第99話 ワイバーンたちの狂乱

 ワイバーン。 それも3匹だ。


 ドラゴンと同一視されたり、まったくの別物とされたり、国や地域によってその扱いは異なる。


 ドラゴンのような頭部。緑色の鱗。蝙蝠のような翼。 そして最大の特徴である二本脚。 


 ドラゴンと比べれば小型の魔物となるだろう。


 もしかしたら、ブリやハマチといった出世魚のように成長と共にドラゴンに変貌を遂げるのかもしれないが……それを確認した者はいない。


 さて――――


 そんなワイバーンが旋回して――――一気にノアたちを狙って急降下を開始した。


「来るよ! ルナちゃん」


「えぇ、わかってます!」


 ルナはいつの間にか手には武器を持っている。


「それは!」


「えぇ、カーディナルレッド家から取り寄せた旗。いつぞやの昆と違い、本来の聖女式旗手攻防術……お見せいたしますわよ!」


「え? ……あっ、うん(どこに、そんな物を持っていたのか! って驚いただけなんだけど……ルナちゃんのテンションが上がってるから良いか)」


 そんなノアの本心に気づかず、ルナは迫りくるワイバーンに向かって体を跳ねさせた。

 

 ワイバーンは驚く。


(へっ……馬鹿だぜ? コイツ? 俺たちに領域にノコノコと散歩にきやがったぜ……ほらよッ!)


頭から落下して加速していたワイバーンは、体を反転。 


減速して、向かってくるルナを待ち受ける。


猛禽類の如く、凶悪な足の爪をルナに向けて――――


「せい!」とルナはその爪を旗で払う。


(なっ……俺の腕が、腕がない!? ……畜生、畜生、痛みが、痛みが熱いよぉぉぉぉぉ!?)


 なんと、旗の一振りでワイバーンの足を切断。 さらには――――


(畜生、畜生め……がっ! 何を? コイツ、俺を踏み台にしやがった!?)


 空中でワイバーンの上に乗ると同時にジャンプ。 さらなる飛翔を開始する。


 さらに上空で旋回を続け、様子を窺っていた残りのワイバーンもこれには驚愕する。


(まさか……人間が我らの領域まで飛べた、だと!?)


(何、ぼさったしてやがる! 堕とせ! 撃墜だ!なっ、もう間に合わない……ぎゃあああああああああぁ!!??)


 慌てて顎を開き、魔力による火炎攻撃を試みるも、もう遅い。


 ルナの旗の先端はワイバーンの肉体を貫き……堅い堅い鱗で覆われていたはずのそれを軽々しく貫通させた。


「まず、1匹……そして2匹め!」


 ギロリとルナの視線が残り1匹のワイバーンを視線に捉えた。


 もはや、ソイツに戦意はない。 竜に近き者と言われる自尊心は再起不能まで傷つけられ――――


 (わあああ……逃げろ! 逃げるんだ!)


 クルリとルナに背を向けて逃走を開始する。 


 (大丈夫だ! ここは空中、いくらあの怪物でも追ってはこれ――――)


 そこでワイバーンの意識は途絶える。 高速で逃走を開始したワイバーンの背中に向けて、ルナは旗を――――


 投擲。


 後ろから突き抜かれ、自身に何が起きたのかわからぬままワイバーンは絶命した。


 「さて、これで2匹目ですが……最初に落としたワイバーンの始末はお願いしますよ。ノアさん」とルナは重力に身を任せ、落下しながら地上を見た。


 そして、地上では――――


 (己、俺の足を! 俺の仲間ダチりやがったな……許せねぇ! 俺たちが何をした! ただ、お前等を食おうとしただけじゃねぇか!)


 猛り狂うのは、最初にルナが足を切り裂き、地面に落としたワイバーン。


 獲物としか見てなかった存在に狩られる事への全否定。


 許せなかった。何よりも小柄な餌に殺されようとする理不尽に――――


 だが、対峙するノアはと言うと、


 「いやぁ、怒ってるね。 手負いの狐はジャッカルよりも狂暴とはよく言ったものだけど――――さてさて、手負いのワイバーンはドラゴンよりも勝るかな?」


 (舐める! この餌の分際で! 俺を、俺を何だと思っていやがる!)


 ワイバーンは地上戦でありながら、その機動力は衰えておらず。


 高速移動のままノアへ突撃を開始する。


 ―――――――――――――――――――――――


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