第106話 ドラゴンのメイド服とお別れ前に
バッドリッチ家に戻ったノアたち。
「う~ん」とノアは1人で待っていると
「お待たせしました」とメイドリーが姿を現した。それに続いて――――
「待たせたな
現れたドラゴンはメイド服だった。
「似合い過ぎてビックリしてる。昔のメイドリーみたいだ」
「うふふ……私のお古ですが、もしもの時のために残しといてよかったです」
「へぇ~! ……ちなみに、どんな時を想定していたの?」
「はい、ノアお嬢さまに、幼少期の恰好であんな事やこんな事を……女子供に聞かせられないプレイを要求された時にために」
「しないよ! そんな事を。それに、ここには女子供しかいないよ!」
あと、プレイって言うな。プレイって! とノアは怒ってみたが、ドラゴンとメイドリーの2人がメイド服で並ぶと姉妹のように思えて、本音では
「なんていうか……これが尊いか!」
「お嬢様、本音が漏れています」
「はっ! 本音と建て前が逆に!」
「あり得ます? 本当にそんな事? あと、建て前はお嬢さまの心に留めて漏れないようにしていただければ」
「ところで我が師よ。この恰好はなんじゃ? なぜ、弟子たる我が従者の恰好を……ハッ! これが最初の修行!」
「いや、違うよ。 雑用でこき使って、精神の修行って誤魔化すのは漫画の世界だけだよ」
それをやったら、ただのブラック環境だわ。
人間の、それも幼女姿になったドラゴン。 この休暇中にバッドリッチ家で面倒を見るのはいい。しかし、問題は休暇明け。
師であるノアについて学園に行くとなると「う~ん、どうしたらいいのか?」と悩んだ結果の回答。
「そうだ! メイドちゃんと同じく従者として学園で私の部屋に住まわせればいいのだ!」
迷走とも言える回答を生み出したノアたちはドラゴンにメイド服を着させる事になったのだ。
「ところで我が師よ」とドラゴン。
「ん? 何? もしかして服が小さい?」
「いや、そうではない。ただ、その呼び名は何とかならぬのかの?」
「呼び名? あぁ、ドラゴンは種族名だからかい」
ドラゴンをドラゴンと呼ぶのは、人間に「よっ! 人間!」と呼ぶのと同じ事なのだろう。そうノアは判断した。しかし――――
「いや、折角、可愛らしい服を着たのだからドラゴンなんて厳つい呼び名で呼ばれたくはないのだ」
「ん~ 厳ついって、お前はドラゴンじゃん?」
「はぁ、我が師は少女心が分かっておらぬな。 可愛い子には可愛い名前が……そう!キュートネームが必要なのだ!」
「キュートネーム!?」
「我の師匠とあろう者ならば、可愛らしい命名をするセンスも必要であろう?」
「うん? 別に必要ではないと思うよ」
しかし、ここでメイドリーが、
「いえいえ、ノアお嬢様。可愛い子には可愛い名前を付けよ。この界隈では常識でございます」
「可愛い子には旅を~ みたいなノリで言うな。 そして、どこの界隈なんだよ!」
そうツッコミを入れるノアであったが、ドラゴンに新しい名前を用意するように押し切られるのだった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「はぁ、ドラゴンに新しい名前か……名付け親なんて初めてなんだよな。 可愛い名前なんて、簡単に思いつくものじゃないだろう」
ため息交じりに廊下を歩いていると――――
「おぉ、ノアか。良いところに来た」
「書文師匠? なんです?」
「うむ、そろそろ仲間たちと合流する」
「え? あぁ、またお別れですか?」
「そう悲しそうな顔をするな。 あのドラゴンの成長も見なければなるまい。近い内に再び訪ねるわ」
「いえ、エルフの時間感覚で来られても困りますよ?」
「むっ! そうか善処しよう」と言うと
「最後に拳を交えよう。ワシの道着を持ってきてくれ」
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