第118話 黒太子 エドワード・オブ・ウッドストック
突如としてノアたちの目前に現れた黒い甲冑を身に纏った男。
それに対してノアは――――
「えっと……だれ?」と返す。
「ふん、誰と来たか! 所詮、私は屍。 病魔に侵され、それでも力を欲した憐れな死体にすぎぬ」
そんな黒太子を「……あいつ、変だよ。ルナちゃん」とノアは指さした。
「ノアさん。気持ちはわかりますが初対面の方に指さして、変と言うのは失礼ですよ」
「そう言いながら目を逸らしてるじゃないか」
そんなノアの様子に黒太子は
「うむ、空気を読まないとは聞いていたが……ここまでとはな。いいだろう、ノア・バッドリッチ。私は転生者だ……そして悪魔教に拾われ、かつては諦めた王道への道を再起した者だ」
「悪魔教……つまりは、仕返しに来たって事?」
「うむ、話が早くて助かる。 ならば――――」
「――――ッ!」とノアは驚きを口にした。 目前の黒太子が突然、消えたからだ。
そして、次に姿を現したのはノアの目前。そして彼はこう言う。
「確か……こうだったな」
大地が揺れるほどの踏み込み。 そして、加速した腕から振られる二本指。
(疾い! それに、この踏み込みは震脚! この速度、避けれない。受ければ――――死!?)
回避は間に合わず、ノアは額にその一撃を受ける。
不気味な打撃音に金属音が混じり、周囲に轟いた。
だが――――
次の瞬間に吹き飛んだのは黒太子の方だった。
「ま、間に合った!」とノア。
その技を師である李書文が巨大な魔物と戦い葬り去るために編み出した技。
受けた衝撃を体内で受け流し、拳に乗せて返す。 それは数日前にノアが李書文との戦いで最後に受けた技でもある。
「ふ~」と深く息を吐き、緊張した体を緩めていく。
だが、戦いは終わったわけではない。その技を食らった黒太子は動いている。
腕で体を持ち上げ、起き上がろうとしているが、そのダメージが大きいのか手間取っている。
その間、チラリと視線をドラゴンに向ける。
「おぉい、師匠! 敵か? あれ、敵だろ? 我は本気だしていいか?」
「駄目だ! 迷宮でお前が本気を出したら、何が起きるかわからない」
「ぬ!ぬぐぐぐ……」と唸りながら、スコスコと下がっていくドラゴン。
ルナはともかく、アルシュとエリカは意味が分かっていないようだが、それは仕方がない事だ。
ドラゴンという魔物は、巨大な魔素を吸収している。 濃度の濃い迷宮……それも1層と言う浅い階級でドラゴンが出現したら、迷宮にどんな影響が起きるかわからない。
(だから、彼女に戦わせるのは最終手段。 それを使わずに勝てればいいけど……)
「さて――――」とノアは気合を入れる。 その前に――――
「ここは任せて、先輩たちはドラゴンちゃんを守ってあげてください!」
ノアの言葉を拒否できるはずもなく、2人はドラゴンを抱いて戦いの場から少し距離を取る。その最中に――――
「勝てるのノアちゃん?」とアルシュ先輩。
「勝てない勝負をするほど数奇者じゃありませんよ」
「ふっふ……嘘ばかり」と少し微笑みを見せて――――
「万が一、ノアちゃんが負けたら僕が行くから安心して」
「よかった。これで私が負けた時の心配はなくなる」
「嘘ばかり。負ける気なんて少しもないのに」
そういうと、ノアを残して3人はドラゴンを庇うように岩陰に隠れた。
「ふん、あのメイド服の少女にも何か得体の知れない力を感じたが……なぜ5対1でこない?」
「なぜって……そりゃ邪魔だからね」
「ふん、ハッキリ言うな。仲間だろ?」
「いやいや、魔物じゃあるまいし、対人戦闘で5人で1人相手に戦うって無理があり過ぎるでしょ」
「そうか? どこぞかの国では農民3人で騎士を討つ戦法があると聞くが?」
「まぁ、ハッキリ言ったら、アンタと1対1をやりたかっただけ……それより、どこで習った?」
「習った? 何の事だ?」
「さっきの一撃……いや、その前の踏み込みは震脚だろ? 誰かアンタに教えた人間がいるのか?」
「ふん……強いて言うならば貴様だ。ノア・バッドリッチ」
「……何を言っている?」
「私は生まれつき見た技をものにする才に恵まれている。お前の技を見て盗ませてもらった」
「――――っ! 見よう見まねで、再現して見せたというのか?」
「その通りだ。 どうした? 動揺しているな。喋り方がさっきから男のように変わっているぞ。 なるほどな、中身は女ではないな」
「その通りだ。 本当に私の技を真似しただけというなら、戦慄している」
「ふん、戦慄しているだと? ふざけるな! ならば私を打った技はなんだ? 真似をする方法する思いつかぬではないか!」
「ん? んんん?」とノアは疑問符を浮かべた。しかし、すぐに答えにたどり着く。
(そうか。あの技は敵から受けた攻撃を返すもの。1人で打つ技じゃないから、真似できないのか。でも……)
「わからないなら、もう一度私に使わせてみたらいい」
「ふん、拳で語れか。野蛮な……だが嫌いではない。行くぞ! ノア・バッドリッチよ!」
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