第98話 李書文の目的

「フン!」と書文はノアの背中を抑え、活を入れる。


「おぉ! 久しぶりに完全失神してた!」と気づいたノア。


「大丈夫? ノアさん?」とルナは氷を入れた袋をノアの頭に乗せる。


「大丈夫ですよ、ルナさま。 書文先生が滞在されていた頃は日常茶飯事でした」


「日常茶飯事だったの! これが……よく生きていたわね、ノアさん」


 そんなやり取りもあり――――  


「うむ、予想以上に腕をあげたな、ノア」と書文。


「いえ、まだまだですね。師匠の足元にも及びませんよ」


「だが、今の実力で十分よ」


「十分? ……ですか?」


 「うむ、実はここに来たのは、この地域に面白い魔物が生まれると依頼を受けたからなのじゃ」


「この地域に? 私、ずっと住んでいますが初耳ですが?」


「あぁ100年に1度。竜種……つまりドラゴンじゃな」


「ド、ドラゴンですか!」と驚いたノアだったが、ファンタジーでの絶対的強者ドラゴンがこの世界でどのくらいの水準レベルが分からず、メイドリーに視線を送る。


「ドラゴン、確かに100年に1度出現する伝承が残ってますね。その強さは、時のバッドリッチ家君主さまが王国から正式に軍の派遣を依頼したとか……」


「ご先祖さまが自力解決できなかったの!」


「いえ、その時の君主さまは武闘派ではありませんでした。 現君主さまがギリ勝てるかどうかレベルですね。ドラゴンの強さは」


「応よ、そのドラゴンが出現するからと依頼を受けたのは良いが、ワシの仲間で怪我を負った者がいてな。暫く足踏み状態では、そこで皆にヒミツにしてワシが1人で来た」


「抜け駆けして、ドラゴン退治をするつもりでしたか! 相変わらず無茶をしますね」


「いやいや、流石にワシも年じゃよ。1人では辛いから手伝え」


「手伝え……ってそれ荷物持ちとか資金提供とかでしょ?」


「かっかかかか……バレたかのう」と書文は笑った。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「おかしいですわ」


「どうしたのルナちゃん?」


「私はノアさんの家にお泊りに来て、朝は2人で散歩、昼は町でノアさんが育った場所でのデート。夜中はパジャマパーティー……あわよくば、お風呂まで一緒に……あっ! そこはダメですよ。汚い所……そんなノアさん。私に汚い所はないだなんて……」


「うわぁ……」と流石のノアもドン引きだ。


「それが、どうして山奥へ荷物運びをしているのでしょうか!」


「まぁまぁ、ルナちゃんも本当は見たいでしょ? 書文先生のドラゴン退治」


「ぬぐぐぐ……た、確かに古来より、ドラゴン退治は聖人の役目。いつしか私もやる時ため参考にしなければなりませんが……」


「うん、ごめんね。本当は領主のお父さんが退治しないといけないけど、お父さんはまだ魔法学園で迷宮ダンジョンの正常化で帰ってこれないから」


「あっ! いえ、そうですね。ノアさんも領土を守るため……民衆を憂れる気持ちがあるのですから、戦いを見届けなければならないと使命があるのですね」


「使命? う、うん。そうだね、見届けるのが私の使命だからね!」


 ジト目で見るルナ。完全に疑っている。 


 完全に楽しんでいるのがバレているみたいだ。


「まぁ、リングサイドの特別席の料金と思ったら軽い軽い! 早く先行している先生とメイドちゃんに追いつこう!」


「はぁい……と、その前に先客ですわ」とルナは荷物を置いて昆を手にした。


「え?」とルナの視線を追いかけて目を上空に向ける。


 空には――――


「ワイバーン……ドラゴンの魔力に寄せられてきたみたいだね」


 上空を旋回するワイバーンもノアたちに気づいたようだ。


 一気に急降下を開始してノアたちに襲い掛かってきた。




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