第83話 魔剣研究部
(ひぇ~)
ノアは内心、叫んでいた。
(なにこの設備! 魔剣研究部専用の鍛錬場、体育館より……いいえ校庭より広いじゃない!)
広かった。
充実した設備。 それに部員たちにも意識の高さが現れている。
ノアたちが入って来たの気づき一瞥しながらも、各々の鍛錬に意識を集中させていく。
(1人1人の練度が高い。これが全国優勝常連校の魔剣使いたち……)
ノアに悪い考えが浮かぶ。 これはノアの
戦ってみたい。そのためにどうすれば行動すればいいのか?
それを自分でも気づかぬ内に計算を始めてしまうのだ。
「どうですかな?」
「えっ!」とノア。 急にアルシュ先輩から声をかけられ、その内心を見抜かれたような気がして驚いたのだ。
「変な声を上げて、し、失礼しました。あまりにも皆さんが熱心に練習していたので見蕩れていましたわ」
「そうでしたか。ならば、皆に声をかけてやってください。喜びますよ」
「は、はい(完全に集中しきっている部員たちにどう声をかけろと?)」
(しかし、魔剣研究部か。 こうして誘われないかったら自分には縁がない場所だったかもしれないなぁ)
戦うための興が削がれたノア。キョロキョロと興味深く見学を続ける。
魔剣。
ノアは幼少期に魔剣に師事したことがある。
魔剣の使い手に師事していたのではない。 魔剣の内部に存在していた人格に師事していたのだ。
魔剣ソウカク。
異界の強者の魂を封印して概念強化された魔剣だった。
その強者は、ソウカクという名前からわかる通りに合気道の創設者 武田惣角である。
一時期、惣角から合気だけではなく剣術も師事していたが……
師曰く――――「気の毒だが、お前さんにゃ剣に才ってのがない。生まれた時に落っことしてきたんだろうよ」
そんな事を思い出していた。 しかし、部員たちが振るう魔剣は自分が知る魔剣ソウカクとは違う物のように思えた。
部員たちは魔力を剣に灯し、火を操ったり、斬撃を飛ばして離れた的に当てている。
(う~ん 師匠と言うか魔剣ソウカクも国が保存されていた物だし、なんていうか……レベルが違う?)
それは失礼かと、頭を振って考えなおすノア。 その様子を案内人のアルシュ先輩はどう考えたのか?
「では、実際に剣を振るってみますか」
(うっ……ついに来たか)
ノアは嫌な表情が顔に出ないように抑える。 彼女は剣が使えないのだ。
「こちら側の魔剣はどれを使っても構いません。一級品とは言えませんが、それでも僕の自信作ですよ」
「自信作ですか?」
「えぇ、魔剣を振るうだけが魔剣研究部ではありません。僕は自分が振るうのに相応しい魔剣を自分の手で作るのが夢なのですよ」
自分が振るうのに相応しい魔剣。
多少、ナルシストのような発言ではあるが、全国優勝の魔剣使いが言えば否定も批判のしようもない。
「悩むようでしたら、こちらを。僕の自信作になります」
悩むも何も、魔剣の良し悪しすらわからないノアだ。 薦められた剣をそのまま手に取る。
「これは、どういった魔剣なのかしら?」
「はい、これは持ち主の魔力に反応して、様々な特性を付加してくれます。 なにか感じませんか?」
「う、うん! 感じるよ。 しゅ、凄いパワーだ。手にビリビリと震動みたいなのを感じるね!」
無論、嘘である。 魔力……それも剣と同様で、ノアに取って苦手分野だった。
そもそも、ノアは拳での戦いしかできない。
「では、僕はこちらの魔剣を……基礎的な物ですが、これが満足に振るえないなら魔剣使いとは言えない業物です」
「え? 先輩が相手なのですか?」
「えぇ、もちろん手加減はさせていただきます」
優雅に頭を下げるアルシュ先輩。
これに部員たちも鍛錬の手を止め、2人の戦いに注目し始めた。
ノアは――――
(ひぇ~ 勘弁してよ!)
彼女にしては非常に珍しく、戦いに関する出来事で泣き言を漏らしそうになっていた。
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