第117話 オークとの苦戦。そして、現れた黒い騎士

 「妙ですわね」とエリカ生徒会長。


 彼女たちの目前にはオークがいた。 それも1匹、2匹ではなく群れているのだが……


 「まるで何かに怯えているように見える。 どうする? ドラゴンちゃんもいるから迂回してもいいけど……」とアルシュ先輩


「ん? 我は平気だぞ? むしろ、オークが怯えている原因は我が近くに――――」


「うん、行きましょう!」とノアが誤魔化すために大声を出した。


当然、その声はオークたちの耳にも届いて――――


「あっ! しまった……それじゃ私が先陣を切りますね!」


さらに誤魔化すための悪循環。 


「ちょっと待ちなさい」と呼び止めるのは誰だろうか? たぶん、口調からルナか、エリカだろう。


 しかし、その忠告を無視してノアはオークたちの前に飛び出した。


 10を超えるオークたちから一斉に睨まれる。 その殺意は尋常ではないはずだが、ノアは構わず――――それどころか笑みすら浮かべて攻撃を開始した。


「それ! まずは1匹目!」と撃ち込んだ冲捶。しかし――――


「あれ? 効いてない?」と打ち込んだ拳から伝わってきた手ごたえは微妙と言えるものだった。


「GAAAAAAAAAAAAAAA……」と唸り声を上げて反撃に出るオーク。


 その腕は素手であるが軽装のノアが受けて無事で済む威力ではない。


「じゃ、もう一度!」と攻撃を受け流し、打ち終わりに狙いを定めた一撃。


 先ほど打ち込んだ冲捶と寸分の狂いもない精密打撃。


 これにはオークもたまらず、倒れ込むのだが――――


「やっぱり、おかしい」とノアは小首を傾げる。


 しかし、今のノアはオークたちに取り囲まれている。本来、そんな余裕はない……はずなのだが……


 「よし! 次行ってみよう!」と次のオークの頭部を蹴る。


 渾身の力……だが、一撃で倒すには足りない。 仕方なく2撃目の肘で吹き飛ばした。


 「ねぇ、みんな。 この敵なんだか変だよ?」


 それでも、次から次で襲い掛かるオークたちを倒し、吹き飛ばしながらもノアは仲間たちに訪ねる。


「あはっ、やっぱりノアちゃんは無鉄砲だね」とアルシュ先輩は華麗なる剣捌きで、オークを切り裂いた。


「あのね。オークって言うのは人間よりも大きな筋肉に大量の脂肪。 さらに体の内部はゼラチン状態で打撃の衝撃が通らないようにできているんだよ」


「あぁ……そう言えば聞いたことある。じゃ、これだ!」


 ノアは構えを変える。 注目するのは手先だ。


 その手はまるで蟷螂拳。カマキリの戦い方を参考にして作られた中国拳法の構えによく似ている。 


 二本の指が真っすぐ伸ばしている。


 人差し指と中指だ。 それを後ろで親指が補強している。 


 だが、ノアは蟷螂拳を学んだ事なぞないはずだが……


 新たなオークが突っ込んでくる。 


 コイツは素手ではなく、武器を持っている。 


 大木に岩をツルで結び付けた原始的な鈍器だが、オークの馬力で振るわれれば、人など簡単に潰せるだろう。


 そして、それはノアを目がけて振り落とされた。


 その一撃に地面が揺れる。 オークは勝利を確信した。


 潰れたであろう人間の姿を確認するために武器を除けるが、


「GURUUUUU……???」とそこには何も残っていなかった。


 では、ノアはどこに消えたのか? 答えは――――


「ここだ!」と飛び上がっていたノアがオークの目前に姿を現して、その額に狙いを定めて二本指による刺突を繰り出した。


 今までノアの打撃を受けても一撃で倒れる事のなかったオークが意識を失い、後ろへ倒れた。


 ノアは、自身の打撃が通じぬと知ると、ある空手家が豚殺しに挑んだエピソードを思い出してた。


 その空手家は――――いや、K-1の創設者である正道会館館長 石井和義氏は豚を素手で倒せるか? 確かめた事があるそうだ。 しかし、結果として、どんなに殴り、蹴りすらしてもダメージすら与えられなかった。


 では、どうやって豚を殺すのか? 専門業者に訪ねた石井館長が得た答えは――――


「先端の尖ったハンマーで豚の額を打ち抜く……こうすれば、同じような構造のオークなんぞ、簡単に倒せる……か」


 さっきまでと違い、オークを一撃で仕留め始めたノアだったが、その表情は曇っていた。


(どうせなら、そんな理屈なんて関係なしにオークを拳で倒せるくらいに……まだ功夫が足りてないな)


などと、修行不足を実感していたのだ。 


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「これで最後の一匹だ!」


ノアの刺突がオークの頭部に突き刺さる。 


そうして、全てのオークを倒してたノアだったが……


「ちょっとコッチにきて座りなさい」


振り向くと鬼の形相をしたエリカ生徒会長がいた。


「勝手に1人で先走って、戦いの最中に考え事をしているように精彩を欠く動きをして!」


 「……はい」と甘んじて説教を受けようとするノアだったが……


 「見事なり」と男の声がした。


 その男は黒い甲冑を着込んでいた。 


 ノアたちは知らない。 突如として現れた男が――――


 黒太子ブラックプリンス エドワード・オブ・ウッドストック


 イングランドとフランスの100年戦争において勝利のために略奪と破壊を繰り返した悪名高き男。


 その召喚された本人である事を――――



 


 

 

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