第104話 対ドラゴンとの戦い 決着

 離れた書文に向けてドラゴンは業火を放つ。 受ければ、骨すら溶かす炎。


 範囲は広いが、書文は転がりながらも炎を避けた。


「あの火力……浴びれば一撃で――――」


「いえルナちゃん、あそこを見て」


 ノアは指さす。その先は――――


「じ、地面が抉り取られている」


「そう。あの攻撃は炎だけじゃない。炎が到達するよりも速く、圧倒的な風圧が届き獲物の動きを止めている」


「ほ、炎だけ見て避けてたら、逃げれないのね」 


 そして、ドラゴンの攻撃はそれだけではない。 炎と風圧の攻撃で、相手の動きを制限すると――――


「おぉ! その威厳で獣の如く噛みつきを繰り出すか!」


 大きな顎。 それが書文の丸のみにしようと襲い掛かってくる。


 地面ごと喰らい潰し、魔力の元になる魔脈ごと捕食する。


 常識離れした胃酸は口にした物をすぐさまに魔力へ転換。


 巨大な体を動かすためのエネルギーとなる。


「じゃが……このタイミング。 その大口こそが弱点よ!」


 その顎を避けると同時に肘を叩きこむ。


 顎……むろん、身を守るための鱗はない。


 無防備とも言える顎に打撃を直撃させ――――ドラゴンですら脳が揺さぶられる。


 「うむ……手ごたえは十分すぎる。 名残惜しいが、戯れとしての徒手空拳はここまで……とどめを刺させて貰おうかのう。 ノア! あれを寄越せ!」


 呼ばれたノアは「はい!」とあらかじめ荷物から用意していた物を取り出し、書文に向けて投げる。


 だが、「そうはさせん」と言わんばかりにドラゴンがそれに向け、空中へ炎を――――


「ほう、危機感知能力も高いようじゃな。しかし――――」


 ドラゴンが吐いた業火。それに向かって書文は自ら飛び込んでいく。


 瞬時に骨すら溶かす業火……そのはずではなかったのか?


 まさに自殺行為。 果たして、書文に身を守る手段はあるのか?


 だが、業火の中で何かが動き続けている。


 「ラン! 外に回す事で攻撃を弾く」


 ノアから受け取った物。それは槍だった。


 信じがたい事に書文は火炎を、その風圧を、熱すらも、槍術の防御で遮断した。


 六合大槍 八極拳における兵器の王 槍術 


 それを――――槍を李書文が手にした時、彼はこう呼ばれる。


 神槍 李書文  


 華麗な技々を排除して、徹底的に基本のみを追求した槍術。


 攻撃を払うと突くしかない。だが、その突きは――――


 まさに神速。


 業火は薙ぎ払った書文は、


 「六合大槍において突き技は チャーと言う。 ただの突きでも神速の領域まで達すれば、あらゆる防御を許さぬ!」


 その突きは再び、ドラゴンの逆鱗――――否。 逆鱗は既に書文によって剥ぎ取られている。 


 弱点を守る僅かな装甲すら失ったその箇所は、李書文によって正確無比な一撃を通した。


 断末魔。 そうとしか思えない叫び声をドラゴンは周囲には放ち――――そして、力尽きたように倒れる。


 それと同時に地面へ着地した書文。全身の震えを抑え込むように1度、2度を深い呼吸を繰り返し――――


「ふぅ……やれやれ、何とか勝てるものじゃな。しかし――――」


「先生!」と走って近づくノアたちを書文は一瞥しただけで視線を倒れたドラゴンに戻した。


「先生?」と訝しがるノアたち。


「さて、完全に殺し切ったものと思っていたが……流石じゃな。 この世界において最強の一角と言われる生物か」


「ぐるる……」と倒れたドラゴンの喉が鳴った。


「い、生きてる。早くトドメを!」とルナ。ノアもそれに同調する。


 だが――――


「倒れたまま聞くがいいドラゴンよ。 貴様、人が憎いか? ――――いや、質問が悪いか。ならば、ワシの本心を言おう。――――お主、これからまだまだ強くなるじゃろ?」


「……」とノアたちは、書文が言おうとしている事が分からず沈黙するしかなかった。


「強くなったら、もう一度競い合うかい?」


「ぐる……」と喉を鳴らし続けていた音が止まった。


 次の瞬間、ドラゴンの体に異変が起きる。 眩いばかりの光。その巨体が光の粒子に包まれ――――直視できぬほどの光に溢れ――――


 目を開けるとドラゴンの巨体は消えていた。


 そして、ドラゴンがいたはずの場所に――――


「うん、良いでしょう。貴方たち、私を強く育てなさい」


 10才ほどの女の子が裸で立っていた。


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