第108話 師弟対決 決
一撃が重いとか……威力が凄いとか……そういう問題じゃない!
「ま、まるで攻撃の一発が交通事故。打たれるたびに体の動きが制限されるような痛み……」
地面に大の字になったノア。 何度も体を地面に叩きつけられ、立ち上がる事が――――
「でも、立ち上がっちゃうんだよね……」
対する李書文の表情は――――「え?」とそれを見たノアは驚いた。
彼の表情は酷く醒めていた。
(なぜ、そんな……私は――――俺は――――)
そこでノアは気づいた。 これは戦いであって戦いではない。
ただ、相手を倒す・それは正しいだろう。 格闘技、武道、武術の概念から言えば正しい。 けど――――
「嗚呼、俺は間違っていました。師匠……俺と貴方が戦うという事は、そういう事じゃないのですね」
「うむ」と李書文は頷く。 それは戦いの最中でありながら……なんと言えばいいのだろうか? 李書文は朗らかだった。
「貴方と俺が戦う。それは勝てば良いという事ではない。その戦いは八極拳であり――――」
「うむ、八極拳でしかない」
「ならば、もう一度……」
「うむ……かかってこい! ノア・バッドリッチ!」
直後、地震が起きる。 震脚と震脚の撃ち合い。
そして、そこから繰り出される突きが2つ交差する。
気づけば両者の間合いが広がっている。 どちらかが後ろへ引いたのではない。
互いに放った拳の互角の威力。 それゆえ、両者が同じ距離、後方へ吹き飛ばされたのだ。
「おぉ、震脚ならば、もうワシを越えているかも知れぬな」
「……またまたご謙遜を、俺が師を越えることなど、まだ遠くの話でしょう」
「ほっほっほっ……お主も謙遜しながらも、ワシを越える事は決まりきった事のように言うのじゃな」
「まぁ、それじゃ――――今日、やらせていただきまうよ。師匠越えを!」
「快なり! ならば、存分に競い合うぞ!」
「はい!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
その戦いは凄惨と言ってもいいだろう。
一撃で生死を決する魔技の撃ち合い。
直死の魔拳を撃ち込まれながら、両者は動き続ける。
紙一重、受け損ねると死に繋がる攻防を2人は楽しんでいるかのように交差させていく。
いつ終わると知れぬ突き合い、蹴り合い、打ち合い、そして――――殴り合い。
先ほど、書文が言った通りだ。 これは競い合い。
どちらかの反応が僅かでも遅れれば、瞬時に勝敗は決する。 まるで巨大なダムの亀裂の如く。
そして、それは――――今だった。
ノアが放った拳。 それが書文の顔面に叩きこまれた。
衝撃。
その瞬間、ノアは稲妻に打たれたような衝撃が拳から全身へ伝わっていく。
それまで、確かにあったはずの多幸感は霧散した。
怨念も恨みなく、むしろ敬愛すべき師匠を自ら手で下したのだ。
当たれば死ぬをわかっていたはずの拳を――――
書文の肉体から力が失われていくのがわかる。
さらには重力に逆らう力すらないのか、重力に従ってゆっくりと沈んでいく。
だが――――
「うむ、見事よ。ノア」
「し、師匠……」
「だが、甘い!」
「え?」とノアは驚愕する。
沈みゆくはずの師の体から発せられたのは震脚。
目前にいるノアが浮かび上がるほどの威力。
「お主から放たれた力はワシの体を通り……震脚を持ってワシの拳へ集中していく」
そこまでだった。
それ以降はノアの記憶が途切れる事になり、彼――――いや、彼女が覚えているのは暗闇の中での意識のみだった。
その暗闇の中で書文の声が聞こえる。
「この技は、まだ未完よ。ワシとてまだ未熟か……」
その呟きだけがノアの脳裏にいつまでも響き――――やがて、完全に意識を失っていた。
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