーに比べダリルの成長が遅れているのは自身が一番自覚していた。しかし、彼には辞めたくない理由がある。


「そ、それは他のメンバーや...ロベリアも同意件なのかい?」


今この部屋にはダリルとアストロともう一人、ダリルの幼馴染み(付き合ってはない)のロベリアがいた。ダリルはロベリアに秘かに好意を寄せていたのだが─


「.....私もその方が良いと思う。これから闘いはどんどん厳しくなっていく。貴方には死んで欲しくないの.....」


一番聞きたくない言葉を一番言ってほしくない人に告げられたダリルは足元が崩れ堕ちてくような感覚に襲われた。ずっと側に居たかったのに、ずっと側に居られると思ったのに─


「ま、そういうことだ。俺も鬼じゃない、返答は明日まで待つから今日は宿に帰って考えろよ」


今度は何も言い返えせず、この場から今すぐ立ち去りたいダリルは走って宿に戻り一人泣くのだった。


しかし、運命はこの男に悲しむ時間すら与えなかった。誰かがドアをノックしている、もしかしてロベリア!と期待を胸に扉を開けたらそこにはいかつい二人の男が立っていた。


「どうも憲兵隊です、元黒狼騎士団メンバーのダリルさんですね?貴方は婦女暴行罪で容疑が掛けられている、署まで同行願いたい」 


「ふ、婦女暴行!!!?!この僕が!?」


「おや?もう市中では噂になっておりますよ、何せ有名な勇者パーティーですからね。脱退を巡って逆上した貴方が乱暴を働いたと、被害者本人からも届けがありますし」   


ダリルの思考はフリーズした。そして、最悪の行動を採ってしまった─


「う、うわぁぁぁぁぁ」


「おい!窓から逃げたぞ!!絶対に捕まえろ!!!」


─一体何が起きてるんだ!?


─僕が何をしたって言うんだ!!


─もう何がなんだか分からない!!


─そうだアストロとロベリアにアリバイを証言して貰おう!


─二人もそれぐらいなら協力してくれるはず!


度重なる悲劇


最早ダリルは最悪の可能性を考えることは出来なかった。


いや、その可能性を直視出来ることができなかったのだ。


勇者の本拠地に入ろうとした時、ダリルは聞いてしまった─


「ちょっとやり過ぎだったんじゃないかしら、犯罪まででっち上げるなんて...」


「そうでもなきゃ、辞めないだろあいつ?お前のことに夢中だったしな」


「それもそうだけど、あっ...ちょっとこんな所でやめてよ─」


ダリルを襲う三度目の悲劇、最早叫ぶのを我慢しその場で立ち去るのが精一杯だった。


─もう、此処には居場所がない。いや、此処に居たら全てが終わる


ダリルは走った、王都を出てただ南へひたすら走った。


勇者パーティーを追放され

性犯罪の濡れ衣を着せられ

そして幼馴染み(付き合っている訳ではない!!)を寝取られ


ダリルの精神は完全に崩壊していた。


その後、頭が混乱してる中恐らく一両日は走り続けたのだろう


極度の疲れと空腹でやっと正気が戻ったダリルは偶然目の前にあった酒場に入るのであった─


「─と、言う話なんですよぉ!?酷いでしょう!!」


「なるほどのぉ、そりゃあ災難だったの。しかし、お主一応お尋ね物なんじゃろ冤罪だとしても。今後どうするつもりじゃ?」


「そんなのこっちが聞きたいですよぉ!?!」


ダリルはうつ伏せになり大声で泣き始め、そんなダリルを老人は何かを見極めるように見つめている。


「よしわかった。お主ワシの弟子になれ!!衣食住もあるし強くもなれ、悪い話じゃなかろう」


「えー、お爺さんの弟子ぃ?気持ちは嬉しいけどぉ、ちょっと『理合』ってなんか胡散臭いですよねぇ」


この時少しだけ老人はムッとした表情になった。


「じゃあ腕相撲してみるかの?お主が勝ったらここの代金はワシが持とう、ただしワシが勝ったら奢って貰う、どうじゃ悪くないじゃろ?」


「あー!!今僕なら勝てると思ったでしょう!?舐めないで下さいよぉ!スライム位なら腕力だけで倒せるんですから!?店主!審判お願いしまぁす!?」


「あんたら、店の物壊すんじゃねぇぞ...」


互いに右腕を組んでみて解った、ダリルの腕も細いがこの老人の腕は細いどころか骨と皮だけだと。本当に大丈夫かな?と酔いが少し覚めたダリルが心配したが、


「よーし、それでは...始めッッ!!」


試合のゴングがなった!!


「うぉぉぉぉぉぉっっっ!!」


さっきの心配も何のその、ひ弱な老人に対して全力で勝ちに行くダリルは店主の掛け声と共に渾身の力を込めた!!



がっ、しかし



動かないッッ!!



いくら力を込めようが腕に体重を乗せようが



全く動かないッッッ!!!



にも拘らず不思議なことに老人の腕から全く力は感じず、まるで大樹相手に腕相撲をしている錯覚に陥った。


「ふぬぅぉうもぅうおうぉ!」


「ほっほっほっ、この老体相手に手加減してくれるのかな?では、遠慮なく─」


老人が手首を軽く返すとダリルの腕は轟音を立てながら激突し、テーブルに大量のヒビをいれてしまった。


「お、おい壊すなっていっただろ!!」


「おお、すまんの。修理代と飲み代はこの青年が払うので勘弁してくれ。ほれ倒れてないでさっさと立つんじゃ」


老人から出された右手に握手する事でダリルはやっと気が付いた。


あれほどの衝撃を受けて自分の右手は無傷であることを。


「驚いたじゃろこれが『理合』じゃ、力の操作を極めればこんな芸当も出来る」


ダリルは一生あの悪夢のような1日は忘れないと数十秒前まで本気で考えていた。


しかし、今彼は『理合』のことに夢中ですっかり魅力されてしまい、そんなことは忘れていた。もしかしたらこんな自分でも強くなれるんじゃないかと、成長出来るんじゃないかと


ダリルは決心し今までの人生で一番大きな声を出し懇願した。


「僕を弟子にしてください!!!!!!!」


「いいぞ、そのつもりだったし」




そして時は流れ三ヶ月後!!!




ダリルの肉体には神が宿ろうとしていた─

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