第109話 冒険者PT『鉄心たる娯楽』

 ノアは目を覚ます。 だが過剰な疲労は、意識の完全な回復を妨げ、頭にモヤがかかったようだ。


 「ここは、私の部屋。 でも、どうして……痛ッ!」


 体を起こそうとして全身に痛みが走る。


 「あぁ……そうか、私は師匠に負けて……って師匠は!」


 痛みを無視してノアはベッドから起き上がる。 


 しかし、激痛。 一歩、一歩進むだけで痛み。


 壁にもたれながら、それでもドアは開けて部屋を出る。


 「ノアお嬢様!」と途中で叫びのように強い声で名前を呼ばれた。


 「あぁメイドちゃんか。……そうだ! 師匠は? まだいるの?」


 「それは……」


 「――――ッ! もう……」とそれでもノアは止まらなかった。


 全身に襲い来る痛みを誤魔化し駆け出す。 背後からは「お嬢様!」とメイドリーの声がするが無視をして――――


 「おぉ、もう起き上がっていいのか? ノア?」と普通に李書文はまだ屋敷にいた。


 「あ、あれ? 師匠? 何をしてるんですか?」


 「何って、また旅の準備よ。 ワシの仲間たちもやってきたからのう」


 「師匠の仲間たち?」


 「応よ。皆、冒険者として優秀な連中よ」


 「ほれ!」と書文は応接間のドアを開ける。 


 バッドリッチ邸の応接間は、貴族らしい広さがある。


 しかし、不思議と部屋がいつも以上に狭く感じる。


 ――――いや、違う。 部屋で待機している人間たちが通常よりも大きく見えるのだ。


「おや、お嬢さんは家の子かな? 世話になっているよ」


 そのメンバーのリーダーらしき人物が声をかけて来た。

 

 まるでファイナルファンタジーシリーズの主人公のような金髪爽やかイケメンがそこにいた。


 モコモコのマントとコートが合体したような外套。 


 厚着のアウターに反して、インナーは薄着のタンクトップ。


 黒い革のボトム。 腰には剣を帯びている。  


「……って何やってるんですか? 惣角師匠?」


「おぉ、お嬢ちゃん! 久しいな!」とイケメンの腰から声がした。


 イケメンが帯びている剣こそ、ソウカク。 異世界の武人である武田惣角の魂を封印された魔剣である。  


「おやおや、ソウカクさんもお嬢さんと知り合いで?」とイケメン。


「うむ、こやつは俺の弟子よ。つまり、お前の姉弟子となるわけよ」


「へぇ、先ほどは、お嬢さんなどと申し訳ありませんでした姉弟子」


「え? いやいや、姉弟子なんてソウカク師匠の悪ふざけですよ。頭を上げてください」


「なにが悪ふざけなもんか。事実、お前さんの弟弟子になるわけだからな」


「へっ?」


「はい、ソウカク師匠を師事しています。……あぁ、名乗り忘れていました俺の名前はクラークです」  


「クラーク……もしかして、近境最良の冒険者と言われている」


「確かにそう言われているらしいけど、目の前で言われると……」とクラークは照れたように頭をかいた。


アーサー・ド・クラーク  


曰く……近境最良の冒険者。 そして、もっとも勇者に近い者。


新進気鋭の冒険者PTパーティ『鉄心たる娯楽』のリーダー。


 ―――――――――――――――――――――――


もし、少しでもおもしろいと感じましたら、


各作品ページにある「この作品を★で称える」の⊕を押して評価してください。


よろしくお願いします。   

   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る