第105話 ドラゴンの弟子入り
拠点と言うには豪華なキャンプ場所に戻るノア、ルナ、書文の3人。
……いや、正確には4人か。 そして拠点にはメイドリーが皆の帰りを待っていた。
彼女は、この山奥まで補給線を構築して、輜重兵を引き連れ兵站を運搬を支持していた。
それは長期戦を見込んでの事だが、彼女の予想に反して、ドラゴンは現れた。
どうするべきか? 彼女は、すぐさま輜重兵が決死隊を編成。
ノアたちの生存を信じて強行軍で、ここにたどり着いていたのだが……
「きゃ……きゃわわわ! どうしたのですか? この子?」
と幼女化したドラゴンを抱きしめた。
「う~ん、どう説明したら、いいのかな?」とノアが悩む。
「ノアお嬢さまが悩むような訳ありな子供……はっ! 私、察しました! どちらの子なのですか!?」
「ど、どちらって何を言ってるの? メイドちゃん?」
「こ、こちらの子、ルナさまと書文さまのどちらとノアさまの子供かと聞いています!」
「……はぁ?」
「わ、私というものがありながら、いつの間に! そう言えば、ノアさまの面影が……あぁダメ、嫌いになれない。この子……大丈夫ですよ。私の事をお母さんと呼んでも」
「いや、大丈夫じゃない。 全然、大丈夫じゃない」と言葉を飲み込んだノア。
「うむ、バッドリッチ家の従者は、相変わらずじゃの」と書文。
「……この子、昔からこんな感じだったのですか?」とルナ。
「うん」とノアは肯定した。
唐突に自分の従者が正気を失うのはよくある事なのだ。
「でも、どうやって説明したらいいかな? その子、ドラゴンなんだけど」
「はい?」とメイドリー。
「うむ、娘よ。我こそが世界最強の生物たるドラゴンである。……ところで、いつまで我は貴様に頬擦りされながら、頭を撫でられ続けるのだ? いや、待て、誰もやめろとは言っておらん!」
「こんなに可愛い子ですよ? 幼女ですよ?」
「可愛くて、幼女でもドラゴンだよ」
「そうじゃ! 我はドラゴンじゃぞ!」とドラゴンも言ってくる。
「むぅ~」とメイドリーは抱きかかえていたドラゴンを地面に降ろして、マジマジと見る。
「年齢は10才くらい。綺麗な黒髪ストレート。歯は、ギザ歯ってやつですね。帰ったら念のために歯医者に見せましょう。それに……
「そう角だよ。オーガとかのじゃない本物のドラゴンの角」
「10代らしく水も弾きそうなピチピチな肌。きめ細かい肌ですが……たまに鱗らしきものががが」
「たぶん、本物の鱗だね」
「え? なんで? なんでドラゴン退治に行ったはずがドラゴンを幼児化させて誘拐してきているのですか?」
「いや、誘拐でも、攫ったわけでもないよ。 人聞きの悪い!」
「くっくっくっ……小娘、我を侮るなよ。我は、そこの娘、ノア・バッドリッチに弟子入りしたのだ! 暫くは、貴様にも厄介になるぞ」
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・
時間は巻き戻り、書文がドラゴンを倒した直後になる。
「我を倒すとは、見事である人間。貴様に我の師となる権利を与えよう!」
幼女の姿になったドラゴンは李書文を指さしながら、高らかに弟子入りを宣言した。
「……うむ、今は弟子の募集をしておらぬのだが、それよりも何故、お前は人間の姿になったのじゃ?」
「おぉ、気づくか。 我の姿は人間に弟子入りするならば、人間の姿になった方が師事しやすいという師匠への気遣いだ。心行くまで感謝するがいい」
そのやり取りを見ながら、ノアは、
「師匠、心底嫌がっている……と言うより、めんどくさそうな表情だな」
そんな感想を言っていると、書文から手招きをされる。
「ちょっと、こっちにこい! 我が弟子よ」
何か嫌な予感がするが、逆らうわけにはいかない。
「察するにドラゴンは、人に負け、勝ったワシの強さ……その根源を知りたいという事じゃな?」
「うむ、その通り」とドラゴンは頷く。
「ならば、ちょうどいい。こやつは、我が弟子のノア・バッドリッチじゃ。 ワシの武は全て伝授しておる。免許皆伝じゃ!」
「え? し、師匠! まさか、この子を私の弟子にするつもりじゃ?」
「うむ、我は我を倒した実力者であるお主から教えを乞いたいのだが……」
「はっはっは……ドラゴンよ。 お主を破った者から、技を教わっても師を簡単に超す事はできぬのだぞ」
「!?」とドラゴンの表情は驚き。それから、目から鱗が落ちたかのような……もしかしたら、本当に鱗が目から落ちるかもしれない。 ドラゴンだけに……
「師匠……面倒ごとを私へ押し付けるつもりじゃ?」
「うむ、師の面倒を受けるのも弟子の勉めじゃぞ。はっはっはっ……」
書文の笑い声に合わせて、ドラゴンも「くっくっく……」と笑う。
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ……」
「くっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっ……」
両者の笑い声が重なり合って、ノアは頭を抱え込む事になった。
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